トラック盗難で廃業危機の人形劇団…激励の声が続々 勇気づけられ、気持ち新たに「続けていきたい」

太田 真弓 太田 真弓

「こどもにゆめを おとなにやすらぎを」を合言葉に、等身大ぬいぐるみ人形劇を全国で公演している劇団こぐま座(千葉県松戸市)を襲った年始早々の劇団トラック盗難事件。その情報はTwitterで拡散されました。

「1月8日深夜から9日の朝の間に劇団の3tトラックが盗まれました。こちらのトラックを見かけた方がいらっしゃいましたらご連絡ください。このトラックがないと公演ができません。どうか、よろしくお願いいたします。」(劇団こぐま座Twitterに投稿された文章・現在は削除済み)

劇団こぐま座(@kogumazagonta)演出部 脚本・演出家の山本周平さんは、盗まれたトラックについての情報を【拡散希望】でツイート。たくさんのリツイートと共に、多くの目撃情報や捜索に向けてのアドバイスが山本さんの元に寄せられました。想像以上の応援が届き、強く励まされながら山本さんは状況の更新を続けます。結果、1月11日警察からトラック発見の一報が。

ただし元通りの姿ではなくエンジンは破壊されており動かない状態に。積荷にあった人形など(製作費に1000万円ほど)の状態は不明だったそうです。

事件の顛末まで情報を発信し続けた山本さん。その後のお話や、今後の劇団の活動のことなど、お話をお伺いしました。

「壊れていたり、使えなくなったものも」

ーー現在、トラックやお衣装・人形などはどのような状況でしょうか?

1月14日にトラックと積荷を引き取りに鉾田警察署に伺いました。トラックはやはり自走が難しい状態でしたので、後日改めてレッカーで事務所に運ぶことになりました。積荷ですが、照明機材が数点なくなっていました。鉾田警察署の皆様が引き続き探してくださるということです。

他にもセットがいくつか壊れていたり、幕など雨に濡れていて使えないものも多くありました。ぬいぐるみにつきましては、誰一人欠けていませんでした。少し雨に濡れている子がいたり、傷ついている子もいましたが、お直しすればまた一緒に子どもたちの前で活躍してくれると思います。通報していただいた方、解体寸前に発見してくださった鉾田警察署の皆様のおかげです。ありがとうございます。

ーーぬいぐるみ、誰一人欠けず!!それは本当に良かったです。トラックに再会できた際のお気持ちをお聞かせください。

ようやく、現実のこととして受け止めることができました。長年、一緒に頑張ってきたトラックですので、やはり悲しいですが、解体されることなく帰ってきてくれて本当によかったなと思います。

一緒に確認した劇団員とともにしばらく無言で眺めていました。皆、言葉にできない思いがあったように思います。それぞれの思い出があったでしょうから…。トラックの状態ついて劇団員同士で話すこともありませんでしたが、思いは通じあっていたと思います。

そして、1月17日にレッカーでようやく劇団の元に戻ったのですが、損傷が激しく修理ができない状態のため残念ながらお別れすることになりました。長年共に走り続けてきたトラックですのできれいに塗り直し、感謝を込めて送り出しました。

きっとまたどこかで再生し、活躍してくれることを祈っています。また、現在トラックを扱う事業者様から協力のメッセージが寄せられ、ご提供いただくことで話が進んでいます。本当にありがとうございます。

「未来を自ら閉じることはやめようと…」

ーークラウドファンディングや募金を希望する声が多数寄せられており、1月12日時点では「劇団の体力的にリターンの準備等の企画を行うのが現状では厳しく、結果お気持ちに応えられなかった場合の申し訳なさを考えてしまう。今後の劇団運営にもかかわるため、少し劇団員で話し合う時間をいただけたら」とツイートされておられました。今後の経営・運営にあたり見通しや希望などあればお聞かせください。

劇団内で改めて話し合いました。ありがたくご寄付を頂戴することに決めました。当該ツイートを公開した際に、「(クラウドファンディングの)見返りはいらないです」といったお声をたくさん、たくさん、いただきました。我々への純粋なご厚意を、申し訳ないと思うこと自体が失礼なのではないかと思い至りました。

これだけの後押しをしていただいて、団体の未来を信じてくださる皆様のためにも自信を持って活動していきたいと…。これからもきっと、うまくいかないことがあると思いますが、劇団の未来を自ら閉じるようなことはやめようと、ご支援を賜る決断をしました。経営を続けられる可能性がある限り、皆様にいつ見られても恥ずかしくない活動をこれからも続けていきたいです。

ーー劇団員さん含め、こぐま座さんが負った傷はかなり深いとは思うのですが、これからどんな活動をしていきたいかなど現段階でのお気持ちをお聞かせいただけますか?

