自分と社会を幸せにする「All- Win」の仕組みをいかに作るか。Aill代表の起業経験から探る次世代の働き方とは

20代の働き方研究所/Re就活 20代の働き方研究所/Re就活

世界初となる、福利厚生AI良縁ナビゲーションアプリ「Aill goen(エール ゴエン)」。ワーク・ライフの「ライフ」サービスとして、既に約800社の提供実績を持っています。そのAill goenの運営会社である、株式会社Aill(エール)代表取締役の豊嶋千奈(とよしま・ちな)さんに、事業を成功させていくうえで欠かせない姿勢や、20代がこれからの働き方を考える上で、「ワーク」と「ライフ」をどのように考えていけばよいか、お話を伺いました。

◇ PROFILE ◇
2009年武田薬品工業株式会社へ入社。同社では5年連続社内表彰を受賞し、2015年女性幹部候補生に選出。2016年に退社し、株式会社Aill(エール)の前身である株式会社gemfutureを設立。2019年には、世界初となる、福利厚生AI良縁ナビゲーションアプリ「Aill goen(エール ゴエン)」の提供を開始。ワーク・ライフの「ライフ」サービスとして、既に約800社の提供実績を持つ。Tech Crunch 2019 ファイナリスト、女性起業家2020年日本代表、HRアワード2021 組織変革部門 最優秀賞受賞等。

 初めは自分自身の悩みを解決したかった

— 新卒時には大手製薬会社へ入社され、営業として最終的には幹部候補にも抜擢されるほど活躍されたと伺いました。まずは新卒で製薬会社を選ばれた理由をお伺いできますか

もともと就活時の軸として、自分の努力が誰かの笑顔につながるような仕事がしたいという想いがありました。中でもそれをもっとも実感できるのは医療だと思い、大手製薬会社である武田薬品工業を選びました。

製薬会社を選んだのは、大学時代に国内/海外の医療水準の隔たりに衝撃を受けたという経験も大きかったです。たとえば一部の途上国では、腹痛を訴える患者に飲み薬を処方すると、それをお腹に貼ったりします。それほどまでに薬の用途が知られていませんでした。薬は正しい情報とセットで必要だと気づき、医療従事者と患者を、正しい情報でつなぐ役目として働くことにやりがいを感じて入社を決めました。

— その後同社での仕事は順調な一方で、私生活では不安も大きかったとか

20代前半は医療貢献がしたいという想いをもとに、ただ目の前の仕事をこなすことに全力でした。人の命に関わる責任ある仕事なので初めは大変でしたが、それを乗り越えた先には楽しさも感じられるようになりました。ただ、年齢が経つにしたがって「キャリアウーマン」や「バリキャリ」と呼ばれるような働き方をしている自分に気づきました。そこで「あれ、なんか思っていたのと違うぞ」と思うようになって。

— 当初からそういった働き方を望んでいたわけではなかったのですね

まったく望んでいませんでしたね。ですので、実際に起業までしてしまったことに自分が一番驚いています。

私のキャリアプランでは3年間一生懸命働いてから結婚して、産休・育休を取って、復職後は落ち着いた職場で働くはずでした (笑)。しかし現実は、仕事に打ち込めば打ち込むほど、そのプランが遠のいていく。理想と現実のギャップが深まっていく中で初めて、「自分って何がしたかったんだっけ」と考えるようになりました。

— そこから実際に事業を興されたわけですが、最終的に「起業」という選択をされたのはなぜでしょう

そもそもは「プライベートが犠牲になって、私的な承認欲求が満たされない」という自分自身の悩みを解決したいと思ったことがきっかけでした。そこから自分と同じような悩みを持つ人もいるのではないかと考え、20・30代の男女80名ほどに聞き取りを実施しました。すると、多くの人が、私と同じように「こんなはずじゃなかった」と考えていることが分かりました。本当は仕事とプライベートの両方を充実させたかったのに、いつの間にか私生活を顧みずに仕事をするという不本意に甘んじていた。そうした反応には私自身、強く共感を覚えたと同時に、励まされもしました。

