今年、吉本新喜劇にとって初のゼネラルマネジャーに就任した間寛平さん。
60年以上の歴史を持つ劇団は、大鉈を振るう寛平さんの大改革でこの令和の時代、新しい“新喜劇”としてどのように生まれ変わるのだろうか。
なんばグランド花月劇場地下のYES THEATERの週末を「吉本新喜劇セカンドシアター」としてオープンするにあたり、4月8日からのこけら落とし公演に出演する諸見里大介さんとともに本音で語ってもらった。
間寛平(以下・寛平):去年、僕の芸能生活50+1周年記念公演をやってる時に、実は今年で引退しようと、嫁とも相談して10月10日に会社に言いに行ったんや。そしたら逆に社長が「ちょっと話を聞いてくれまへんか?」ってなって、「今、新喜劇が大変な状態になってます。コロナ禍もあると思いますが、新喜劇目当てのお客さんが減っている。東京で記念公演を見させてもらったけれど、これが新喜劇なんやって改めて感じた。そこでこれをなんとか若い子に教えてやってほしい」って言われたんや。
そこでは即答はでけへんかったから、嫁に聞いたら「これまで居心地のいいとこにあんたはいさせてもらって、めちゃくちゃ世話になって、可愛がってもらって。こんな幸せなことなかったやないの。これまでの恩返しのつもりで頑張ってみたら?」って言われて、そうやなということで引き受けることにしてん。今はしょっちゅう新喜劇を見せてもらってほんまあれこれ考えてる。
諸見里大介(以下・諸見里):それは僕らにしたらめちゃめちゃありがたいことです。今の新喜劇を見てどう思われましたか?
寛平:まず、新喜劇が終わってもみんな汗をかいてないような印象を受けてん。僕らの時はそれこそ汗でボトボトやった。舞台が終わったら次の舞台までに乾かしてたくらいやったけど、最近ずっと見てると普通に始まって、自分の出番やって、戻って、最後わーっと出て来て、ハイ終わりました。みたいな流れ作業というか…こなしましたって感じやねん。
ちょっとの出番の子でも何かを生み出してもっと汗をかいてほしいし、生の舞台やん!っていうのが伝わってないというかな。そしてあいつ狂っとるでって思えるような役者がいてないな。
諸見里は新喜劇入ってどれくらい経つの?
諸見里:今年で9年ですね。
寛平:それ以前は漫才をやってたん?
諸見里:はい。解散した後に、新喜劇のオーディションを受けて入りました。
寛平:それって僕自身が感じるんやけど、漫才をやってあかんかったから入ったんちゃう?行くとこないから新喜劇に来たみたいな、もともと新喜劇を愛して入ってきたんやないやん(笑)。
諸見里:正直、最初はそうでした(笑)。
寛平:そやろ(笑)。
諸見里:でも今はもう新喜劇を愛してやまないです。
寛平:それは諸見里からは感じる(笑)。
諸見里:本当に感じてくれてはります?
寛平:ほんまやがな。今日は本音で喋ってるから(笑)!
諸見里:それだったらいいですけど。ほんと今、新喜劇は大好きです。
寛平:諸見里は座長と作家が話を作るってスタイルに慣れていると思うけど、昔は作家が書いてきたものを、座長を中心に役者たちが“おかず”をつけていくスタイルやってん。だから基本、作家が演出してたけど、若手で演出通りにできなかったら時には革靴でどつかれたりしてたからな。
諸見里:今は絶対アウトですね。
寛平:その分、作家も命がけやったし、それだけの作家料をもらってのちに家を建ててはったわ。だから今の作家もいつか家を建てろと。その作家料の話も会社にはしてるねんけどな。座長主導になって話を作るのはやっぱり薄い新喜劇になってると思う。
座長が入ってじゃなく作家が考えて書かれたものをどう肉付けするかやと思うねん。まぁさっきも言うたけど漫才から入ってきたりしてるから、もともとネタを書けたりする子が多いやん。そういうことも今の新喜劇の作り方に影響してきたんかなって感じる。
あとは、座長4人が新喜劇60周年ツアーで全国と海外にも行った時に、諸見里と、吉田(裕)清水(けんじ)、信濃(岳夫)のリーダーと呼ばれてる4人のうち、何人かが留守番して劇場を任されてた時があったやろ。
諸見里:吉田さんはツアーに出てはりましたけど、僕ら残りは劇場組でした。
寛平:その時こそある意味チャンスやったとも思うねん。もちろん頑張ってたと思うよ、思うけど、お客さんからしたら座長の代わりに劇場を守ってるリーダーたちはどんな笑いを見せてくれるんやろって期待してくれてはったと思う。でも見ると、新喜劇の座長がリーダーに変わっただけちゃうかって。
諸見里:僕ら的には頑張って自分たちの新喜劇を作ってたんですけどねぇ。そう取られる方もいはったということですね。
寛平:そうやな。どんな力技で新喜劇を見せて、さらに座長の存在を忘れさせて、リーダーの存在を知らしめるかってのをほんまに期待してはったと思う。でもそもそもリーダーってなんなん(笑)?。
諸見里:僕も聞きたいです(笑)。でも新喜劇が60周年を迎えた時に、座長4人に対してリーダー4人で僕らが任命されました。もう3年くらいなりますかね。
寛平:昔は座長がおって、副座長、そして中堅、座員って呼ばれてたけど、リーダーってなぁ…。
諸見里:まぁ副座長と同じなんでしょうけど。たいそうな言葉やから。ポップに言い換えたんじゃないでしょうか。でも僕がまだ新喜劇に入ったばっかりの頃、すっちーさん、烏川(耕一)さん、高井(俊彦)さん、清水(けんじ)さんが、まだ副座長って呼ばれてましたね。
寛平:そうなんや。もう副座長の方がわかりやすいのになぁ。そんなリーダーであり、副座長の諸見里はこうしたいとかあるか?すぐ動くから!
