安倍晋三元首相(享年67)が8日に奈良県内で自民党の参院選立候補者の応援演説中に銃撃されて死亡した。この事件について、松野博一官房長官が11日の会見で「警察庁からは『今回の警護・警備には問題があったと認識している』との報告を受けている」と語ったことを受け、元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏が14日、当サイトの取材に対し、現職時代の経験を踏まえて見解を語った。
小川氏は13日に事件現場を取材。殺人容疑で送検された元海上自衛隊員の山上徹也容疑者(41)の犯行当時の行動を分析しながら、警護体制の問題点を検証した。
小川氏は「要人警護の場合、よく警察官が言われるのは『100か0(ゼロ)』。何も起こらなくて当たり前、何かあればゼロ、ということです。今回のようなことは完全なマイナスです」とした上で、「安倍元首相に対する警視庁のSPは1名のみ。これはルールで決まっています。今回、応援演説先である場所を管轄する奈良県警では、警備部から6人が警護要員として付いており、それプラス、地元の奈良西署等の私服の警察官がいたと思われる。だが、SPを含む警護員の人員と配置が適切だったのか。奈良県警の警察本部長はキャリアで、警視庁の警備局警備課の警護室長を務めるなど、公安、警備のエキスパートとして、まとめ役、トップだったエリートの一人だった。それでも、今回の事件では、いろいろな角度から動画が撮影されており、そこからさまざまな問題点が確認された」と振り返った。
小川氏は「最初の発砲音から2秒くらいの間があって、2回目の発砲音が聞こえた。安倍さんは前方にいる聴衆に向き合っていて、発砲音がした時にはすぐではなく、時間をおいて振り向いて、再び元に戻ろうとしたが、その時、まだ横向きの姿勢だった時に左肩あたりから弾が入っているのが映像等で確認できる。その1発目の時、斜め後ろにいた警護員の人は素早い動きでしゃがんでいて、他の警護員は棒立ちの者もいた。その後、煙が上がっている方を見たら(凶器のようなものを)構えている者がいたので、ヤバいと思って、防弾用(防刃用)のカバンを持ったが、それは2発目の銃弾が放たれた直後で遅かった。しゃがむ暇があったら、警護対象者(安倍さん)に覆い被さるなり、大声で『伏せろ!』と言うべきだった」と指摘した。
一方、同氏は「ただ、私も正直言って、その時、そうした行動ができたかどうかは分かりません」としつつ、「日頃から訓練をしていないとできない」との見解を語った。
そこから、小川氏は自身の現職時代を回顧した。「私も若い頃から何度も訓練をした経験があります。SPの経験はありませんが、1度だけ、警護員として、1986(昭和61)年頃、私がいた神奈川2区の管内で(衆院選の)立候補者である小泉純一郎候補の応援演説で当時の中曽根康弘首相が来られた時に、中曽根さんがいた後ろには宣伝カーがあって、そこから2・5メートルくいら離れた所に配置されとことがあり、SPの人たちと連携した。その時、拳銃の使用は『まず、ないだろう』として想定せず、刃物など凶器を持って近づいてきた者がいれば両手を広げて犯人に向かっていけと教えられた。その時はそうなんだろうなと思っていた」という。
小川氏は「大事なことは、360度、警護対象者を警備しなくてはならない場所での『背面監視』です。要警護者に背中を向けた状態で、自分の前方を注視する。そうした状態の者が要警護者を360度、円形に囲んで警護する。理想的なのは後ろに壁があることで、それならば180度の警護で済む。中曽根元首相の時のように後ろに宣伝カーがあってもいい。ただ、演説する側は、多くの人に聞いてもらいたいと言うことで、必ずしもそうならないこともある。なぜ、今回の奈良では、安倍さんの安全を確保することができなかったのか。それは今後、検証する必要がある」と課題を挙げた。
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