この橋わたるべからず 進んだあなたは遭難のリスク大 「地面が柔らかくなった」「蜘蛛の巣が増えた」は登山道逸脱のサイン

竹内 章 竹内 章

山を楽しむハイカーらの遭難理由の1位が「道迷い」。実は低山でルートを見失うことが多く、遭難者は事前情報、道、地形、地図、登山道のサインなどを見落としていたことが原因です。視界不良や焦り、おしゃべりに夢中になって足元しか見ておらず、いつのまに正しい道から外れてしまい…。「気づいたら迷っていた」という時、あなたは冷静になれますか。

「登山中に「地面が柔らかくなった」「岩や橋が苔むしている」「蜘蛛の巣が増えた」「道がやけに斜め」「森の匂いが強くなった」などの場合は登山道を外れた可能性が高い。地図やGPSで現在地を確認しましょう。まぁお茶でも飲んで落ち着いて、可能なら戻る。無理なら地図と地形を見て考えてください。」

登山用GPSアプリ「ジオグラフィカ」の開発者でもある松本圭司さんが自身の経験も踏まえたツイートが話題です。松本さんに聞きました。

「私も道迷いをしました」

ー苔むした橋が印象的です

「この橋があるのは東京・奥多摩の御前山の下の方です。境橋から登るコースで栃寄沢沿いに登って、最後の部分で沢からトラバースに移るカーブを見逃して真っ直ぐ行ってしまった時に辿り着きました」

ー「あれっ」と思うか、「まあいいか」とそのまま進んでしまうか、岐路になりそうです

「苔だらけの橋を見てこれは間違えたなと思って引き返しました。道迷いにも兆候があります。木道や橋、道標が苔だらけで朽ちていたら、古い登山道に迷い込んだのかもしれまん」

ー「迷ってしまった」と気づいたら

「地図を出しても手遅れです。紙の地図は現在地がある程度分かっている状況で使うものだからです。もし現在地が分からなくて、おそらく登山道を外れたなと思ったのなら来た道を戻って下さい。持っているならGPS端末やアプリで現在を確認するのもリカバリーに有効です」

「現在地が分からないまま勘を頼りにさまようと、道迷いだけでなく滑落や転倒のリスクが増します。道迷いは、出来るだけ早く対処して正しいコースに戻ることでダメージを最小に抑えられます。大抵の人は一瞬迷ってもすぐに復帰するために遭難にまで至りません。でも「戻る」を怠ると、本格的に遭難して、最悪の事態も考えられます」

ー迷いやすいポイントはありますか

「地形が変化する地点や、のっぺりした地形、下山では尾根が分岐するため間違った尾根に入り込みやすいです。山頂から下山方向を間違えるのも定番です。日の出前や日没後の行動は、ヘッドランプを持っていても分岐や道標を見落としやすいため道を間違えることがよくあります。悪天候時も同様で、視界が悪い時は道も見えないため慎重に行動しなくてはいけません」

道迷い遭難の多くは低山

警察庁が公開した令和3年における山岳遭難の概況によると、全国の遭難者数3075人(うち死者行方不明者283人)のうち、道迷いは1277人。42%もの人が道迷いで遭難しています。過去5年間のデータも道迷い遭難が占める割合は同様です。さらに道迷いを発端に転倒・滑落した事故は「転滑落」に分類されるため、実際には道迷いを原因とする遭難者数は数字以上と見られます。

都道府県別では、遭難者数の多いのは長野276人、北海道216人、東京195人、兵庫167人です。

ワースト4位の兵庫県の最高峰は最高峰は氷ノ山の1510m、六甲山の最高峰は931mです。兵庫には長野や北海道のような高い山はありませんが、遭難の多くは身近な山歩きが楽しめる六甲山系で起きています。登山道が限られる高山と比べ、低山には登山道以外に獣道や作業道が無数に走っています。特に六甲山系は登山コースが多く、分岐も多いため、判断を誤るといとも簡単に道に迷ってしまいます。

兵庫県警のサイトによると、六甲山系の遭難者は40歳以上の中高年者が全体の約7割を占めます。2006年10月には、道迷いで遭難した男性が24日ぶりに発見されるという「奇跡の生還」が話題になりました。

安全に登り、下りるには

道迷い遭難を防ぐためには。予定コースを入念に下調べし、地図とコンパスとスマートフォンの山地図アプリを携帯し、現場で使うことです。

松本さんは「登山に関して何も知らずに山に登る方が多いように思います。低い山だからと午後から登り始めたり、地図もヘッドランプも雨具も持っていなかったり、地図も読めなかったり。本に書いてある常識的なことも知らずに山に関わるのは危険です。登山雑誌を1年購読すれば、基礎的な知識は手に入りますし、気軽に読める教本も多く出ています」と話します。

ビギナーに限らず、遭難は長年登山をしてきた人にも起こり得ます。「多く聞かれるのは、ベテラン中高年男性の単独遭難です。単独で遭難すればパーティー登山の3倍死にやすいという警視庁の統計があります。お骨も見つからない方も少なくありません。経験を過信することなく、謙虚な気持ちで山に登らせてもらう気持ちが大事なのではないでしょうか」

松本さんはメディアプラットホーム「note」で情報を発信中。「登山のリスク管理」「夏の低山を涼しく登るコツ」「登山をはじめたら本を読みましょう」などの記事を通して、安全安心の登山を呼び掛けています。→https://note.com/keizi666

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