それをきっかけに、社員が自発的に幸福度を上げ、かつ会社も発展するような仕組みをどうしたら実現できるのだろうかと真剣に考えるようになりました。そこで考えたのが、私生活におけるパートナーとの出会いやパートナーシップの構築と、企業と従業員のエンゲージメント、この二つを同時に叶えるサービスでした。恋愛を出発点としながらQOLを高めていくことで、さまざまな社会問題の根源になっている「個人の幸福」につながるはずだと自分の中で仮説を立てました。それをかたちにするのではあれば、起業という手段がもっともふさわしいはずだと思い至り、そこでようやく起業を決意しました。

— 起業ありきだったわけはなく、周囲の意見も参考にして課題を見出した先にあったのが起業という手段だったのですね。当初からニーズも踏まえて事業内容を固めていったようですが、収益性なども十分考慮をされた上での起業だったのでしょうか

いえ、そこは全然(笑)。もちろんビジネスモデルは確立させていましたが、いかに収益を出すかということよりも、まずはこういうサービスがあれば絶対に良いはずだという想いと、それをどう形にするかという手段に焦点を当てていました。定量的な数値は後回しでした。

「自分の幸せ」が、「組織や社会にとっての幸せ」につながる仕組みを考える

— そうだったのですか。それで生まれたのが世界初のAI縁結びナビゲーションアプリ『Aill goen』ですね。このサービスは社外の出会いを提供する恋愛サービスですが、お話をお聞きする限り、アプリの普及がゴールではなさそうです

良縁をアシストすることがこのサービスでのミッションですが、そこが最終的なゴールではありません。恋愛を起点に、私生活を充実させることによって、個人と組織の“Well-Being”につなげていくという最終的なビジョンがあります。

本人の幸福度の向上には、仕事と生活の相乗効果、「ワークライフシナジー」を生み出すような仕組みづくりが必要であると考えています。心が健康だと前向きに働くことができ、それによって私生活を充実させる意欲につながります。私は恋愛を、そうした幸福な相互関係を生み出すためのファーストステップとして位置づけています。そこでは、パートナーという存在が重要なファクターになります。

『Aill goen』では、ただ出会いを作るだけでなく、出会った後も継続してパートナーシップを築けるような関係性までを考慮したサービスにしていくことを目指しています。まずは現在のサービスを通じて、将来を見据えられるパートナーとの出会いに力を入れていきますが、いずれは恋愛だけに限らず、より広いパートナーシップの強化にも力を入れていきたいと考えています。

— 豊嶋さん個人の問題から出発して、最終的には企業や社会のエンパワーメントにつながるように事業として構想されたのですね。

そうですね。起業に限ったことではありませんが、やはり何事も自分の幸せだけを追求してもうまくいかないと思います。それよりも「自分の幸せ」が、「組織や社会にとっての幸せ」につながる仕組みをいかに考えるか。そのように考えた方が、実際は多くの人に受け入れられるサービスになるので、生み出すものが公益に資するか、ということにはこだわっていました。

― それを具体的な形に落とし込んだのが『Aill goen』という恋愛サービスであると。このアプリの特長の一つには、AIがユーザー同士の会話をサポートする機能がありますよね

はい。お互いがコミュニケーションを円滑に進められるようにAIがナビゲーションをするのは一つの特長として挙げられます。

ただ、AIの実装というのは、後からサービスの設計を考える中で出てきたアイデアでした。初めは実際に知り合いの男女を紹介し合ってみましたが、うまくマッチングしませんでした。理由は二つあります。一つは、みんな想像以上に忙しく、仕事で疲れた中で、仕事と同じように異性にもアプローチをする気力と体力が残されていなかったこと。もう一つは、想像以上に男性と女性で恋愛に対する姿勢や大事にしているポイントがすれ違っていたということでした。限られた時間の中で、恋人がほしいユーザー同士のすれ違いを解消しながらマッチングして、パートナーシップを築くには何かしらのツールが必要だと考えました。そこで出てきたのがAIというわけです。