まずは劇場、幼稚園での公演をいつまでも大事に続けていきたいです。実際に肌を触れ合うのが難しい毎日になりましたが、生のお芝居の面白さを子どもたちに体感してもらえるような仕組みを考えていきたいです。

まだ自分自身に子どもがいるわけではないので想像でしかないのですが、お子様を連れて劇場へ足を運ぶというのは親御さんにとっても、かなりの重労働だと思うんです。労力をかけてでも、こぐま座のお話を子どもたちに見せたいと思っていただけるように、まずは私たちの面白さを知っていただくための活動をしていきたいです。

その手がかりとして、Twitter、YouTube、TikTokの更新は続けていきたいです。このほかにも、劇団としてやってみたいことはたくさんあります。はからずもたくさんの方に注目していただいたことで実現できるかもしれません。時間はかかるかもしれませんが、楽しみにしていてほしいです。

「みんなの声が、前を向く勇気を与えてくれた」

ーー今回の反響で印象に残ったことはありますか?

「小さい頃に見たことがあります」「娘が楽しそうに話していました」といった感想が数多く寄せらていて、それがとても心に残っています。幼少期の、たった1時間から2時間前後の公演を、大人になっても思い出してもらえるというのは、先代の伊藤と座長の隈、そしてそこに集まった劇団員たちの熱意が伝わっていたことを教えてくれました。

そして、その作品を現・代表の山本を筆頭に長年に渡って守り、磨きながら、新しいお話も創作しつづけてきたからこそ、今の子どもたちも変わらずにこぐま座のお話を楽しんでくれているのだと気づくことができました。「こぐま座の作品が世代を超えて愛されている」と確信をもつことができたのは、演劇を続ける理由を見失いかけていた私たちに前を向く勇気を与えてくれました。 

ーー昨今、人形劇自体を見る機会が減りつつある印象にあります。だからこその“等身大のぬいぐるみ人形劇団”を手がけていらっしゃるこぐま座さんが考える自身の公演の最大の魅力とは何でしょうか?

大人も子どもも隔てなく、一緒に楽しめることにあります。子どもたちは、たくさん笑って、たくさん泣いて、たくさんドキドキして、自分の中の初めての感情に出会うかもしれません。

その出会いの瞬間を間近でみた親御さんの胸中には、かつての自分の姿がよぎるかもしれません。子どもだから分かること、大人になったから分かること… 人生その時々の発見を楽しむような、そんな時間になっていたら嬉しいなと思います。

ーー再スタートには時間も費用もかかると思うのですが、今回のリプ欄を拝読させていただき、こぐま座さんの公演を観て育った方をはじめたくさん方々が人形劇の復活を心待ちにしてくださっていると伺えました。今回エールをくださった方々へ改めてメッセージなどお願いいたします。

たくさんの応援、本当にありがとうございました。わたしたちは数えきれないほどの人たちに支えられて演劇を続けてきたのだと、改めて実感しています。子どもたちの笑顔のために、というとおこがましいですけれど、私たちはとにかく一生懸命創作をして、その結果として、たくさんの子どもたちに喜んでもらえたら嬉しいです。

そんな幸福な瞬間を迎えるために、今できることを楽しく積み上げていけたらいいなと思っています。これからも応援いただけるようにがんばります。

       ◇       ◇

今年で創立53年目を迎える劇団こぐま座さん。専業の劇団員とスタッフ1名が在籍し、たくさんの俳優さんやスタッフの協力によって、老若男女問わずたくさんのオーディエンスに喜びや感動を与えてきてくれました。

そんな長い歴史の中で起きた今回の不運ですが、お話を伺い山本さんをはじめ劇団員の方々の感謝の思いとこれからの活動に向けての強いお気持ちが伝わってきました。また、コロナ禍の中、劇団員の方々の工夫とプラス思考で演出のアップデートをしながら公演を続けておられ、こぐま座さんの今後の復活と更なる展開に期待したいですね。

現在、劇団こぐま座さんでは「ご支援について」という特設サイトをオープンし、事件の概要や寄附についての詳細を公開しています。情報はオフィシャルHPとオフィシャルTwitterで随時更新していくそうです。

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■劇団こぐま座関連情報
公式サイト https://kogumaza.co.jp
ご支援
について https://www.kogumaza.co.jp/shienpage

■YouTube「こぐまっこちゃんねる」 https://www.youtube.com/channel/UCDjB6i85_1JI-ciXBurY9GQ

■Tiktok https://tiktok.com/@kogumazagonta

■Twitter https://twitter.com/kogumazagonta

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