諸見里:(笑)。滅多なこと言えないです(笑)。
寛平:なんでや!すぐに言え!すぐ!ほら!ほら!
諸見里:余計に言えませんて(笑)!寛平師匠は僕らの新喜劇を見てパワーダウンしてるように感じられたかもしれませんけど、ほんの数年前までなんばグランド花月、よしもと西梅田劇場(2019年閉館)、祇園花月、よしもと漫才劇場、それに毎週末に奈良健康ランドでの公演、それに営業があった時って、座員が新喜劇に出られるチャンスっていっぱいあったんです。
それが会社の都合とかコロナの影響もあって減って、それに感染予防で一公演に舞台に立てる人数も限られて、座員は100人以上いるのに出られるのはほんのわずか。でも絶対に新喜劇自体のクオリティは下げられないじゃないですか。
寛平:そらそうや。
諸見里:でも面白い人だけを集めて15人で芝居しようとしても。
寛平:それは無理やな。集められへん。
諸見里:だからこそ若手を育てなきゃいけない。でも劇場は少ない。このジレンマですね。どうしても面白い人、できる人にはキャスティングされるチャンスがあります。
で、例えばめったに出られてない座員をキャスティングして、もしその子がスベったりしたらそこで次回はもういいか、みたいな判断をされてしまって、また半年くらいキャスティングされない。
そりゃ舞台の場数も踏んでないから「さぁ笑かせ、芝居しろ、演技して」って言われてもなかなかできないですよ。だからセカンドシアターという、その子たちが試せる場所ができるのは嬉しいし、僕が言うのもおこがましいですが、まず育てる体制を作って欲しいと思っていたので嬉しいです。
今出てる面白い人たちも10年もすればそれだけ歳をとるわけですから、その次の世代が出てくるようにしたいですもん。
寛平:この前、(笑福亭)鶴瓶とも話してたんやけど、昔はおもろいやつが芸人になってた。今の子はおもろない人間が入ってきたりするから、そらおもろいことできるわけないって。
諸見里:寛平師匠はそこどう思われますか?新喜劇に限って言えば、おもろない子はやっぱりどっかで辞めた方がいいと思ってはります?
寛平:それはな、言うなれば「自分で気付けよ。空気を察しろよ」としか言われへん。僕らからは辞めたほうがいいとは言われへん。その子の選んだ道やから。
諸見里:僕が入団した頃は、新喜劇に出る人がある程度決まってたんです。でも舞台を見ていたらめっちゃ噛んでたり、スベってたりするのにチェンジもなく一週間の出番が終わって、また翌週の舞台も出番もらってる上の人がいて、それを「なんやねん!」て思いながら、ちょっとの役でも居残ってできそうなボケを考えて、なんとかねじ込んでみてやろうって頑張ってたわけです。
そうやってまだ僕らの時はそこにワンチャンを狙えてましたけど、今の子たちはその出番すらないのでスタートラインに立つこともできない。
例えば、最初おもんない子でも何かのタイミングで化けるかもしれないじゃないですか。そりゃ舞台に立って5~6回やってもアカン子はもうアカンとは思うんですけど、舞台に立てるチャンスがもうちょっと早めに回ってきたら、それこそ厳しい言い方かもしれませんけど、自分がこの世界に向いてるか向いてないかの気づきも早いわけですから。
寛平:その舞台に立てるチャンスは作ってるねん。今、いろんな市町村に出向いて、そこで市長さんらと会って、その土地でミニ新喜劇をさせてもらえないですかねって。そしたら9ヶ所くらい決まった。
諸見里:それは嬉しいですね。でもそれに甘えないようにはしたいですよね。
寛平:そやからこそ、頑張って欲しいねん。漫才の子たちはなんばグランド花月に立つために一生懸命頑張ってるやん。で、立てたらいつも以上に力が入ってる。でも新喜劇の子たちの一部は普通に出してもらえてるやん。
諸見里:そうなんですねよね。
寛平:なんばグランド花月の舞台に立ててるありがたさにあんまり気付いてないねん。まぁそれは劇場が少ないってのもあるけど。
諸見里:そうですね。入団して1年目くらいで役をもらったら立てて、しかもテレビにも流れますからね。ここからほんまに頑張る人と、そうじゃない人の違いは出ると思います。
