2回転…半?フィギュアスケートみたいな「道路標識」 目が回りそうな橋を知らせる…“謎”なデザインの理由を聞いた

伊藤 大介 伊藤 大介

2回転…半…?フィギュアスケートのような道路標識が話題になっています。道路愛好家の平沼義之(@yokkiren)さんがTwitterに「2回転半」と書かれた標識と、ぐるぐる回るらせん状の音戸大橋(おんどおおはし、広島県呉市)の写真を投稿すると、「ダブルアクセルなのか」「目が回るよここ」と反響を呼びました。しかし、なぜ橋が2回転半するのでしょう?しかも、標識の矢印は1回転しかしていない…。道路事情に詳しい平沼さんと、音戸大橋を管理する広島県に聞きました。

正円のカーブで、数十秒アクセルをふかし続ける

音戸大橋は広島県本土と瀬戸内海に浮かぶ倉橋島を結ぶため、1961年に開通しました。平沼さんは2020年12月、自転車で初めて音戸大橋を訪れたといいます。

「ループの途中や橋の上で立ち止まって、行き交う車の流れるさまを思う存分堪能することが出来ました。ミニカーを使って遊ぶ立体駐車場のおもちゃにはこういうループの道路があって、私は子供のころそこにビー玉を転がして遊ぶのが好きでした。それを等身大で見ているような楽しさがありました」

その後、車で音戸大橋を走行した際は、独特の回転を体感しました。

「自動車でこのループを通ると、ハンドルの切れ角を一定にしたまま何十秒もアクセルを一定に踏み続けるという、普段の道路ではしない運転操作を楽しめます。ふつうの道路には正円のカーブというのはあまりなく、クロソイド曲線(カーブを曲がりやすい緩和曲線)が主に用いられているのですが、ここは正円のカーブが900度(2回転半)も続くので、ループに入ってから出るところまで、速度一定なら常にハンドルを同じ角度で切り続けることになります。こんな操作、ふだんしません」

うーん、かなり変わった運転感覚のようですね。そういえば地元の人が「実際走ると、それ(2回転半)よりも沢山回ってる気がします」とリプライを寄せていました。

2回転半、大型船舶が通る高さを稼ぐため

そもそも、なぜ2回転半させる必要があったのでしょう。広島県のホームページによると、「音戸大橋の建設にあたっては,狭小な音戸側用地の制約と1000t級の大型船舶が航行できる桁下高さの確保が課題であった」「このため音戸側は,世界でも珍しく我が国では初めてとなる『2層半螺旋型高架橋』を,また,警固屋側も地形を上手く利用したループ式道路を採用することで,狭小な用地内で桁下高さ23.5mを稼ぐという,一石二鳥の画期的な方法で課題の解決を図ることとなった」とあります。大型の船が通ることができるように、ぐるぐる2回転半して、橋の高さを稼ぐ必要があったんですね。

 標識はなぜ1回転?デザインの謎

 では、なぜ標識の矢印は1回転なのでしょう?広島県西部建設事務所へ取材すると、従来のデザインに「2回転半」と文字を加えた男性職員に行き着くことができました。男性職員が2016年度に改良を加える前から、音戸大橋には矢印が1回転する標識がかかっていたといいます。「ひし形の黄色い警戒標識は、十字路の交差点があるとか、踏切があるとか、警戒すべきことを知らせるものです」と男性職員。通常、道路に掲げられている警戒標識は法定のデザインのものですが、矢印で1回転する標識は、法定のデザインではなく、オリジナルの可能性が高いといいます。

男性職員は1回転のデザインはそのままに、「2回転半」と文字を付け加えるマイナーチェンジを行いました。「『2回転半』という表現は昨今フィギュアスケートでも『ダブルアクセル』という表現がお馴染みとなってきたことから、これにヒントを得たものです」と男性職員。なんと、まさにフィギュアスケートから着想を得たものだったとは!2014年はソチ五輪で浅田真央さんがトリプルアクセルを跳び、日本中に感動を呼びました。男性職員の頭にも、浅田真央さんの勇姿が記憶に残っていたのかもしれません。

それでは、なぜ矢印を2回転半にしなかったのでしょう?「矢印を2回転半もさせると、逆に分かりづらくなると思ったので、文字で説明しようと思いました」「それに、従来のデザインを尊重したかったんです。過去の先輩たちが苦心した揚げ句、実際の道路をイメージしやすいものを追求してたどりついた標識だったと思うし、地元ドライバーに親しまれてきたデザインを急に変えると、混乱を招く恐れもありました」と振り返ります。

道路愛好家の平沼さんも矢印1回転デザインを高く評価します。「標識の設計者は、珍しい2回転半をドライバーに簡潔に伝えるにはどうしたら良いか相当に考えて苦心したと思いますよ。前例のなさそうな表現ですが、簡潔であり必要十分。惚れ惚れするほど素敵です」

フェリー見下ろす初期の海上橋

また、平沼さんは海上橋としても魅力があるといいます。

「音戸大橋の本体である海上橋部分は、全国屈指の狭い海峡を、橋の高さと比べてもあまり余裕がないフェリーなどが頻繁に航行するので、それを見下ろすのは面白い体験です。さらに、この橋は全国的に見ても比較的初期に建設された海上橋であり、今や世界に誇る我が国の架橋技術の進歩の礎となった、技術的にも重要な構造物です。そして現在はこの音戸大橋のすぐ近くに、遙かにスケールの大きな第二音戸大橋が存在しており、見較べることで技術の進歩を感じられると思います」

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かめばかむほど味が出る音戸大橋。今回、解説してもらった平沼さんは2021年12月、「日本の道路122万キロ大研究 増補改訂版」 (じっぴコンパクト新書)を出版しました。「道路ファンが一人でも増えたら良いな」という思いから、道路の楽しさや奥深さを解説した一冊です。「今回の2回転半にしても、道路標識の基本的なルールを知った上で見ればこそ、珍しさが際立つはずです」と語っています。廃道をテーマにしたトークイベント「廃道の日5」も2月に大阪、3月に東京で開催予定です。道路に興味のある方はチェックしてみてください。

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