童話の中ではなくあなたの身近に!冬は「キツツキ」と出会える絶好の季節です【前編】

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キツツキというと、動物もののファンタジーでは必ずと言っていいほど登場しますから、どこかメルヘンの中の生き物と思われがちです。でも実は、深山幽谷や外国に行かなくても、日本の都市や住宅地でも普通に見られる身近な野鳥なのです。特に冬は、山にいるキツツキも人里付近に降りてくることも多く、落葉樹の葉がなくなって見通しの良い冬の疎林や公園では、高い確率でキツツキと出会えます。鳥類の中でも特異な進化を遂げたキツツキについて、前後編で解説します。

落果したドングリを啄むアカゲラ。冬はキツツキ類を見つけやすい季節です


クライマーもあこがれる?キツツキのスペシャルな超能力

キツツキ科 (Picidae)は、スズメほどの大きさからカラスに匹敵するほどの大型種まで、世界に180種ほど、ヒメキツツキ類を含めると230種ほどが知られ、特に中南米アメリカは分布の中心地です。
キツツキ科の最大の特徴と言えば、科名の所以にもなっている樹木の幹に垂直に止まり、嘴で幹に穴をうがつ習性です。樹中に巣くうカミキリムシの幼虫や多足類、アリなどの昆虫類をあけた穴から引きずりだして食べるほか、枯れ木に繁殖用の巣となる樹祠を作るためと、テリトリーと異性へのアピールのため(ドラミング)としても活用します。
木をうがつ際には、何と一秒間に約20回ものハイスピードで硬い樹木を突き抜きます。想像してみてください。もし私たちが口に鑿(のみ)をつけて何百回もヘッドバンキングしながら木に穴をあけるとしたら。たちまちむち打ちにはなるでしょうし、感覚器の集中した頭部の眼球や内耳、鼻腔や口腔内などにダメージがありそうです。それ以前に脳がゆれて気絶してしまうかもしれません。
キツツキはなぜそんなことが可能なのでしょうか。
キツツキの口舌は、舌の起点(つけ根)は上嘴の先端部分付近にあり、ここから片方の鼻孔をぬけて皮膚下の額を通り、頭蓋をぐるりと周って喉の後ろ側から嘴内に戻ってくる構造になっています。実際に舌となる組織は人間の舌と同様先端部のみですが、頭をぐるりと一周したつけ根部分は舌骨と呼ばれる柔軟で丈夫な軟骨組織と筋肉で、嘴の長さの4倍以上にも長く伸ばすことができ、穴の奥の虫を引きずりだすのに役立つのですが、この舌骨が頭蓋骨をとり囲むことで、掘削時の頭部への衝撃を緩和するクッションの役割も担っているのです。
また、掘削した木屑が目を傷つけないように丈夫な瞬膜を備えており、この頑丈な瞬膜が眼球を飛び出さないように固定しています。
上半身の激しい掘削運動を支えるために、キツツキの下半身は独特の形状に進化しています。足は頑丈で短く、足指は前二本、後ろ二本に分割された外対趾足(がいたいしそく)になっており、ピッケルのように幹に食い込んで垂直な幹を上下左右へと自在に移動する起点になります。そして尾羽は、羽軸が靴ベラのように内側に湾曲し、特に中央部の二枚は強靭で長くなっていて、これを幹にぴたりとつけて、体重を支えます。両脚と尾羽の三点で体を支えているわけです。

小柄なコゲラですが、樹幹に直接グリップできる頑丈な指をご覧ください


地域密着の愛らしい小型キツツキ【コゲラ】

日本列島には、北から南まで実に様々なキツツキが生息しています。
まずは近年ますます都市鳥化が顕著となりつつある日本最小のキツツキ、コゲラ(小啄木鳥 Dendrocopos kizuki)をご紹介しましょう。
全長は15センチほどでスズメやシジュウカラとほぼ同じ、黒に近いこげ茶色と白の細かな斑模様で、オスには後頭部の両側面に、わずかに赤いポイントカラーが入ります。
全国で一年中普通に身近で見られますが、特に冬には頻繁に住宅地に現れます。ただ世界的に見ますと、日本列島のほか、中国北東部からサハリン、ウスリーなど、東アジアの東北部のごく狭い地域にのみ分布し、このため英語名もJapanese Pygmy Woodpecker で、後述するアオゲラとともに、「日本のキツツキ」と言っても過言ではないでしょう。
渡りをしない留鳥であるだけではなく、ほとんど縄張りから出ることがない地域密着型の小鳥で、そのため地域差が大きく、日本の中でも9種の亜種が確認登録されているほどです。
育雛用の巣は、枯れ木に入口が牛乳瓶の蓋くらいの穴をあけ、奥行き15センチ、産座の直径6センチほどの空間をうがちます。産座には、木を掘った時の木屑が3センチほども敷き詰められて快適に過ごせるようになっています。雌雄のつがい二羽で育雛をしますが、夜間の抱卵はオスが行うというちょっと珍しい習性も知られています。
この巣は冬にも成鳥がそのまま使用し、オスメスともに個体ごとにそうした「家」を持ちます。あくまで地域密着というところがなんだかかわいいですよね。
繁殖期ではない冬には単独または4~5羽の集団で、シジュウカラ、メジロ、エナガなどの他種の小鳥との混成部隊を作り、盛んに移動をしながら採餌をします。猛禽などの敵に襲われるリスクを少なくするためとも思われますが、コゲラと行動を共にする小鳥たちは、コゲラの真似をするように木の幹をつついたりしているので、コゲラが木の幹にあけた穴から他の小鳥も昆虫類などのおこぼれにあずかっているようです。
人を恐れず物おじしない愛嬌のある性格で、観察していてもほとんど逃げることはありません。「ギュリー、ギュリー」というよく響くバイブレーションの効いた特徴的な鳴き声ですぐそれとわかりますから、ぜひ近くの木をさがしてみてください。

