「熱海土石流で捜索後のコア。この日の現場は洗い場がなく、とにかくがんばってくれた犬を清潔にきれいにしてあげたいと思いながら待機場所に戻る途中、市民の方が『この水道で洗っていって」と声をかけてくださり、とても嬉しく、助かりました。ありがとうございました」というつぶやきと共に、1枚の写真を投稿した、日本捜索救助犬協会さん(@rescuedog911)。
そこに写っていたのは、4本の足とお腹が泥で真っ黒になった「救助犬」コアくんの姿。2021年7月に静岡県熱海市・伊豆山地区で起きた、大規模な土石流災害の現場で捜索にあたった「救助犬」の活動について、日本捜索救助犬協会さんに話を聞きました。
とても嬉しく助かったのは人間の方だよ、ありがとう
「救助犬」とは、 その鋭敏な嗅覚を使い、土砂に埋もれた家屋や瓦礫のなかから「救助を待つ人」を探し出す犬のこと。『熱海土石流災害』の現場には2メートル近くの土砂が堆積し、「救助犬」とハンドラーさんたちは泥だらけになりながら捜索。その姿を見た地元の方が水道にホースをつけて、「犬を洗ってあげて」と声をかけてくださったそうです。
そんなコアくんたち「救助犬」とハンドラーさんたちの姿に、リプ欄には、感動と感謝の声が殺到しました。
「ありがとう…涙が出る」
「とても嬉しく助かったのは人間の方だよ。ありがとうございました」
「救助のため忠実に捜索してくれたワンちゃんに感謝です」
寄せられた多くのリプライのなかには、「肉球は怪我してませんか?」「靴は履かせないのですか?」など、過酷な現場で活動する「救助犬」の安全を気遣う声も。
まだまだ知られていないことも多い「救助犬」の実態。そして、救助犬を指揮する「ハンドラー」さんと犬たちの絆について、『日本捜索救助犬協会』さんにお話を伺いました。
被災地住民の方が「この水道で洗っていって」と声をかけてくれた
ーー地元の方から「この水道で洗っていって」と声をかけてくださったそうですね。
「はい、ありがたいことでした。2014年に起きた『広島市土砂災害』の現場でも、市民の方が水道を貸してくださいました。ちなみに、写真のなかで犬を洗っているのは、犬とペアを組んでいるハンドラーになります。救助犬たちは水洗いされた後、帯同した獣医師による身体検査を受け、怪我などをしていないか確認してもらいました」
ーー現場にはつねに獣医さんが帯同されるのですか?
「獣医師を帯同できたのは2021年の『熱海土石流災害』の現場が初めてでした。当協会では以前から、ハンドラーの手助けをするヘルパー、サポーター、広報担当、獣医師の帯同が望ましいと考え、提言してきました。ヘルパーサポーターと広報担当者を帯同できたのは2018年からになります」
ーー災害が発生した際、「救助犬」が出動するまでの流れを教えてください。
「混乱した被災地では、救助犬に対して瞬時に派遣を要請することはほとんど困難かと思います。ですので、我々救助犬の側から連絡し、被災地の役所や消防等から捜索の要請を受ける、という流れになります。その後、被災地の対策本部に入り、救助犬がどんな場面で必要か?という会議を経て、どの機関と捜索を共にするかが決定します」
犬たちは愛すべき大切な家族であり、頼もしい『相棒』
ーー「救助犬」と行動を共にし、現場で指揮を取る「ハンドラー」さんは、犬たちとどんな関係なのですか?
「救助犬とハンドラーはつねにペアで活動します。当協会では、自分の家で飼っている犬を救助犬として育成し、災害地に派遣しています。もちろん、訓練士などにハンドラーを依頼するケースもあります」
ーーハンドラーさんにとって「救助犬」はどんな存在ですか?
「それぞれの家庭で飼っている犬たちですから、愛すべき大切な家族であり、頼もしい『相棒』でもあります。寝食を共にし、よく遊び、一緒に汗を流して訓練をし、災害現場でも協力して行動しますので、お互いに深い信頼関係で結ばれていると思います。
実は犬たちは『捜索』や『訓練』を、人間と一緒に楽しむ『ゲーム』のような感覚でとらえているんです。朝起きた瞬間から、今日は何をするの?外で遊べる?車に乗りたい!車に乗ると良いことや楽しいことがある! そんなふうに犬が期待できる『楽しい』の積み重ねが、やる気のある良い救助犬の育成につながるのではないかと考えています」
ーー被災現場での作業時、「なぜ犬に靴を履かせないのか?」という声も寄せられていましたね…。
「犬が靴を嫌がらないよう日頃から訓練しており、新潟地震の被災地では屋根に登る際に履かせましたが、屋根の上で3足の靴が脱げてしまいました。犬は自分の足指やパット(肉球)を使って足元の情報を察知し、瓦礫や土砂の中も上手に歩きます。むしろ靴をしっかり履かせることが原因で足をひねったり、足裏の感覚が鈍くなるなど、歩行が普段と違う状態になり、犬に危険がともなう場合があるんです。
靴を履くか履かないか…そのときの状況次第でどちらが犬にとって安全なのか?その犬をいちばん思いやり、共に現場で行動しているハンドラーがしっかり判断していますので、どうかご安心ください」