子どもの「考える力」を育む「モンテッソーリ教育」が、家庭でもできる!…まずは「食べる」ことから始めてみよう

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モンテッソーリ教育は、最年少で将棋5冠になった棋士の藤井聡太さんも受けたと注目されています。「ぜひわが子に…」と思っても、モンテッソーリ教育の幼稚園も保育園も家の近くにないから無理だと諦めていませんか。専門の施設に通えなくても、「食べる」ことに注目すれば、モンテッソーリ教育のエッセンスを家庭に取り入れることができます。幼児食インストラクターで食育インストラクターである筆者が、家庭でできるモンテッソーリ教育を子どもの「食べる」を視点に紹介します。

モンテッソーリ教育と「一人で食べる練習」の共通点とは

モンテッソーリ教育は、「子どもには自分で自分を教育する、育てる力がある」という「自己教育力」の考え方をふまえた教育法です。子どもが自発的な力を発揮できるよう成長を促していくため、積極性や思考力が身につくと言われています。

モンテッソーリ教育といえば、「静まり返った教室で子どもたちがそれぞれ活動する」をイメージする方も多いでしょう。モンテッソーリ教育では子どもたちの活動を「遊び」ではなく、「お仕事」と呼びます。

登園してどのお仕事をするか、子どもが選びます。モンテッソーリ教育の教師が子どもに合ったお仕事を紹介することはありますが、あくまで決めるのは子ども自身。お仕事につかう道具は、子どもたちの手が届く高さの棚に選びやすく並べられます。

お仕事につかうもの全てを家庭で用意したり、モンテッソーリ教育の教師のような専門知識をママが学んだりするのはむずかしいですね。しかし、「食べる」ことに着目すると、家庭でもお仕事のエッセンスを取り入れやすくなります。食事やおやつの時間は毎日かならずあるので、無理なく意識できるでしょう。

▽食べるために必要な、目と手と口の協応運動

「食べる」ことでお仕事のヒントを得るために、まずは「食べる」とはどんな行為か確認しましょう。手づかみ食べを例に、動作を一つ一つ分解して以下にまとめました。

・ 食べたいものを、目で見て確認する
・ 手を食べものの近くへ動かす
・ 食べものをつかむ
・ つかんだ食べものを、口の近くまで動かす
・ 口を開ける
・ 食べものを口に入れる
・ つかんだ食べものを、手から離す
・ 口を閉じ、噛んで飲みこむ

子どもが最初に行う手づかみ食べでも、こんなにたくさんの動作があります。さらに求められるのが、ちょうどいい塩梅。食べ物をつかむためには手が近すぎても遠すぎても、つかむ力が強すぎず弱すぎても、しっかりとつかむことはできません。食べるためには、目と手と口が適切に動かすことが大切です。食べることは目と手と口で複数の動作を同時に行う協応運動であり、難易度の高い行為です。1日3回の食事とおやつの時間は、子どもにとって毎回が挑戦の時間ともいえるでしょう。

▽「食べる」に注目して、モンテッソーリ教育のお仕事を家庭に取り入れよう

実は、モンテッソーリ教育のお仕事には、目と手の協応運動のためのものが数多くあります。一人で食べられるように練習すると、モンテッソーリ教育の幼稚園や保育園で行われているお仕事と自然と重なります。食べる練習のサポートをママが意識すれば、モンテッソーリ教育のお仕事を家庭に取り入れることができるでしょう。上手に食べられるようになる練習をするコツは、食事の時間以外に行うこと。食事の時間に上手にできないために子どもが食べることを嫌わないようにするためです。食事以外の時間に楽しく練習することをおすすめします。

目と手の協応運動を行うには、「つかむ」「つまむ」「はがす」ようなおもちゃがよいでしょう。取っ手がついたパズルやシール貼りがおすすめです。フェルトボールや大きめのビーズをスプーンや箸で移動させるのもいいですね。どれも、モンテッソーリ教育のお仕事にもよくあるものです。

   ◇   ◇

▽Pさん/子ども・2歳半女子と5歳男子

そろそろスプーンで食べられるようになってほしいと私は思うけど、上手に食べられなくて結局いつも手づかみしてしまっていた娘。
ある日、児童館に行ったらおままごとのスプーンで楽しく遊んでいました。児童館のおもちゃを参考に、わが家にもスプーンなどのおもちゃを用意したら、いろいろなものをのせたりすくったりしました。しばらくしたら、上手にスプーンで食べられるようになって嬉しかったです。おもちゃなら、うまくできなくても私がイライラせず見守ることができたのも、助かりました。

   ◇   ◇

食べることに直接関係がない動作でも、楽しみながら目と手の協応運動ができるおもちゃは多くあります。子どもが大好きなぽっとん落としのような「落とす」動作のものもおすすめです。

目と手の協応運動を意識すると、ママにはいたずらに見えた子どもの行為が全く違ったものに見え始めるでしょう。例えば、ティッシュペーパーを何枚も引き出したり、引き出しの取っ手をつまんで引っ張ったりすることは、子どもが目と手の協応運動を習得するチャンスです。無理のない範囲で子どもに自由にやらせるか、代わりのものを用意してみてください。

