香港、ウクライナ…「次は自分たちだ」 中国による軍事侵攻に備え、自主防衛意識を高める台湾

治安 太郎 治安 太郎

中台関係は悪化の一途を辿っている。台湾有事を念頭に置いた揺さぶりか、中国は台湾に対する経済攻撃を躊躇しない。中国の税関総署は6月、台湾産の高級魚ハタの輸入を一斉に停止すると明らかにした。中国側は台湾から輸入されるハタから複数の禁止薬物が検出されたためと説明しているが、専門家の間では台湾に対する経済攻撃だとの見方が一般的だ。中国は昨年3月にも台湾産パイナップルなど果物3種類を相次いで輸入を停止した過去がある。昨年以降、日本のスーパーなどで台湾産バイナップルを見る機会が増えたが、経済攻撃を受けたパイナップルを台湾が日本へ代替的に多く輸出するようになったのだ。

こういった中国からの経済攻撃、香港の北京化、そして今年に入ってのロシアによるウクライナ侵攻(特に米軍が直接関与しなかったこと)もあり、台湾市民の間では「次は自分たちだ」とこれまでなく危機感が高まっている。台湾のシンクタンク「台湾民意基金会」が6月に実施した世論調査結果によると、バイデン大統領が5月に台湾有事で米軍が関与する意思を示したことについて、それを「信じる」と回答した市民が40.4%だった一方、「信じられない」と回答した市民は50.9%となり過半数を上回った。また、台湾民意基金会は3月にも同様の調査を行ったが、台湾有事に対して米軍が関与すると回答した人は34.5%となり、昨年10月に実施された同じ調査から30%あまりも低下した。

この調査結果から読み取れるのは、ウクライナに関与しない米国に対して懸念を強める台湾市民の姿だ。最近、台湾の市民の間では軍隊に入隊する需要が増え、有事に備えた退避対策や自己防衛対策、食糧の蓄えや応急手当などのノウハウを身に付けようとする動きが活発化している。たとえば、台湾の警備会社の売り上げが右肩上がりとなり、若者たちが警備会社主催の軍事訓練に参加し、エアガンの使い方から携帯用対戦車兵器を含む各種武器の取り扱い方を学んでいるという。台湾有事の可能性は現時点で低いものの、緊張がさらに深まれば市民による自主的な行動がもっと拡がっていくと思われる。

台湾政府も市民の自己防衛意思を高めようとあらゆる対策を講じている。台湾政府は4月、中国による軍事侵攻に備えて民間防衛に関するハンドブックを公表した。このハンドブックには、スマートフォンアプリを使った防空壕の探し方、水や食料の補給方法、救急箱の準備方法、空襲警報の識別情報などが記述されており、より多くの市民へ民間防衛への理解を呼び掛けている。また、昨年4月には、有事の際に市民が早期に防空壕を発見できるように防空壕の場所を示すアプリの運用を開始した。台湾には日本統治時代の防空壕も残っているが、建築法でマンションや工場、学校や映画館など5~6階以上のビルに防空壕の設置が義務づけられており、全土で10万6千あまりの防空壕が存在するという。

今月、香港が中国に返還されてからちょうど25年となり、記念式典には習氏が香港を訪れた。また、民主活動家が軍によって鎮圧を受け多数の犠牲者が出た天安門事件から33年を迎えた先月、香港中心部にあるビクトリアパークでその追悼集会を開いていた男性5人と女性1人が香港警察に逮捕された。もうそこに昔の香港はない。台湾市民はそういった香港の北京化を目の当たりにし、何としても台湾の北京化をさけなければならないと思っている。台湾有事は日本の安全保障と切っても切れない関係にあり、日本人も台湾で拡がる自主防衛意思の変化を着実に追っていく必要があるのではないだろうか。

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