1月下旬、長野県のとある会社に1本の電話が掛かってきた。番号は03-4567-0700で、相手は「Google マップ」と名乗る男性。受話器を取った社員によると、インターネット上に掲載する営業時間の確認をしたいという内容だった。ちょっぴり怪しいこの電話、実は会話型のAI技術を使った自動電話という。だが、社員は「途中まで人間だと思って話を続けるくらいしゃべり方がナチュラルだった」と驚く。
社員は、長野県のウェブサイト制作会社JBNに勤める稲田英資さん(48)。通話は「Googleマップです。この電話はGoogleマップの店舗様の営業時間を自動で確認しております」という文言から始まったという。続く会話を再現すると―。
はい。
そちらの営業時間を教えてください。
月曜から金曜の9~18時です。
土曜日と日曜日の営業時間も教えてください。
土曜と日曜は普通に休みです。
確認させてください。そちらの営業時間は月曜から金曜の9~18時でよろしいでしょうか。
はい。
ありがとうございます。
このとき、稲田さんは話し方に少し癖のある人だと感じていたそうだ。「会話と会話の間にちょっと間があるというか…。でも、声は機械的ではないし、そういう人もいるよねっていうくらい」と振り返る。一方、Googleマップが個別に掲載店に電話を掛けているということ自体に興味を持ったといい、電話が終わりそうな雰囲気だったが呼び止めた。
待って、参考までに教えてください。Googleさんが個別に電話しているんですか?
この電話は営業時間を確認させていただいております。Google マップへの掲載などのご要望は担当にお伝えします。
純粋な好奇心なんです。個別に全店電話されているんですか。
この電話は営業時間を確認させていただいております。
会話がかみ合わなくなり、ようやく相手が自動電話だと気付いたという。でもなぜ、冒頭で自動電話と告げられたにもかかわらず、人間として対応したのだろうか。稲田さんは、相手がしゃべっている内容よりも、しゃべっている雰囲気に引っ張られたと分析する。「発話が自然だし、会話はどんどん進むし、自動電話という言葉を流してしまったんだと思います」。回答した内容は後日、Googleマップの店舗の営業時間が追加されていた。
米ではレストランや美容院の電話予約も代行
Google広報部によると、同社の会話型AI技術は「Google Duplex(グーグル デュプレックス)」と呼ばれる。GoogleやGoogleマップの検索時に正確な情報を表示できるように2019年、アメリカで初めて導入した。AIが人間に代わって企業に電話を掛け、営業時間を確認してネット上に反映する作業を担う。20年には、新型コロナウイルスによる店舗の営業時間変更に対応するため、日本など数カ国に取り組みを拡大。現在もその作業は続いている。
また、アメリカ限定サービスとして、レストランや美容院などの予約も行っている。利用者が希望する日時や利用人数などの情報を伝えると、代わりに店に電話を掛けてくれる仕組みだ。店員が「その時間は予約できません。代わりの時間ならいかがでしょうか?」と答えた場合も柔軟に対応し、その結果を報告してくれる。AI技術は利用者の声を元に絶えず改善を行い、アップデートしているという。
AIがあなたの作業を片付けてくれる時代。すぐ近くまで来ています。