4月末立ち退き巡り、客が誤情報を拡散「お宝レコードが処分されちゃう!助けて!」→レコード店店主「いや、違うんです」と困惑も

伊藤 大介 伊藤 大介

10万枚を超える在庫を抱えるレコード店の行く末を巡って、誤情報を含んだツイートが拡散しています。神戸市中央区のレコード店「フリークアウトレコーズ」について、4月23日に【拡散希望】と題したツイートが投稿されました。店を訪れた客が「4月末閉店のFREAK OUTのLPレコードの行き場がありません!」「5月にはお宝の山ごと手放すしかなくそのまま管理者に処分されます」「誰か助けてー!!」などとつづりました。ツイートは5000件以上リツイートされ、窮状を知った人たちがレコード店に駆けつけました。記者もフリークアウトレコーズへ取材すると、店主は困惑した様子で答えました。「いや、閉店じゃなくて移転なんです…」

店主「お宝レコードは投げ売りしません!」

レコード店「フリークアウトレコーズ」は、JR神戸線元町―神戸間の高架下にある「元町高架通商店街」(通称・モトコー)で2002年に開業しました。多様なジャンルのレコード、CDをそろえ、音楽愛好家に愛されてきましたが、元町高架通商店街の土地を所有するJR西日本が耐震化や防火対策を理由にモトコーの再整備を始めており、商店街の各店舗は退去を求められています。フリークアウトもまた4月末の退去が決まっていました。

現在、フリークアウトは店内から店外まであふれるレコードの山で埋め尽くされています。【拡散希望】のツイートを見て取材に訪れた記者も「このレコードの山をすべて処分するのか…」と思いました。しかし、店主の上坂清之さん(61)に聞いてみると、事情が異なります。「閉店じゃなくて移転なんです」「高価なレコードは投げ売りしません」「でも10万枚を超えるレコード、CDをすべて新店舗に持って行けない」「だからダブってるレコードは1枚100円で売ってるんです」とのことで、一部誤った情報が広がっていることが分かりました。

店主の話をまとめると、拡散したツイートに関する事実関係は以下の通りです。

①4月末閉店→△4月末に元町高架通商店街の店を閉めるのは事実。ただ、神戸市灘区に移転します

②お宝の山ごと手放すしかない→×お宝レコードは手放しません。高価なものは持って行きます

③レコードの行き場がありません!→○10万枚を超えるレコード、CDをすべて新店舗には持って行けない

④誰か助けてー!!→○お客さんが来てくれて、1枚でも売れたらありがたい

連投ツイートには「移転」と記されるも広がらず

【拡散希望】ツイートには続きがありました。連投した複数のツイートをつなげて表示するTwitterの「スレッド」機能で続くツイートを読むと、「移転先には一部しか持っていけない」「やむなく叩き売りしています」と、移転について触れられています。しかし、最初のツイートの拡散力が強すぎたため、その後の投稿で「移転」と書いても、十分にTwitterユーザーに伝わらず、「廃業しちゃうのか」といった印象が一人歩きしてしまいました。【拡散希望】ツイートをした女性は、取材に対し、「誤った情報が広がってしまって、お店に申し訳ない」と謝罪。「限られた文字数でうまく伝えられなかった」と悔やみます。

店には窮状を知った客が九州など遠方からもやって来て、大手レコード店から「すべて買い取ります」という電話がかかってきました。店主の上坂さんは拡散されたツイートについて「ありがたいけど少し迷惑…」と漏らします。「お客さんが来てくれて、少しでも売れて在庫が減るのはありがたい。でも、廃業するわけじゃないので、高価なレコードを100円で売るわけじゃないし、来客対応や電話対応が増えてレコードの選別ができない」と苦笑します。

なぜTwitterで誤解を訂正しないんでしょうか?上坂さんは「私はTwitterとか全然分からないんです」と困り顔で話します。

客「レコードが安く手に入れば、閉店でも移転でもいい」

4月25日、平日の昼下がりながら、店の前に積み上げられたレコードを若者からシニア世代まで、熱心に物色していました。レコードを平積みにしているため、1枚1枚タイトルや盤面を確認するのは大変らしく、高齢の男性客は「これは腰が痛なるで」と笑っていました。

芦屋市から来た男子大学生(22)は1時間かけてレコードの山を掘り返し、阪神タイガースの強打者、田淵幸一が出した「スーパースター22番」「エレキ民謡」、アニメ「超人ロック」、軍歌集などさまざまなジャンルのLPを1枚100円で買い求めました。男子大学生は「大学院で音楽を研究したいと思っていて、戦後の邦楽に興味があった」といい、「ネットで音源を配信されていないようなLPがほしかった。安いし、(レコードを)掘りに来てよかった」と笑みを浮かべます。

Twitterで閉店すると思って来たら移転だった、という点については、「Twitterの情報が多少間違っていたり勘違いだったりするのはよくあること。閉店でも移転でも、レコードが安く手に入れば大した問題じゃありません」と意に介さない様子でした。店主の上坂さんによると「なぜ閉店じゃなくて移転なんだ」とクレームを入れる客はいないといい、上坂さんは「遠くから来た人も買っていってくれるのでありがたい」と話していました。

 ◇  ◇

なお、店内、店外にあふれたレコードは「10万枚以上あるけど、詳しい数は分からない。数えたくもない」そうです。放送局2局からレコードやCDを買い取ったこともあり、あらゆるジャンルがあるようです。上坂さんは「CDはあまりに多いんでブックオフに売りに行った。1枚10円やったけど」と話していました。

店は4月末まで休みなし。上坂さんがこの1カ月、休みなしでレコード整理に汗を流し、疲れがあるため、営業時間は「大体、昼過ぎから夜までくらい」とのことでした。

移転先は神戸市灘区水道筋6丁目4-1のビル1階です。移転先での営業開始時期は未定といいます。

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