書類選考で落ち続け「学歴不問」の文字までストレスに…20代男性が「人柄」で採用を勝ち取るまで

長岡 杏果 長岡 杏果

学歴社会といわれる日本において、高学歴な方ほど有名企業に就職したり難関とされる国家資格を取得している人の割合は多いのではないでしょうか。

もちろん学歴に関係なく個人の才能や個性を発揮し、さまざまな分野で活躍している人も多くいます。しかし、一般的には高学歴の方のほうが仕事の選択肢は多く、出身大学がその方のステータスの一部として捉えられることも少なくありません。

このような社会の中、高校を中途退学した20代のDさん(会社員・男性)は、求職活動をしても書類選考で落ちてしまうためアルバイトとして働いていましたが、このほど未経験の業種ではじめて正社員としての採用が決まりました。

高校を退学!働くことを選択した理由

Dさんは3人兄弟の長男で、高校2年生のとき両親が離婚しました。離婚後、Dさんの母親は昼間はパートとして働き、夜はパチンコ店で清掃のアルバイトをして子ども3人を育てていました。決して経済的に裕福ではなく、母親は食事をとらないこともありました。

昼夜問わず働く母親の姿を見てDさんは次第に「自分も働いたほうがいいのではないか」と思うようになり、母親や高校の先生の反対を押し切り高校を退学しました。退学後すぐに、家の近くのコンビニと建設会社でアルバイトとして働きはじめました。

「学歴不問」の文字が…逆にストレスに

コンビニと建設会社でのアルバイト生活を6年続け、Dさんは正社員として働こうと求職活動をはじめました。十数社受けたうち、9割以上の企業が面接の前に履歴書や職務経歴書などの書類選考があり、すべて書類選考で不採用となったのです。

予想はしていたといいますが、このときDさんは履歴書の「高校中退」が、正社員雇用の大きな壁になっていると強く感じるようになりました。Dさんはその後、正社員雇用を諦め、さまざまなアルバイトを行いました。

実はDさんは、幼い頃から友達に恵まれていたものの、人と話すことが苦手で極度に緊張することがありました。しかしアルバイトで接客を行うようになり、苦手だった人とのコミュニケーションを克服できたといいます。「人は変われる」と身をもって体験したDさんは再び求職活動をはじめます。

それでも書類選考での不採用が続き、求人に掲載されている「学歴不問」の文字に疑問を持つようになり、それらの文字を見ただけでストレスを感じるようにもなりました。そのときはじめて高校を退学したことを後悔したそうです。

なぜ僕なんだろう…

Dさんは悶々とした毎日を送りながらも求職活動を続けていました。そんなある日、ハローワークでこれまで経験したことがない福祉業界の求人を目にしました。

未経験でしたが、応募してみたところ、人生ではじめて書類選考を経て面接を受けることになりました。面接で緊張していたものの、面接官が明るい人だったこともあり、面接を終えたときには「楽しかった。ここで働きたい」という感情が強くなったそうです。

それから8日後、正社員としての採用を伝える電話がかかってきたのです。Dさんは採用が決まったことが信じられず、うれしい思いの半面「なぜ僕なんだろう」という思いにかられるようになりました。

   ◇  ◇

入社後、面接を担当した方はDさんの直属の上司であることを知りました。意を決して「なぜ、中卒の僕を採用してくれたのでしょうか」と聞くと、上司は「学歴は関係ないです。やる気と挑戦する気持ちが強く、新しいことを吸収しようという姿勢が一番あったからです。そして何よりも人柄です」と話してくれました。

「一番」という言葉に驚いたDさんは何人も面接に来ていたのかと尋ねると、約30人の中から1人の採用枠を勝ち取ったことを知ったのです。それを聞いたDさんは目から涙がこぼれ落ちそうになるのを必死にこらえたそうです。

   ◇   ◇

確かに就職にあたって、目指す職種によっては、学歴が求められたり、影響するものもあります。しかし、その人の持つ個性や雰囲気を重視している企業も多くなってきたかのように感じます。

Dさんは「中卒が自分の長年のコンプレックスになっていたが、それは自分がコンプレックスにしていただけだ」と笑顔で話してくれました。

人を採用するのも人です。また一緒に仕事をするのは人であり、学歴と仕事をするわけではありません。そう思うと、人柄やその人の持つ雰囲気をいかに面接で引き出すことができるのか、企業の力量も試されているのかもしれません。

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