「蚊に刺されていても、たたかない方がよい」説はウソ!? 研究者「最後まで吸わせても、かゆみに変化なし」

山陰中央新報社 山陰中央新報社

 7月に入り、蚊が現れる季節を迎えた。昔から「刺されている最中はたたかない方がよい」「特定の血液型は刺されやすい」といった話を聞くが、本当なのだろうか。害虫の生理・生態に詳しい島根大生物資源科学部の泉洋平准教授(48)に、うわさの真偽と蚊の生態について聞いた。

二つのタイプが存在

 泉准教授は主に蚊やゴキブリといった害虫の生態や防除法について研究する。殺虫剤のバルサンをはじめ、防虫グッズの製造販売で知られるLEC(レック)株式会社(東京都)の「バルサン製品開発アドバイザー」を務める、害虫の専門家だ。

 泉准教授はまず、蚊の基本情報について教えてくれた。蚊は獲物の体に止まって血を吸い、その際に鎮痛効果を持つ唾液を注入する。唾液に対する人体の防御反応で神経が刺激され、かゆみが生じる。日本には約100種類の蚊がいるとされ、大きく「探索型」と「待ち伏せ型」の二種類に分けられる。

 探索型は獲物を求めて広範囲を移動する。洗濯物の取り込みの際に入り込むため、家の中で目にする蚊は多くがこのタイプ。体が茶褐色の「アカイエカ」が多く、活動は8月がピークで、以降はあまり見なくなる。ただ、成虫のまま越冬するため、時折、秋や冬に見る季節外れの蚊はこのアカイエカだ。

 待ち伏せ型は林や森に生息し、訪れた獲物を狙ういわゆる「ヤブカ」と呼ばれるタイプ。体にしま模様がある「ヒトスジシマカ」が有名で、こちらは10月ごろまで活動する。成虫は卵を産んで死に、卵が越冬するため、冬に見ることはないという。蚊は種類によって生態が意外に異なっている。

俗説の真偽は

 「刺されている最中はたたかない方がよい」という話は本当なのだろうか。たたかなければ、蚊が注入した唾液を少し吸っていくからかゆみが軽減される、たたいてつぶすと蚊の体内にある血が血管内に逆流して危険、といった話を聞いたことがあるが、どうなのだろうか。

 泉准教授は「(吸われている最中に)たたく、たたかないの差は無いと思ってよい」と断言した。唾液を吸っていくという話について「唾液を注入された時点で人体は反応する。吸っていく可能性はあるかもしれないが、それによってかゆみに大きな変化が出るとは思えない」との見解を示した。

 逆流については蚊をつぶした際、蚊の体内の血液はほとんど皮膚の上に散らばるため「もし逆流したとしてもごく微量で健康に害はない」とした。たたいてもたたかずとも問題はなさそうだが、血を吸った蚊がやがて卵を産んで数が増えると思えば、そのまま見過ごすわけにはいかない気がする。

 「特定の血液型は刺されやすい」という話についてはどうか。テレビ番組で、異なる血液型の人を複数人用意し、どの人に蚊が集まるかといった検証場面を見た記憶がある。泉准教授は「私もテレビ番組で見たことはあるが、学術的な論文ではそういった事実は確認されていない」と否定した。

 蚊は二酸化炭素に反応して寄ってくる習性がある上、それぞれ好みの臭いがあるという。呼吸量や体臭、年齢といった血液型以外の要因で蚊が集まった可能性があり、血液型の好みがあるかどうかは断言できないとのことだった。

水がたまる場所をなくそう

 俗説の真偽について、正しい見解を聞くことができてすっきりした。専門家の目線から蚊を避ける手段も教わりたい。

 泉准教授によると、蚊の幼虫は水場で繁殖するため、中庭のくぼみや雨どいにたまった水で幼虫から成虫になって家に侵入してくることがあるという。「水がたまった空き瓶や排水の升があると幼虫が湧きやすい。水がたまる場所を無くすように意識するとよい」と助言した。家の回りに水がたまる場所は意外に多く、特に雨の後は小まめに掃除をするのがよさそうだ。

 蚊が出る森や山に行く場合には肌に吹きかけるタイプの虫よけスプレー、または刺された後に使うかゆみ止めが一番効果的だという。泉准教授によると、刺されてかゆみが生じた箇所をかくことで刺激を与えると、かゆみがより広がることが分かっている。「特に子どもの場合は我慢できずにかいて悪化してしまいがち。夏場に子どもと森や山に行く時は虫よけを常備した方がよい」と泉准教授は呼びかけた。

 豆知識として、かゆみ止めがない時は冷たい缶ジュースを患部に当てるとかゆみが和らぐという。患部の温度を下げることで感覚を鈍らせ、かゆみを感じにくくすることができるため、応急処置にはなりそう。国内で蚊に刺されても重大な症状はほとんど起こらないが、専門家のアドバイスに基づく対策を知っておくと安心できる。

   ◇   ◇

 夏はただでさえ気温が高く、通常の生活でも不快になることが多い。今シーズンは梅雨明けが早く夏が長くなりそうだ。専門家から教わった蚊の対策を実践し、少しでもストレスのない夏を送りたい。

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