マスクを外せるのはいつ? 「マスク着用義務は違法」米判決と欧米の規制緩和から考える

「明けない夜はない」~前向きに正しくおそれましょう

豊田 真由子 豊田 真由子

今週、レギュラー出演しているテレビ番組で、共演者の方から「欧米のようにマスクを外せるようになるのはいつ?」とご質問がありました。「欧米は『感染状況が日本より改善しているから、規制がなくなった』わけではなくて、『国民と政府が、コロナとの共生の在り方をどう考えるか』の国による違いが大きいのです」とお答えしました。

米国での公共交通機関でのマスク着用義務と違法判決

米国のバイデン政権が、航空機、電車、バスなどの公共交通機関利用者へ義務付けているマスク着用(※)について、2022年4月18日、フロリダ州の連邦地裁は、違法とする判決を言い渡しました。違法判断の理由として、「米疾病対策センター(CDC)の法的権限(statutory authority)を逸脱しており、行政のルール制定に必要な手続きに違反している」と指摘しています。

(※)公共交通機関でのマスク着用義務は、バイデン大統領が署名した大統領令により、米国疾病予防管理センター(CDC)のガイドラインに基づき、運輸保安局等が、2021年1月31日から義務付けているもので、利用者が違反した場合には、罰金(1回目で500~1000ドル、2回目で1000~3000ドル)が科されます。数度の延長の結果、2022年3月18日に終了を予定していましたが、CDCの推奨に基づき、4月18日まで延長すると発表されていました。なお、公共交通機関以外の屋内については、3月25日、ハワイ州が屋内でのマスクの着用義務を終了し、50州すべてでマスクの着用義務がなくなっています。

これに対し、米司法省は4月20日、この連邦地裁の違法判断を不服として上訴しました。またCDCは、今回の判決は即時効果を持つため、マスク着用義務を実施(enforce)はしないが、屋内の公共交通機関におけるマスク着用を現時点では推奨する(recommend)とし、マスク着用義務を課したことについては、「法的権限の範囲内で合法(lawful)。マスク着用は、本人だけでなく、免疫不全の人やワクチン接種対象でない人等を含む周囲も守り、人込みや換気のわるい状況では、感染防止に最も効果的(beneficial)である」との声明を発表しました。

日本との違い

以前の本連載(2022年2月4日)でも申し上げましたが、欧米主要国では、感染が続いている中でも、本年2月頃より順次、陽性者・濃厚接触者の隔離、水際対策、屋内でのマスク着用義務といった、新型コロナの感染拡大防止規制を緩和・撤廃してきています(※)。

(※)英国は、本年1月下旬(新規感染者数約9万人)、ロンドンのあるイングランドで屋内の公共施設でのマスク着用の義務が撤廃され、ドイツやフランスは、3 月 中下旬(同約22万人、約6.5万人)に、屋内でのマスク着用義務廃止を廃止しましたが、公共交通機関や医療機関等では着用義務を継続しています。

上記連載では、欧米と日本の規制緩和の違いにある背景として、下記のようなことを挙げました。

①これまでの感染状況のひどさの違い(※)。それによる「覚悟と達観」(「あの頃よりはマシ。感染拡大は仕方ない、コロナと共生していくしかない」)が、社会で醸成されているか
②規制による「社会経済や教育など国民生活への悪影響」をどう考えるか
③「各種規制による感染拡大抑止の実際の効果」についての懐疑
④公権力によって、自由や人権を抑制されることへの国民の反発
⑤ブースター接種の進展度

(※)累積陽性者の人口に占める割合(括弧内は実数):デンマーク53%(310万人)、フランス41%(2774万人)、英国32%(2182万人)、ドイツ28%(2342万人)、イタリア26%(1566万人)、米国24%(8053万人)、日本6%(733万人)(2022年4月18日)
累積死者総数(括弧内は人口1万人当たり):米国98.9万人(30人)、英国17.2万人(25人)、イタリア16.2万人(27人)、フランス14.4万人(21人)、ドイツ13.3万人(16人)、日本2.9万人(2.3人)(2022年4月16日)

