ウクライナ侵攻でより困難さ増す「中国との付き合い方」 米国との結束強化が、日中関係のリスクに

治安 太郎 治安 太郎

岸田政権は発足以来、これまでの歴代自民党政権を継承するように対米重視の姿勢を貫いている。5月の日米首脳会談ではバイデン大統領と強固な日米関係を改めて確認し、その後に主催した日米豪印によるクアッド首脳会談では自由で開かれたインド太平洋の実現に向け、今後5年間で6兆円規模のインフラ支援・投資を途上国へ実施する方針を明らかにした。そして、岸田総理は6月下旬にスペイン・マドリードで開催されるNATO首脳会合が出席する予定だが、ここからはインド太平洋におけるクアッドを超え、価値観を同じくする国々へ接近したいという本気が滲み出ている。近年、英国やフランスなどもインド太平洋に接近、関与する姿勢を示しており、岸田総理の中にはアジア版NATOの実現は困難でも、インド太平洋の安全保障網(日米同盟やオーカス)に欧州諸国を関与させたい狙いもあることだろう。

だが、ロシアによるウクライナ侵攻も相まって、今日日本の対中露外交は困難を極めている。ロシア外交官の国外通報や高級品目の輸出禁止など、岸田政権はロシアに対して主導的に制裁を強化しているが、当然のごとくロシアも対抗措置を活発化させている。5月には日本人外交官の国外追放に踏み切り、最近では6月7日、北方領土周辺で漁業活動を行う日本漁船を拿捕しないことを約束した日露漁業協定(1998年に両国で締結)の履行を停止すると明らかにした。

政権の中にはロシアからの対抗措置はやむを得ないという声もあるかも知れないが、日露関係の冷え込みは長期化が避けられず、今後も同様に何かしらの制裁措置が発動されることだろう。ここまで来ると我慢比べの様相だが、ロシアでプーチンが大統領の座から降りない限り、日露関係が改善に向かうことはなさそうだ。

そして、日本経済の今後を考慮すれば、ロシアより大きな課題は中国との向き合い方だ。岸田政権の外交安全保障政策は、中国もかなり想定済みだったと思われるが、やはりそれについては常に警戒しているはずだ。日本が米国と結束を強化する中、中国は日本がどう接してくるかを真剣に見極めているところだろう。

そのような中、中国外交トップの楊潔篪(よう・けつち)政治局委員は7日、日本の秋葉国家安全保障局長と電話会談を行い、日中間で相互信頼や協力を強化するべきだとした一方、健全な日中関係を発展させるためには新旧の課題に向き合う必要があるとの見解を示した。新旧というのは日中戦争などの歴史問題、そして今日の米中対立や台湾、日米豪印によるクアッドなど中国が懸念を抱く諸問題を指していると考えられるが、日中関係の冷え込みが予想されるなか、両国の政府高官がこういう形で意見を交換できる機会というのは極めて重要だ。内外の多くの専門家からさまざまな懸念が示される中、そのリスクを軽減するのは外交、政策の役目である。

しかし、それは難を極める。国際政治上、対立する大国間の狭間で中立的、第3国的立場を維持することは決して簡単ではない。たとえ一定の期間それができたとしても、中長期的スパンではあらゆる難題に直面することになる。これは米中対立が激しくなればなるほど日本にとっては難しい課題となり、米中対立と日中関係を二元化することは不可能に近いだろう。

昔、日本が中国を経済支援していた時、政経分離は機能していた。中国としてはまずは経済支援が必須だったので、政治を前面に出す政策は取ってこなかった。しかし、今では大国となり、台湾やオーストラリアなどにエコノミックステイトクラフト(経済的な手段を用いて国益を追求すること)を連発している。政治的目的を達成するため、中国は今後日本にも経済を武器として使ってくるころだろう。この中国にどう向き合うか、日本は官民を超えた視点からこれについて考える必要があろう。

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