ただ一番の特長、ということで言えば運用面、つまり企業様に加盟していただき、福利厚生の一環としてサービスの利用を推奨することで運用している、というところだと思います。

― なるほど。それはより多くの人に利用していただくための戦略としての側面もあるのでしょうか

そうですね。それこそが『Aill goen』の独自性でもあると考えています。

まずは、福利厚生の一環として企業様に加盟していただくことで、ユーザーの身元も明らかになり、安心安全性をより担保したパートナー選びができるであろうという考えがありました。

あとは、仕事と家庭の両立を営む上での構造的問題の解決につながるのでは、という考えもありました。たとえば、夫婦が家庭と仕事をうまく両立させるためには四つの要素が必要であるとされています。一つ目は女性の考え、二つ目は女性が所属する企業の体制。三つ目はパートナーの考え、四つ目がパートナーが所属する企業の体制。この四つのうちどれか一つでも欠けてしまうと、家庭を支える人が“ワンオペ”で疲弊してしまう構造になります。

ただ幸いなことに、以前実施した調査によると、ほとんどの働く独身者がパートナーと二人三脚で仕事と家庭を営むことを志向していることが分かりました。となると課題は、女性ないしパートナーの所属する企業側の協力体制の構築となります。そこへ訴求するために、『Aill goen』は企業単位で導入していただくという戦略を採用しました。

さらに付け加えるなら、私は前職で営業を経験していたので、セールスについてはある程度できるという自信がありました。言葉を選ばずに言えば、恋愛を「売る」こともできるのではないかと思いました。クライアントに対し、自分の中で組み立てたロジックをもとに、自分自身で説明を尽くす。それは自分の得意分野じゃないかと。企業様を通じて普及するという戦略は、そうした自分自身の経験や強みを活かすという側面もありましたね。

その甲斐あってか、2021年には「HRアワード」で最優秀賞もいただきました。自分の仮説が正しかったのかなと新たな自信になりました。企業様の方もこうしたサービスの必要性を潜在的に認識されていたため、「よくこのサービスを出してくれたね」とまで言っていただけました。

一人勝ちでは不十分。「All- Win」になれる仕組みをいかに作るか

― そうした事業の立ち上げやAIを活用したサービスを展開するにあたり、専門性も必要になってくるかと思います。そういった体制はどのように築いていったのでしょう

AIを実装するというアイデアはありましたが、当時はもちろん素人。そもそもどうやってAIを動かすのかも分からない状態でした。そこで日本のAI研究の権威である北海道大学の川村秀憲教授にご相談にいきました。といっても、初めはツテもなかったので講演会に足を運び、関係者をたどってなんとかご縁を作っていきました。

川村教授に構想を含めた想いを伝えると、「アイデアは面白いし、女性が、それも個人で相談に来たのは初めてだ」とおっしゃっていただけました。普段は大企業の方々がご相談に来られることが多い中で、気骨を買っていただけたようです。その後、川村教授を通じて他の先生方もご紹介いただき、それぞれの専門領域を活かした、より精緻なシステムを構築できるようになりました。そうやって今のAIチームができました。

― なるほど。ただ、前人未到の試みであった分、ご苦労もあったのではないかと思います

そうですね。もし生まれ変わったら次は絶対に起業したくないと思うほど、初めは辛かったです(笑)。特に辛かったのは、結果につながらないことではなく、結果を出しても「お返し」ができないということでした。今ではおかげさまで多くの企業様に導入いただいていますが、初めてしばらくは実績もない中、このサービスの意義を信じていただくしかありませんでした。

新たな取り組みということもあり、不安に感じられるところもあったと思うのですが、私たちを信用して実際に導入していただいた。その優しさに頼るしかないという状況は、本当に歯がゆかったですね。

