1日千回の正拳突き、祈り届いた!?…「HUNTER×HUNTER」連載再開願い2年4カ月 ボロボロ道着のユーチューバー「実感わかない」

伊藤 大介 伊藤 大介

漫画家の冨樫義博さんが5月24日にTwitterアカウントを開設し、漫画「HUNTER×HUNTER(ハンターハンター)」の連載再開への期待が高まる中、にわかに注目を集めるユーチューバーがいます。ユーチューバーの樽江突撃さんは、2018年11月から休載するハンターハンターの再開を願い、2020年1月から「1日一千回感謝の正拳突き」の動画を毎日投稿してきました。ハンター協会のネテロ会長のように2年4カ月もの間、連載再開を祈願して正拳突きを続けた樽江さんに話を聞きました。

休載非難に心痛め、感謝の正拳突き始める

ハンターハンターは1998年に「週刊少年ジャンプ」で連載が始まりました。高度な心理戦を交えたバトルや、深みのあるストーリーが国内外で人気を博し、度重なる休載をはさみながら連載していましたが、2018年11月から約3年半、長期休載が続いています。樽江さんは休載の度に「冨樫仕事しろ」などとネット上で作者の冨樫さんが非難される状況に心を痛め、正拳突きを始めたといいます。

ーーなぜ正拳突きを始めたんですか?

「休載のたびに冨樫先生に関するネガティブなニュースが流れる中、ポジティブな話題を提供したかったんです。『冨樫仕事しろ』とたたく人がいましたが、『ここまでこんなに面白い話を描いてくれたじゃないか』という思いがあり、感謝を伝えたい気持ちもありました」

「武道は未経験でしたが、Amazonで2000円くらいの道着を買って、2020年1月16日に初めて正拳突きを1万回やりました。次の日、腕が上がらなくって、『一つ一つの所作を丁寧にやろう』と1日千回に切り替えました」

ワクチンで発熱時も鍛錬欠かさず

そこから正拳突きの日々が始まりました。30代後半の会社員である樽江さんにとって、仕事や飲み会もあれば、熱が出た日もあります。それでも、1日たりとも鍛錬を欠かすことはありませんでした。

「飲み会で遅くなった日は午前2時、3時まで突きました。新型コロナウイルスワクチンを打って腕が痛かったり、発熱した時も続けました。本当は寝ていたほうがいいらしいんですけどね(笑)」

若き日のネテロのように正拳突きに没頭した樽江さんは、全身の痛みに耐えながら稽古を続けました。

「素人ですので変なところに力が入っちゃって、肘や肩はあまり上がらなくなりました。帯を締め付ける腰や太ももも痛め、踏ん張る足元の畳ははげてしまったので、今はマットを敷いています」

2年4カ月、正拳突きを繰り返した道着はあちこち破れ、原形をとどめていません。

「帯で締めた腰の部分からほつれ始めて、正拳突きする脇とかが気がつけばボロボロになっていました。毎日洗っているせいもあると思うんですけどね。毎日洗っていても襟元が黒ずんで、くさいです」

ネット上はお祭り騒ぎも「まだ実感わかない」

樽江さんが感謝の正拳突きを繰り返しても、連載は再開されませんでした。冨樫さんに「なんで連載を再開してくれないのか」と怒りを抱くことはなかったのでしょうか?

「まったくありません。正拳突きをしていると、心が無になります。会社で嫌なことがあっても、心がすっとするんです。冨樫先生への感謝の思いしかありませんでした」

そして5月24日、冨樫さんがTwitterアカウントを開設しました。当初は冨樫さん本人のアカウントなのか、真偽を疑う声もありましたが、集英社が「ご本人のアカウントです」と認めました。冨樫さんはTwitterのプロフィールに「主に原稿の進捗状況をお伝えしていきます」とつづり、「とりあえずあと4話。」とネームの一部を撮影した写真が投稿しました。冨樫さんの投稿は50万回以上リツイートされ、ネット上はお祭り騒ぎとなりました。

「まだあんまり実感がわかないんです。真偽不明の時が一番ドキドキしていましたが、正拳突きを始めると心が落ち着きました。冨樫先生本人のアカウントらしいと分かり、『本物なんだ。ありがたい』と思いました。ただ、現実感がありません。まだ事態を受け止めきれていないんだと思います」

冨樫さんが投稿したネームはハンターハンターの続きなのか。集英社は「弊社で管理しているアカウントではなく、作家個人のアカウントなので、回答する立場にありません」とし、連載再開時期については「未定」、「連載を再開する場合は、週刊少年ジャンプ本誌で発表する予定です」としています。

注目度爆上がりも、連載再開されたら「正拳突きは終わるつもり」

「連載再開まで」と銘打ち、2年4カ月続けてきた正拳突き。これまで数千回だった再生回数は、40万回に跳ね上がりました。注目度が急速に高まる中、ハンターハンターの連載が再開されたら、正拳突きの動画はどうなるのでしょうか?

「今は終わるつもりです。『連載再開まで』という思いで始めたので、そこが区切りでした。『人気が出たからまだまだやります』というのは違うのかなと。…といって、終わるのが惜しくなって、みっともなく続けるかもしれませんけど(笑)」

樽江さんは体の節々を痛めており、「終わったらまず、整形外科に通院したい」と苦笑します。

ーー連載再開を願う正拳突き、冨樫さんも見てくれていたらうれしいですか?

「うーん…微妙です。私はハンターハンターが好きすぎるので、冨樫先生には私のことなど知らない殿上人であってほしいんです。もちろん知っていてくれたらうれしいんですけど、『私の動画を見て連載を再開してほしい』という望みがあったわけではないんです」

ーー冨樫さんに伝えたいことはありますか?

「伝えたいことはありません。私のことなど気にしないで、とにかく冨樫先生の考える物語が読みたい。それだけです」

   ◇   ◇

鍛錬を重ねる中、突きの動きにキレが出て、手を合わせて祈る時間が増えました。樽江さんはここ数カ月、連載再開の雰囲気を感じ取っていたといいます。「何かが動いている、と。嵐の前の静けさのような。今思えば、(連載再開の)予感だったのかな」。連載再開を察する念能力が発現したのかもしれません。

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