ティッシュペーパーなら、引っ張り出された分をファスナー付きの袋に入れて使うとか、ティッシュペーパーの空き箱に布を入れて子どもに好きなだけ引っ張ってもらうのはいかがでしょうか。

お手伝いは運動!?モンテッソーリ教育の「日常生活の練習」とは

モンテッソーリ教育の領域の一つに、「日常生活の練習」があります。その内容は、着替え、身だしなみ、掃除、料理の手伝いをするなど、自分自身や家事などの日常生活に関わることです。日常生活の練習は、乳幼児期の子どもの2つの特性が大きく影響します。1つは大人と同じようにふるまいたい、行動したいと願う「模倣期」、もう一つは自分の思いのままに体を動かせるようになりたい、そのために集中的に練習する「運動の敏感期」です。モンテッソーリ教育での日常生活の練習は、体を動かす運動の一つとして位置づけられています。

食べることは、この日常の生活の練習を家庭で実践するヒントにもなります。

▽料理や食事の準備・後片付けこそ、日常生活の練習を実践するチャンス

ママが料理をしていたりお皿を洗ったりしていると、「やりたい!」と子どもがせがむことがありませんか。子どもにやってもらうと面倒なことが多いから、実はありがた迷惑に感じることもあるでしょう。

しかし、子どもがやりたいと言い出したときこそ、日常生活の練習のチャンスです。子どもは「大人と同じことができるようになりたい」「自分の体を思いどおりに動かしたい」と本能的に感じています。子どもがやりたいことに挑戦できるように、サポートしてあげましょう。

料理や食事の準備・後片付けには、幼児でもできることは以下のように数多くあります。

・ 野菜を洗う
・ レタスのような葉物野菜をちぎる
・ ごまをする
・ カトラリーやランチョンマットを並べる
・ 飲みものをコップに注ぐ
・ 料理を乗せたお皿や飲み物を入れたコップを運ぶ

食べることと同じく、料理や食事の準備・後片付けには目と手の協応運動も大切です。さらに、食材や食器の重さによりボディコントロール力を身につけることができます。1日3回の食事におやつをプラスすれば、意識しなくても日常生活の練習をおこなうチャンスが1日に4回もあります。食べることは毎日のことなので、失敗してもすぐに挽回のチャンスがあるのもいいですね。

▽料理や食事の準備・後片付けを子どもがやりやすくするコツ

子どもが料理や食事の準備・後片付けをする際には、子どものサイズに合わせることを意識してください。子どもが作業しやすいように、大人より小さいサイズの道具や踏み台を用意しましょう。

安全面に配慮しつつ、できる限り本物の道具を用意すれば、子どもは「大人と同じことができた」と満足感を得ることができます。コップやお皿は、ガラスや陶器のように割れるけど重さがあるもののほうが、実は子どもには使いやすいです。「落としたら割れてしまうから、そっと置こうね」と説明すれば、子どもはやさしくていねいに扱おうとします。

ママのように野菜を切りたいと子どもにせがまれたら、ぜひ切らせてあげてください。子ども用の包丁を買うのもよいでしょう。

「まだ包丁は…」とためらう場合には、モンテッソーリ教育でよくつかわれるバターナイフはいかがでしょうか。バナナのようなやわらかい食材ならバターナイフでも十分に切れます。子どもが使いやすいサイズである点も、メリットです。

ちなみに、モンテッソーリ教育を開発したマリア・モンテッソーリ博士がつくった国際モンテッソーリ協会(Association Montessori International)によるウェブサイト「Aid to Life」の日本語版が、2022年春に公開されました。サイト名の「Aid to Life」はモンテッソーリ教育の根幹を表した言葉の一つで、生きるための援助と言い換えることができます。

このサイトでは子どもの自然な発達を大人がどのように援助すればよいか紹介されています。イヤイヤ期、食事、排泄、自由と制限の与え方など、具体的で分かりやすいアドバイスが満載。現在は0歳から3歳までですが、今後対象は思春期まで紹介するそうです。是非参考にしてください。

食べることからモンテッソーリ教育を家庭で始めよう

本格的なモンテッソーリ教育には、専門教育を受けた教師、整えられた環境、子どもの発達に合わせた教具が欠かせません。しかし、ママが専門家でなくてもモンテッソーリ教育の視点を持てば、家庭に取り入れられるモンテッソーリ教育があります。家庭でモンテッソーリ教育を始めるヒントにおすすめしたいのが、「食べる」ことです。毎日の食事やおやつの時間には、子どもが一人で食べるときに上手にできない動作を探してみましょう。子どもが料理や食事の準備・後片付けに興味を示したら、まだ幼いから、危険だから、面倒だからとためらわずに任せましょう。食べることから、モンテッソーリ教育を家庭で始めてみませんか。

   ◇   ◇

◆大沢有貴子(おおさわ・ゆきこ) 家庭学習サポート専門家、ライター。お金も手間もなるべくかけず、自立して自学自習ができるような家庭学習のサポート法を追及。幼児食インストラクター、食育アドバイザー、食生活アドバイザーでもあり、モンテッソーリ教育講座の企画・運営もおこなっています。10代の息子と娘の母です。

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