身悶えせずには見られない…日本映画の新たな傑作誕生 20代のリアルすぎる日常と恋愛描く「わたし達はおとな」主演の木竜麻生さんに聞く

黒川 裕生 黒川 裕生

舞台やテレビドラマを中心に活躍してきた気鋭の加藤拓也監督が監督・脚本を務めた初の長編映画「わたし達はおとな」が6月10日の東京や愛知などを皮切りに、全国で順次公開される。作為的な「演技」や「言葉」を全く感じさせない圧倒的なリアリティで描く20代の生活と恋愛。主人公の優実を演じた木竜麻生(きりゅう・まい)さんは「私たちが普段交わしているような話し言葉だけで書かれた、ここまで自然な脚本は初めて見ました。加藤監督の“嘘”のない演出によって自分の知らない顔や声、仕草まで引き出されていて、本当に刺激的で幸せな経験ができたと思います」と充実感をにじませながら笑顔で振り返る。

“倦怠夫婦もの”の新たな傑作はどのように生まれたか

美術学生の優実(木竜さん)と、劇団の演出を手がけている直哉(藤原季節さん)の初々しい恋の始まりから終わりまでを描いた物語。「レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで」(2008年)や「ブルーバレンタイン」(2010年)などに代表される、いわゆる“倦怠夫婦もの”の系譜に連なる作品に位置づけることもできるし、見終わった後のほろ苦さと不思議な清々しさに、近年の日本映画「花束みたいな恋をした」(2021年)や「ちょっと思い出しただけ」(2022年)などを連想する人もいるかもしれない。いやはや、とんでもない映画が誕生してしまった…。

「わたし達はおとな」が画期的なのは、全編アドリブなのではと思わせるほどの俳優たちのとにかく自然なやり取りだ。しかし、これについては加藤監督自身が「ドキュメンタリーじゃないですよ。アドリブもないですよ。映画だから」とコメントしている通り、驚くべきことに全てが緻密な“計算”に基づいて演出されているらしい。木竜さん自身、「取材などでもよく聞かれるんですが、アドリブで演じているところはほぼありません。台本にないことをするときも、直前に加藤監督から必ず指示が出ます。加藤監督の頭の中には到達すべき明確なイメージがあって、そこは絶対にブレないんです。だから私も信頼して全て委ねることができました」と話す。

とはいえ、細かい動きなどは実際に現場で加藤監督と俳優が話し合いながら決めていくこともあったそうだ。

「『近くにいる相手がこう動いたらどうする?』とか、『いきなり隣に座られたら嫌じゃない?』『そうですね、私ならちょっと立ちたいかな』など、シーンによってどう動くのが不自然ではないのかを加藤監督と一緒に探っていきました」

「物語のトーンが変わっていく後半で面白かったのは、『仕草の手数を増やして』と言われたこと。喋りながら無意識に髪をかき上げたり、その辺にある物を触ったり…といった感じですね。他の現場では動きに目が行って気が散るので普通はあまりないのですが、『わたし達はおとな』では相手が喋っていようが 、自分が何をしていようが、何も考えずかなり無造作に動いています。印象的な演出でした」

脚本を読んで「すごいことになりそう」と予感

木竜さんが特に心に残っているのは、優実と直哉が言い争う終盤のシーン。演じているうちにこれまで経験したことがないほど集中力が研ぎ澄まされ、時間の感覚まで消え去ったように感じたという。

「映画だし、もちろん演技なのですが、あのシーンの2人には紛れもなく“事実”ではなく“真実”があった気がします。加藤監督もモニターを見ながら『これは行ったな』と確信したそうで、『頼むから最後まで飛行機も救急車も通らないでくれ…!』と祈るように見守っていたと後で聞いて、嬉しかったです。脚本を読んだときから『すごいことになりそう』と思っていたシーンでしたが、本当に『すごいこと』になったと思います(笑)」

リアルすぎる日常と恋愛…かつてない映画体験を

木竜さんは1994年生まれで、藤原季節さんと加藤監督は(学年は違うが)いずれも1993年生まれ。「同世代にこんなにも面白い作品を作る人たちがいるんだと心強く思ったし、ご一緒できて本当に幸せでした」と木竜さんは話す。

「藤原さんは以前から素敵な俳優さんだと思っていましたが、初めて共演して『これは敵わないかもしれない』と思うぐらいすごく自由に演じているように見えるのに、絶対に『直哉であること』からは外れないんです。悔しいけど、でも負けたくないと思いました。そんな戦友みたいな気持ちになれたことも嬉しかったです」

「私は加藤監督の作品がやっぱり好きなので、自分の仕事をひとつずつ誠実に重ねていった先に、またご一緒できる日が来たらいいなと思っています」

優実という1人の女性が恋をして、傷ついて、泣いたり笑ったりする姿を“覗き見”しているような緊張感も漂う作品。木竜さんは「日常の中にある恋愛が大きなテーマ。人によっては自身の経験と重なってちょっと食らってしまう部分があるかもしれませんが、今まであまり味わったことのない映画体験ができるはず。ぜひ映画館で見てほしいです」と力を込める。

【「わたし達はおとな」公式サイト】 https://notheroinemovies.com/otona/

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