おうち大好き、地元大好きのコゲラ。国内ですら9種の亜種が知られます


絣の着物に赤い腰巻。かわいいキツツキのイメージそのままの【アカゲラ】

「キツツキ」と言ってまずビジュアルとして思い浮かぶ典型的なキツツキ類がアカゲラ (赤啄木鳥 Dendrocopos major)です。「メジャー」という学名からも、日本全土に繁殖しているイメージがありますが、九州や四国には分布していません。
全長24センチ前後のツグミほどの中型のキツツキで、背中は漆黒で翼の付け根部分に大きな白い班が入り、先端部に行くにつれてドットの連続による細かい白斑が並んで、白黒の縞模様に見えます。羽を広げると特にそのドットの縞模様は美しく、かつて「絣の着物」に例えられたのもよくわかります。腹部から尾羽の付け根にかけて鮮やかな赤で、このため「赤ふんどし」という方言も知られます。オスには後頭部にも真っ赤な色が入ります。おなかと目の周りは純白で、このため目がばっちりと見えて、顔立ちがかわいらしく見えます。
広葉樹林や針葉樹林問わず生息し、木から木へ、さかんに移動しながら昆虫類や多足類を捉えて食べます。
キツツキは皆垂直の木に止まるのが上手いとはいえ、アカゲラは特に自由自在で、高い木の幹をクルクルと無重力かのように移動する姿はいくら見ていても飽きません。
ドラミングはオスメスとも行い、よく響く枯れ木を選んで高らかな音色を奏でます。

強靭な嘴で巣を作り、子育て。放棄された巣は他の動物の住処に利用されます


純正日本固有種の美しい大型キツツキ【アオゲラ】

アオゲラ(緑啄木鳥 Picus awokera)は本州以南に生息する日本固有種で、種小名もそのままAwokeraです。アカゲラよりひとまわり大きく30センチ近くにもなる中大型のキツツキです。顔から腹部にかけては灰色、腹部には細かい黒の縞模様が入ります。背面から尾羽はメジロによく似たモスグリーンで、後頭部と頬に赤い色が入ります。
アカゲラの多い地域にはなぜかアオゲラが少ないなどの傾向があるのですが、一般に思われているよりも個体数は多く、繁殖期は森林で生活しますが、冬にはたびたび集団で市街地にも現れます。
主食は他のキツツキ類と同様昆虫類なのですが、アオゲラの場合は蟻を好み、そのため地上に降りて蟻をついばむこともよくあります。また木の実を好み、アケビやハゼの実などを食べるためにヒヨドリのように枝に止まって実を食べる姿も見られます。晩秋から冬には柿の実などを食べに人家に訪れることも多く、日本にしかいないこの鳥を観察できるチャンスです。
地鳴きはアカゲラとよく似た「ケレッ、ケレッ」という鳴き声ですが飛び立つときには笛のように聞こえる「びおー」という声で鳴きます。オナガのようによく鳴く種のため、鳴き声に気を付けていると、見つけられる確率が上がるでしょう。
また大型である分、繁殖期のディスプレイ行動であるドラミングも高らかで力強く、芽吹き時頃の森の高所で「どどどどどどど……」と響いてくる力強い木突き音は、キツツキの生命力と、「春が来るんだなあ」という感慨を抱かせてくれるものです。
この代表的な3種に加え、南西諸島に生息するノグチゲラ、秋田、青森、北海道に分布するクマゲラなど、キツツキ類のほとんどは「〇〇キツツキ」ではなく「ゲラ」という呼び名が共通してついています。この「ゲラ」とは一体何なのか。古代の政変「丁未の乱」も絡むキツツキの妖怪譚、そして、「ゲラ」とはつかないキツツキ類の珍種アリスイについて、後編で詳しく解説します。

本日28日は「納めの不動」。この一年もありがとうございました。皆様、良いお年をお過ごしください。

日本固有種アオゲラ。気をつけていますと、比較的よく見つけられます

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