寛平:舞台立つ以上はソツなくこなしたらあかんねん。その1週間で爪跡を残さないと。怒られてもいいと思う。怒られても行く勇気やわ。あとな、昔は「ポケットミュージカルス」ってのがなんば花月やうめだ花月、京都花月であってん。
諸見里:あ、すいませんそれは知らなかったですわ。
寛平:漫才や落語、諸芸の人の出番の間にコントと歌が繰り広げられる15分くらいの枠やねん。新喜劇にも出してもらわれへん新人や、芝居の頭の方にしか出てない若手たちと、吉本にいた歌手とかが出んねん。そこで僕らは鍛えられた。
(池乃)めだか兄やんとの猿と猫の絡みや、おうむ返しのやりとりも、木村進ちゃんとの暴れ倒すやりとりもそこから生まれて、だんだんそれがウケてくると座長が見てたり、支配人や社員が見てたりして“こいつらおもろいやん”って新喜劇で役がついてきたりしてな。そこで生まれたものが新喜劇に組み込まれていったり。
諸見里:それは今も必要ですね。そういう枠は有り難いからセカンドシアターとかでやったりしてもいいかもですね。座員になったら必ずなんばグランド花月に出られるってわかってると、有り難みが薄れがちですけど、あそこの舞台は特別だということをもっと理解するなら、そういう試す場を作って、力をつけていって、特別な劇場で役付きになれるってなったらみんなもっと頑張ると思います。
寛平:そうやな。そういうことやっていかなあかんな。あと、これまでは新喜劇って先のことがなかなかわからへんかったやん。だから3ヶ月先までのスケジュールは出そうって思ってる。でもこれがなかなか出ないからイライラしてるねんなぁ。
諸見里:先のことがわかれば、SNSで短いCMみたいなことを流したり、2分くらいの予告編のようなものを流したりしたらいいと思うんですよね。あとはなんばグランド花月でやった話を1ヶ月後くらいにセカンドシアターで若手版でやるとか、昔の新喜劇の台本をリメイクし直して上演するとか。
寛平:いいねぇ。やっぱりこうやって話すと色々出てくるな。座員と話す機会はどんどん作っていこうとは思ってる。あと、それぞれにこんなキャラやったらいいなって考えてるねん。諸見里のことも考えてるで。普通の役をしてても半分おしり出てるねん(笑)。それで「なんでおしり出してるんですか?」って聞いたら「すっごい汗かきやから」って答えるねん(笑)。
諸見里:なんでなんですか(笑)!
寛平:お前のおしり、筋肉質やんか、それが脳裏にこびりついてて(笑)。
諸見里:(笑)。でも、そうやって考えていただけるのは有り難いですけど、以前、寛平師匠の「熊本がいい~の」って番組に出させていただいた時、番組の最後に、師匠から「ダンスで締めろ」って言われて、モロちゃんダンスってやったら、めっちゃ喜んでくれはったから、後日、舞台でやったらドンズべりしたんですよ!その時は寛平師匠が考えてくれたっていましたけど(笑)。
寛平:半分おしり出してないからや(笑)。
諸見里:もう僕、40歳になるんですよ。出してたら何やっとんねんてなりますわ(笑)。
寛平:なんでもやっとけやっとけ(笑)。でもまぁ今回、4月8日から10日のこけら落とし公演は諸見里と信濃(岳夫)が芯になってやってくれるけど、ほんまに期待してるし、新喜劇の次の“新喜劇”を作っていかなあかんと思うから。それをお客さんにも伝わるように頑張っていこ。
諸見里:よろしくお願いします。読者の皆さんもぜひ、なんばグランド花月の地下にある「吉本新喜劇セカンドシアター」に見にきてください。
◇ ◇
間寛平ゼネラルマネジャーのもと、吉本新喜劇は確実に変化を始めているようだ。今後の動きにも注目を続けたい。
「吉本新喜劇セカンドシアターこけら落とし公演」
日時/4月8日(金)19:00
9日(土)①13:00 ②16:00
10日(日)①13:00 ②16:00
チケット/前売・当日とも2500円
会場/YES THEATER
以後、毎週金曜日~日曜日に公演予定。
その他にも夜には新喜劇座員によるスペシャルイベント公演を予定。
吉本新喜劇セカンドシアター
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