だからこそ、より価値のあるサービスとして認知されていくことが、これまで信頼してくださった企業様へのなによりの「お返し」になるはずだと考え、普及に努めました。そこから少しずつ信用していただける方が増え、ありがたいお声をいただけるようになったので、辛い時もなんとか乗り越えられました。

― 取引先にも恵まれて現在のように成長を続けておられるのですね。では、そのように事業を成功させていくうえで欠かせない姿勢はどういったことでしょうか

事業を軌道に乗せるために顧客志向は欠かせないと思います。思ったような結果が出ないときにどのように進めていくか。その答えは必ず現場にあると思っています。

当社のステークホルダーは多岐にわたりますが、ユーザー様の声はもっとも重要な一次情報として捉えています。そして、導入いただいた企業様や社会にも広く浸透することで、全員が「All- Win」になれる仕組みを作る。自社だけが一人勝ちできる仕組みでは不十分で、関係する方々全員に利益がもたらされる仕組みを構築することには徹底的にこだわっています。

あとは、どんな結果も“失敗”だと思わないことでしょうか。かっこつけて言えば、私はこれまで“失敗”したことはありません。これまでの経験を「点」でとらえると、もちろん失敗は無数にあります。しかし逆に成功は、失敗という「点」を重ねた「線」の先にしかない。失敗を、成功するために必要な情報が凝縮された得難い経験ととらえ、そのことを意識しながら挑戦を続けていくことが重要だと思います。

例えば、私は自分にとって経営の“北極星”が初めから見えていました。それは、一人ひとりが幸福度を上げることがやがて企業や社会の幸せにつながるというビジョンです。その“北極星”さえ見えていれば、あとはそこに向かう間にある小さなゴールを目指して、ひたすら挑戦を続けていくことが大切ではないでしょうか。

― 働き方が多様になるにつれて「ワーク」と「ライフ」のとらえ方も変わりつつあります。20代がこれからの働き方を考える上で、両者をどのように考えていけばよいでしょうか

仕事とプライベートを無理に切り離さなくても良いと思います。もちろん感覚としては、仕事とプライベートでは別々の自分がいるはずです。しかし、心は同じ一人の自分ですよね。そこを無理に切り分けることでストレスを感じるのであれば、しなくてもいい。大事なのはいかに自分の心が健康でいられるかということだと思います。

また仕事のとらえ方も、もう少し自分本位になってもいいのではないかと思います。まず自分のやりたいことがある。そして、それを達成するために目の前の仕事をどう役立てるかと考えてみる。これも心が健康であるためには必要なことじゃないかなと思います。

仕事はもちろん大切なことですが、それがすべてではありません。自分の想いに立ち返り、自分にとって大事なことは何で、今の仕事をどう生かすかを考える。それが分かると、おのずと目の前の仕事にも積極的に打ち込めるようになるんじゃないかなと思います。それは「ワークライフシナジー」を生み出す上でも大切ではないでしょうか。

一方で気をつけたいのは、自分の幸せだけにとどまることです。もちろん自分を不幸にさせてまで、企業や社会にとっての幸せに尽くす必要はありません。しかし、自分の幸せだけにとどまっていてもいけない。まずは自分が幸せになる、そして自分が幸せになることが、どうすれば企業や社会の幸せにつながるのかを考えていくことが大事だと思います。先ほどの「All- Win」の考えにもつながりますが、自分と社会全体が幸せになるために、という視点を持って働くことが、これからの働き方には欠かせないのではないでしょうか。

【株式会社Aill】
人と人のコミュニケーションをアシストするAIを開発。そのAIを使って、社外の出逢いを提供する世界初AI縁結びナビゲーションアプリ「Aill goen」を運営。企業の福利厚生サービスとして、社外の出逢いからお付き合いまでをAIがナビゲーションすることが特徴。勤務先企業を通じて審査を受け、ユーザーが集まるコミュニティを形成し、AIが出会いとコミュニケーションに伴走することで、信頼を共に育むライフパートナーの縁結びを提供している。

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