つるりとした銀色のポール。実はこれ、代官山に設けられた犬の水洗トイレ(正式名称・水洗おしっこポール)です。SF小説「サーキット・スイッチャー」を著した小説家の安野貴博(@takahiroanno)さんが「これは昨日代官山にあって衝撃を受けた犬のおしっこ棒(水洗)」と投稿した写真が話題を呼んでいます。おしっこポールを製造したのは静岡市の信建工業で、なんと日本初の犬用水洗トイレ。ポールが立っているのは代官山蔦屋書店を中核とする商業施設「代官山T-SITE」でした。おしっこポールとは何なのか?なぜ代官山T-SITEにあるのか?信建工業とツタヤを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブに聞きました。
ドッグラン普及に「犬用水洗トイレも流行るのでは」
信建工業はもともと、公園の公衆トイレや遊具を手がける公園施設業のメーカーで、人間用のトイレが主力製品でした。日本初の犬用水洗トイレ開発に踏み切ったのは約15年前。囲いの中で犬を自由に走らせることができる「ドッグラン」が各地で増え始め、「ドッグランを利用するのはほとんど室内犬でした。犬が家族の一員となり、買い物や旅行も一緒に行くようになった。さまざまな施設で犬の水洗トイレが求められるようになるのでは」と需要を先読みし、2011年に犬用の水洗おしっこポールを開発しました。尿を洗い流す水を引いたり、排水設備を整えるなど、人間用トイレと構造は近いといいます。ポール上部の丸いボタンを押すと、水が流れます。
おしっこポールは高級ホテルやアウトレット複合商業施設、サービスエリア、道の駅に広がり、信建工業は10年間で約150基を納入しました。導入した高級ホテルでは、愛犬と同宿できる専用客室を用意し、ドッグベッド、ドッグマット、フードボウル、トイレシート&トレイなどを取りそろえ、愛犬家を呼び込んでいます。信建工業の担当者は「ペット同宿型のホテルが増えていますし、どの商業施設も『愛犬と利用できる』という付加価値を付けたいのではないでしょうか」と推し量り、「年々、需要は高まっている」と手応えを示します。
「代官山、犬連れて歩く人多い」といち早く導入
ツタヤを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブに取材すると、「代官山T-SITE」がオープンした2011年からおしっこポールはあるそうです。Twitter上では「これだから代官山は」と先進的なものを取り入れる土地柄を指摘する声もありましたが、日本初の犬用水洗トイレをいち早く取り入れるとは、進取の地域性を感じさせます。同社によると、代官山T-SITEは代官山蔦屋書店を中核とした文化複合施設。「代官山は犬を連れて歩く人が多く、散歩がてら来ていただけたらなという思いがありました」と担当者。犬を遊ばせる「ドッグガーデン」を整備するなど愛犬家向けの環境を整えつつ、犬のおしっこを不快に感じる人にも配慮し、かつ緑豊かな植栽がおしっこで枯れないように、水洗おしっこポールを導入しました。代官山T-SITEオープンから10年、同社の狙い通り、犬を連れて訪れる客は多く、おしっこポールはひっそりと役目を果たしてきました。
犬は使うの?担当者「半数くらいはおしっこしてくれます」
一方、犬がおしっこを引っかける街灯や信号機の鉄柱が根元から腐食し、折れてしまう事故が全国で起きています。おしっこをかけられ続けるおしっこポールは大丈夫なのでしょうか?信建工業の担当者は「ステンレスなので腐食しません」と断言します。そして、この近未来的な銀色のポールで犬はトイレを済ませてくれるのでしょうか?「私の実感では半分くらいの犬はここでしてくれます。水で洗い流すので衛生的です」。ちなみにデザインは銀色がまぶしいシンプルなタイプから、犬の顔が描かれたユーモラスなものまで5パターンあります。
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おしっこポールはこれからさらに増えていくのでしょうか?信建工業の担当者は「犬が行くところは、どこでも可能性あります」と話し、最近ではグランピング施設からも問い合わせがあったそうです。キャンプ施設で犬用水洗トイレを見かけるようになる日も、そう遠くないのかもしれません。