「ひのとり」が新幹線よりも高くなる!? 平均17%…近鉄値上げ発表の衝撃 乗客減の中、設備投資を見据える

新田 浩之 新田 浩之

近畿日本鉄道は4月15日に運賃改定を発表しました。JR各社に次いで路線距離が長い鉄道会社だけに、注目が集まりました。今回の運賃改定は利用者にどれほどの影響をもたらすのでしょうか。

近鉄の運賃改定は端的にいうと運賃値上げです。消費税率引き上げを除くと、運賃の値上げは1995(平成7)年以来となる27年ぶり。改定率は平均17.0%、通勤定期券が18.3%、通学定期券が9.2%となり、通学定期券も値上げの対象となったことが注目ポイントです。実施予定日は2023年4月1日です。

普通運賃では初乗り(1~3キロ)は160円から180円へ値上げ。大阪難波~近鉄奈良間は570円から680円へ110円アップします。参考までにJR大和路線(関西本線)JR難波~奈良間の現在の運賃は570円です。

特急料金(特別車両料金・個室料金)、鋼索線の運賃は改定の対象外となりました。いずれにせよ、普通運賃や定期券が値上げとなるため、利用者のインパクトは大きいように思われます。

 サービス面で勝機を見出す近鉄特急

特に気になるのは大阪~名古屋間の運賃ではないでしょうか。現在、大阪難波~近鉄名古屋間における特急「ひのとり」の運賃はプレミアム車両が5240円、レギュラー車両が4540円です。運賃改定後はプレミアム車両5690円、レギュラー車両4990円になります。

東海道新幹線新大阪~名古屋間の運賃は「のぞみ」指定席(通常期)で6680円、「ひかり」「こだま」指定席(通常期)で6470円となるため、これだけ見ると運賃面では「ひのとり」の勝ちに思えます。

ところがJR東海ツアーズが販売する旅行商品「ぷらっとこだま」を使うと話は変わります。この商品を使うと、新大阪~名古屋間の「こだま」普通車指定席は4600円(通常期)となり、運賃改定後のレギュラー車両よりも安くなります。

SNSでは特急「ひのとり」よりも「ぷらっとこだま」の方が安くなる、ということで話題になりましたが、新大阪~難波間の距離・費用を考慮する必要があります。難波~新大阪間はOsaka Metro御堂筋線で約15分・280円。時刻表によるとOsaka Metro新大阪駅から新幹線ホームまでは17分を要します。

大阪難波~近鉄名古屋間の所要時間は「ひのとり」で2時間程度、「こだま」は地下鉄や乗換えも含めて1時間40分程度、難波~名古屋間の運賃は「こだま」普通車指定席(「ぷらっとこだま」使用)は「ひのとり」レギュラーシートよりも計110円安い、という結果になります。

一方、サービス面では難波から乗換不要、さらに後ろの利用客に気兼ねなくリクライニングできるバックシェル付きシートを持つ「ひのとり」に軍配が上がります。このように見ると、サービス面で近鉄が勝機を見出すという格好です。

ところで週末利用で便利な切符が土日を含む連続3日間近鉄全線乗り放題の「近鉄週末フリーパス」です。現在の価格は大人4200円となり、大阪難波~近鉄名古屋間を往復するだけでも元が取れます。ただし特急料金は含まれていません。運賃改定後の「近鉄週末フリーパス」の価格は不明ですが、企画切符を上手に使うこともより一層求められます。

バリアフリー対策、通勤車更新など待ったなし

今回の運賃改定の理由としてもちろん新型コロナウイルス感染症による利用客の減少もありますが、それ以外にも原因が挙げられています。

近鉄によると、1991年度から2018年度のコロナ禍前まで多くの関東大手私鉄は利用者数が増加したにも関わらず、関西では利用者数が2割以上も減少。特に近鉄は減少幅が大きく、2018年度の旅客運賃収入は1996年度の約4分の3まで落ち込みました。

一方、ホームドアの設置やバリアフリー対策は今後の超高齢化社会を考えると待ったなしの状態。近鉄も順次エレベーターや多機能トイレの設置を進めています。

乗客減の傾向にコロナ禍の追い打ちを考えると、何の手も打たずにバリアフリー対策等の設備投資を行うことが厳しいのは目に見えています。また近鉄の場合は通勤車の更新も喫緊の課題といえます。

関東ではバリアフリー対策に特化した一律10円増の運賃改定が目立ちます。また東急も消費税を除くと2005(平成17)年以来の運賃改定を発表しましたが、改定率は近鉄よりも低い平均12.9%です。

近鉄は消費税を除くと27年にわたり運賃を据え置いてきましたが、ついに大幅なアップとなりました。運賃改定をとっても、関東私鉄と関西私鉄で違いが生じていることに気づきます。

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