何度も裏切られたはずなのに…それでも、人間を信じ、家族を守ったにゃん丸くんの物語

ふじかわ 陽子 ふじかわ 陽子

何度も人間に裏切られ、それでもなお人間を信じた猫がいます。大阪府のにゃん丸くんです。長毛の黒猫で、まるでぬいぐるみのよう。当初は九州のとある地域で野良猫をしていました。

そこへ2017年8月ごろにやってきたのが、大阪からの出張サラリーマン。彼はにゃん丸くんの愛らしさにメロメロになり、勢いで大阪府まで連れ帰ります。しかし、勢いで猫など飼えるはずもありません。すぐ持て余すように…。

遂には、にゃん丸くんを迎えた2カ月後に、大阪府南部山中にある倉庫に捨ててしまったのです。その後は、倉庫の所有者である会社の社長さんがお世話をしていました。

そこへ仕事で訪れたのがFさんです。この時、Fさんはにゃん丸くんと目が合ったのだそう。その可愛いこと!社長さんになぜこんなところに猫がいるのかと尋ねると、前述のことを教えてもらいました。そして、「連れて帰らない?」とも言います。

さあFさんは考え込みます。目が合った可愛いモフモフ猫さんを連れて帰りたいのは山々ですが、妻と息子が何と言うか…。その場では即決しませんでした。

帰宅後、Fさんは妻のMさんに相談します。以前からMさんが猫と暮らしたいと言っていたものの、どんな猫でも構わないわけではないはず。写真を見たMさんは、にゃん丸くんを可愛いと大絶賛!息子もOKと言ってくれたので、にゃん丸くんを迎えることになりました。

F家に迎えられた野良猫のにゃん丸くん、慣れていないお家の中ではビクビク過ごすかと思いきや、とてもリラックス。お家に入った数分後には、ベッドの上の枕の隣でスヤスヤ。2日目には、ドアノブを器用に前肢で回して開けることもできたのです。すごい。

この様子を見たFさんとMさんは、この子は倉庫に捨てられる前も誰かに飼われていたのかもしれないと感じました。少なくとも2度は捨てられている。胸が痛くなりましたが、その分愛したいと強く思ったのです。

動物病院で検査をしたところ、猫エイズのキャリアだと分かりました。それでもFさんもMさんも問題ありません。あと、動物病院で大まかな年齢も分かったんですよ。6~7歳ぐらい。だったら、うちに来た日を新しい誕生日にしよう!2017年12月某日がにゃん丸くんの7歳の誕生日になったのです。

FさんとMさんに可愛がられるにゃん丸くん。日中一緒にいることが多く、メインのお世話をしてくれるMさんにはすぐ懐いたのですが、命の恩人のFさんには塩対応。色々にゃん丸くんのことを考えてくれているのにね。

そして1年後、ついにFさんの愛が通じ、お出迎えをしてくれるように!Mさんは「慣れただけ」と言いますが、それでも嬉しいもの。服につくにゃん丸くんの毛は、ご褒美です。

にゃん丸くんは本当に賢く優しい子で、Mさんが息子を叱っていると間に入ってきて止めたこともあるんですよ。こんなこともありました。災害の時、Mさんのお母さんが避難してきたんです。腹痛もあって不安だと。今までにゃん丸くんは、お母さんに興味を示したことなどなかったのに、横になっているお母さんの痛むお腹の上に乗り温めてくれました。

人生2周目?と疑うほど賢くて優しい子なんです。にゃん丸くんがF家に迎えられてから、笑い声が絶えません。

ところが、F家に迎えられて2年経ったころ、にゃん丸くんに腎臓病が見つかります。食欲も体重も落ち、どんどんと衰弱していくにゃん丸くん。それでも、毎日のFさんのお出迎えは欠かしませんでした。

1年ほど闘病の末、家族に見守られながらにゃん丸くんは永眠。日差しが色鮮やかになる2020年の5月のことでした。家族はもう涙も出ないというほど泣きました。涙が枯れ果てた時、思ったのです。「にゃん丸と同じような境遇の子を迎えよう」と。

現在、F家には保護猫が2匹迎えられています。いずれの子もシニア猫だったり未発症ながらも猫エイズキャリアだったりと、なかなか里親さんが現れなかったのだそう。ですが、それがにゃん丸くんの境遇に似ていて愛おしく感じたんですって。その子たちが今、家族の心を和ませてくれています。

保護猫を迎えるだけでなく、Mさんは動物愛護団体「アニマルレスキューたんぽぽ」でボランティアに携わるようになりました。

「にゃん丸と出会わなければ、保護猫に携わることはなかったでしょう。私たちの人生観を変えてくれました」

そうMさんは言います。

人間に何度も裏切られ、それでも人間を信じたにゃん丸くん。彼の存在が今、つらい思いをする猫たちを救っているようです。

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▽アニマルレスキューたんぽぽ
https://lit.link/animaltanpopo

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