安倍元総理を銃撃した男「元自衛官」というけれど…「自衛官だったら銃ぐらいつくれる」は本当か

平藤 清刀 平藤 清刀

安倍晋三元総理大臣が奈良県奈良市で街頭演説中、無職の男に銃で撃たれて死亡した。男がかつて海上自衛隊で勤務していた経歴が明らかとなり、多くのメディアで「元自衛官」が連呼されている。自衛官は、いつ「元自衛官」になるのか。そして、いつまで「元自衛官」と呼ばれつづけるのだろうか。

どの段階で「自衛官」になるかというと……

7月8日午前11時30分頃、奈良県奈良市の近鉄大和西大寺駅前に、銃声が響いた。ターゲットにされたのは、街頭演説をしていた安倍晋三元総理大臣。銃を撃ったのは41歳「無職の男」で、警備の警察官によってただちに取り押さえられ、殺人未遂の現行犯で逮捕された(後に容疑を殺人に切り替え)。

一方、安倍元総理はドクターヘリで奈良県立医科大学附属病院へ搬送されたが、手当の甲斐なく亡くなった。

安倍元総理を撃った男が逮捕された速報が流れてから、さほど時間をあけずに流れてきたのが「容疑者は元自衛官」という情報だった。それ以降の報道では「元自衛官」のワードが連呼された。

テレビ報道によると、男は2002年海上自衛隊に入隊。2005年に退職。海上自衛隊に3年なら「1任期」で退職したということだ。筆者は陸上自衛隊だったが、1任期で退職する者と2任期以上を継続する者は半々ぐらいの割合だった。1任期で去る理由は、自衛隊に飽きた者や外の世界に就職をみつけた者など個人によって様々である。

防衛省からも情報が出ている。8日付で配信された産経新聞の記事によると、同姓同名で同一人物とみられる男は、艦に装備された火器を扱う砲雷科員として護衛艦に乗り組んでいたという(防衛省では引き続き本人か否かを確認中)。

では、自衛隊でどれくらい勤務したら元自衛官と呼ばれるのか?

筆者が入隊した当時、教官から「服務の宣誓」に署名・捺印したときから自衛官だといわれた。服務の宣誓に署名・捺印せずに自衛隊を去った者もいる。彼らは「入隊しなかった」ので、元自衛官ではない。

いったん自衛官になったら、たとえ1日で逃げ出しても「元自衛官」となり、経歴は一生ついてまわる。そのため、安倍元総理を撃った男が退職後17年も経つのに、まだ「元自衛官」と呼ばれるのである。

「自衛官だったら銃ぐらいつくれる」は本当か

安倍元総理の暗殺に使われた銃の外観がガムテープでぐるぐる巻きであることから「自作ではないか?」と噂されている一方で、ショットガンの銃身を切り詰めて自作のグリップをガムテープで巻いただけという見方もある。また9日朝、NHKは「手製の銃」と報道している。家宅捜索を受けた自宅からも、自作の銃が数挺発見されたという。

SNSでは「自衛官は銃を扱える」から飛躍して「自衛官だったら銃ぐらいつくれる」という投稿が散見される。個人的に独学で知識をもっている者がいるかもしれないが、自衛官としては必要のない知識である。

前出の記事では、小銃の扱いや整備について年1回以上の訓練を受けていたと書かれているが、自衛官として当たり前のこと。しかも年1回では、訓練回数として少なすぎる。もっとも護衛艦の乗組員だったというから、頻繁に銃に触れる機会はなかっただろう。

これも結論からいうと「自衛隊に勤務していただけでは銃をつくれるようにならない」。

日常的に銃を使って訓練をすることが多い陸上自衛隊の普通科部隊でも、銃のつくり方は教わらない。ちなみに筆者は戦車部隊で2任期勤務していたが、戦車のつくり方を教わったことはない。

自衛隊で勤務していたから射撃がうまいとか銃をつくれるという思考は、まったくの偏見としかいいようがないのだ。

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