怪異は身近なところに潜んでおり、そしてそれを食い止めようとする人たちもいるようです。原作・夜馬裕さん、作画・外本ケンセイさんの作品『厭談夜話』は、夜馬裕さんが30年以上かけて収集した実話怪談です。
同作のエピソード「第二十九談 動かないCA」では、飛行機のなかでの出来事が描かれています。X(旧Twitter)に『飛行機に乗ったら美人CAがガン見してくる話』というタイトルで投稿されると、約4100いいねの注目が集まりました。
外資系企業の管理職である剛は、ある日飛行機にて最前列に座ります。対面にはキャビンアテンダント(以下、CA)が座っており、剛は自分好みだと思っていました。しかしよく見ると、CAは表情も変えず微動だにしないのです。
ほかのCAは機内サービスを始めたにも関わらず、彼女は動かず剛を見つめるため気味が悪くなってきました。横の席の中年女性もCAが気になるようで、「落ち着かないったらありゃしないわ」と言います。
剛は「そもそもこのCA、飛行機に乗ってたか…?」と思い、隣の中年女性に尋ねました。中年女性は「最初からいたわよ」と言いますが、機内サービスを行っている別のCAに関しては「そんな人見覚えないけど?」と答えたのです。
訳がわからないまま、飛行機は無事に着陸しました。微動だにしなかったCAは動いており、剛は「普通に生きた人間じゃん」と安心しますが、CAから剛にメモ書きが手渡されます。
その後、剛はメモを見ると、「あなたの隣は空席です。そこにいたのはとても良くないモノです。」と書かれていました。実はCAではなく、隣の中年女性こそが『とても良くないモノ』だったのです。CAは剛に憑いていた『良くないモノ』が悪さをしないように、ずっと目で封じていました。
剛がジャケットを着ようとしたとき、内ポケットのなかに先ほどの中年女性が『一人でウェディングドレスを着てにっこりと笑う写真』が入っているのを見つけたところで物語は幕を閉じます。
読者からは「予想外の展開でびっくりした」「背筋がゾクゾクした」などの声が挙がっています。そこで原作者の夜馬裕さんに、実話の背景についてお話を聞きました。
『とても良くないモノ』は一方的な邪念を寄せる悪霊ではないか
―同作は夜馬裕さんが全国から収集した実話を元にしているとのことですが、「人間」と「悪霊」の見分けがつかないという話は多いのでしょうか。
私は霊感が一切ないので、生者と死者の見え方や区別について、「これが正解だ」というような回答はできません。ただ数多くの体験談を収集してきた中で、まるで生きた人間のように霊の姿がくっきりと見える話はたくさんあります。
その理由は主に二つあるのですが、ひとつはこの世ならざる存在の力が非常に強い場合です。日本には八百万の神がいるとされていますが、こうした神的な存在は明確な姿をとることが多いですし、人の魂でも強い恨みを残した怨霊や、生者に害を為そうとする悪霊などは、まるで生者のようにくっきりと見えるケースが多いように思います。おそらく霊としての「念の強さ」が、「存在の輪郭」とリンクしているのではないでしょうか。
この話では、メモの中で「とても良くないモノ」と書かれているので、強い執着や悪意を持った存在であるが故に、はっきりと生者のように見えたのかもしれません。
そしてもうひとつの理由は、体験者の霊感がとても強い場合です。こうした方は幼い頃から見えていることが多いのですが、「見えている」ことがわかってしまうと、死者には暗闇に灯る明かりのように感じられるのか、引き寄せられるように集まってくるようです。
死者から負の感情を日常的に向けられるのはとても辛く恐ろしいことですから、こうした方たちの多くは、スイッチのオン/オフのように見る/見ないを上手く切り替える方法を身に付けるか、自らの霊感を磨いて、死者の声や訴えを聞いたり、場合によっては除霊するなど、死者と積極的に関わっていく道を選んだりします。今回のCAさんは、「目で封じておりました」と言うくらいですから、きっと後者なのではないでしょうか。
剛さんには普通の人間に見えていましたが、「とても良くないモノ」と言うCAさんには、いったいどのように見えていたのか気になるところです。
―ウェディング姿の女性の写真は、剛さんに何を訴えようとしていたとご想像しますか。
剛さんから聞いただけの情報では、花嫁姿の女性の意図はわかりませんが、搭乗前から憑いてきている一方で、取材時に剛さんは「写真の女性には何の心当たりもない」と断言されていたので、おそらくは剛さんに恨みを持つ怨霊ではなく、一方的な邪念を寄せる悪霊のような存在ではないでしょうか。
中国を中心としたアジア圏には、未婚のまま亡くなった死者を弔うため、死者と生者の婚礼をしてあの世に送る「冥婚」という習慣があります。日本でも青森県や山形県の一部で行われてきた、未婚の死者の婚礼を描いて寺に奉納する「ムカサリ絵馬」という習慣があります。
単なる私の想像ですが、剛さんはこうした冥婚的な儀式の婚礼相手として、勝手に標的にされた可能性があります。剛さんは二枚目で身なりがよく、大企業の管理職としてたくさん稼いでいる独身男性なので、結婚相手として見初められたのかもしれません。
真相はわかりませんが、もしそうだとしたら、一方的な悪意を向けられるというのは本当に恐ろしいものです。
―同作以外のエピソードのこのようなホラー展開のものなのでしょうか?
その通りですね。この話は、現在「サンデーうぇぶり」でWeb連載中(隔週更新)の『厭談夜話』からの抜粋エピソードです。これは私が30年近くの年月をかけて集めた4000以上の怖い体験談の中から、選りすぐりの怪談を原作として描かれたホラーオムニバス漫画です。
漫画家の外本ケンセイ先生が巧みに再現する、恐怖のエピソードの数々が掲載されておりますので、今回の話が「面白かった」「怖かった」という方はぜひ漫画連載のほうもご覧ください。第1話目と、最新の2話は無料です。また、後追いの更新にはなりますが、「マンガワン」でも本作をご覧いただけます。
さらに、単行本としても刊行されております。こちらは全国の書店またはオンライン販売でお求めいただけますので、ぜひよろしくお願いいたします!
<原作・夜馬裕さん関連情報>
▽X(旧Twitter)
https://x.com/yamayu_ggh
<作画・外本ケンセイさん関連情報>
▽X(旧Twitter)
https://x.com/hokaron1101
『厭談夜話』
▽掲載サイト(サンデーうぇぶり)
https://www.sunday-webry.com/episode/4855956445114741512
▽単行本第1巻(Amazon)
https://amzn.asia/d/0YHKIRn