さらにマスク着用については、上記に加えて、下記のような違いもあると思います。

⑥欧米は「(罰則付きの)義務」、日本は「要請」
⑦欧米は、マスク着用に対する抵抗感が非常に強い

上記⑦「マスク着用への強い抵抗感」について、ご説明します。 

欧米では、そもそも「マスクを着ける」という習慣が無く、マスクを着けていると「よほど重篤な感染病を患っている人」といった認定をされます。私自身、2007年のジュネーブ赴任時、冬に乾燥を避けるために、マスクを着けて外出したところ、周りを歩く人たちが、ギョッとして自分をよけることに気付き、仕事先のWHO(国際保健機関)で「Mayuko、ここではマスクをしない方がいいよ」とアドバイスを受け、「WHOでそう言われるとは…」と、びっくりしました。

また治安が悪い地域では、「マスクを付けている」ことは「顔を隠す人=悪事を起こそうとしている人」というイメージが強く(フルヘルメットでの入店禁止と同じ趣旨)、双方に大きな警戒心を呼び起こす(「襲われるかも」、「警戒されて銃で撃たれるかも」となってしまう)。

さらに、基本的に「口」の動きで感情を読み取る(比較で言うと、日本人は「目」)ので、マスクをしていると、相手の気持ちが分からないというフラストレーションが生じやすいといったこともあります。

日本でマスクを外せるのはいつ?

まず一般論として申し上げれば、やはり「感染状況がある程度落ち着いたとき」で、加えて、ワクチンのブースター接種の進展等も考慮事由ということになるのだろうと思います。

マスク着用・非着用時の実験でも、自らの感染防止、他者への感染拡大抑止といった効果についてのエビデンスが示されており、そしてマスク着用は、行動制限、外出・営業自粛・時短営業、休校・休園等の各種規制に比べると、簡単にできて、デメリットの少ない・効果の高い感染拡大防止策といえます。

ただし、実際の社会(特に、当該感染症の出現からある程度の年月が経ち、感染も拡大した後の実社会)において、「大半の人がマスク着用している場合としていない場合とにおいて、どれくらい社会全体の感染拡大状況に有意な差が出るか」ということについては、改めて分析する必要があるようにも思います。

実は、欧米のマスク着用義務を含む各種コロナ規制を撤廃した国々が、その後新規感染者が増えたかというと、少なくとも現在までの状況(下記グラフ参照)を見ると、フランス以外はそういうことにはなっておらず、また、ブースター接種が進んでいるから(規制を緩和・撤廃しても大丈夫だったのだ)という説に対しては、例えば、米国ではブースター接種が進まず、4月18日時点でも日本より低い全人口の3割程度ですが、1月下旬以降、新規感染者はずっと減少傾向にあります。(もちろん、マスク着用やブースター接種以外の種々の要因についても、加味して考える必要がありますし、マスク着用の効果それ自体を軽視しているわけでもありません。)

結局のところ、実社会において「何が原因で感染が拡大し、何が原因で減少していったか」というのは、なかなか確たることはいえない、立証は難しいというのが、実態です。

日本では、新型コロナ感染経験者がまだ人口の6%程度であり、そもそも個人や社会の感染拡大に敏感に反応する社会であり、マスク着用への抵抗感も強くはない中で、「欧米のように、日本も今すぐマスク着用を無しにしよう!」とはならないでしょうし、そうなる必要も無いと思います。(「マスクに慣れ、している方が安心する」という方も多いと聞きますし、もちろん、そこは人それぞれで良いと思います。私も当面、マスクはし続けると思います。)

また日本では、政府や自治体も「規制を緩めて、万が一感染が拡大して、非難を受けるくらいなら、過剰な規制をしておこう」という守りに入る傾向があることも否めません。

ただ、今の状況においても、屋外でまわりにあまり人がいない状況であれば、マスクを外しても問題はないですし、熱中症のリスクや、小さい子はマスクをなかなか着けられない、相手の表情・心理を読み取るといった子どもの発達や、成人も含めた人間関係形成への影響への懸念といった指摘もなされるところであり、やはり、場面に応じた柔軟な判断がなされることが望ましいと思います。

したがって、日本においても、状況に応じたマスク着用の必要性の有無について、一層の理解を浸透させるとともに、現在行われている公権力によるマスク着用の要請について、社会の中の強い同調圧力に大きな影響を与えるものでもあり、きちんとしたエビデンスや、世界各国の動向、感染状況の変化、そして、日本国民がコロナとの共生の在り方についてどう考えるかといったことも踏まえて、きちんと検討をし、然るべき判断がなされるべきだと思います。

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