工房系ランドセルメーカーの老舗で、数多くのハイクオリティな革製バッグや小物類を展開する土屋鞄製造所(以下、土屋鞄)。通常の革製品の充実ぶりもさることながら、リユース品の販売や、革を使ったインテリア雑貨シリーズを展開するなど、なかなかラジカルなメーカーでもあります。
この土屋鞄では、近年、様々なカバンを発表しており、中にはスイカバッグ、花束専用鞄、雪だるまバッグなどもあります。
そんな中、昨年11月にはなんと鬼退治専用のカブト鞄なるものも発表しました。
「カブトが鞄になる」「鞄がカブトになる」……どちらが正しい表現かはわからないですが、これまた手の込んだバッグであることだけは間違いなさそうです。
しかし、土屋鞄はどうしてこれほどまでに従来になかった、言わばニッチすぎるとも言えるバッグを発表し続けるのでしょうか。今回は、このカブト鞄のディテールチェックと合わせて、土屋鞄担当者にも話を聞いてみました。
発案者は5歳「絵本に出てくる悪い鬼をやっつける」がコンセプト
創業は1965年。ランドセル職人が立ち上げた工房を発祥とする土屋鞄は、「時を超えて愛される価値をつくる」をコンセプトに、10年以上愛される定番アイテムから限定品まで、良質な素材を生かしたアイテムばかりを展開しています。
高い技術と、柔軟な発想を持ち合わせているというわけですが、今回のカブト鞄は「いつでも戦える」をコンセプトにしながらも、機能性も充実させているバッグのようです。
写真でわかる通り、革そのものはもちろん、金具一つにとっても良質な素材が使われており、また、その構造も複雑でありながら、慣れさえすれば扱いやすいもの。単に面白アイテムの範疇のものではなく、かなり本格的な2WAYバッグであるように思いました。
このアイディアを立案したのは広島県在住のはるきくん(5歳)という男の子。土屋鞄が昨年実施した「こんな鞄があったらいいな」のアイディア募集に対し、「絵本に出てくる悪い鬼をやっつけたい」という思いから、このカブト鞄発案を持って応募し、見事土屋鞄が具現化したものでした。
土屋鞄が考える「時を超えて愛される価値をつくる」に準じ制作されたバッグだった!
しかし、どうして老舗ランドセルメーカーの土屋鞄が、このカブト鞄や、冒頭でも触れたようなスイカバッグ、花束専用鞄、雪だるまバッグなど、利用頻度がかなり制限されるカバンばかりを発表するのでしょうか。
この点の思いと秘密を土屋鞄の担当者に聞きました。
「弊社では『職人の遊び心と、日本の丁寧なものづくりで培ってきた確かな技術』を伝えていきたいと考えています。こういった背景からまずスイカバッグをリリースしました。リリースのタイミングが新型コロナウイルス感染拡大の影響で、多くの人にとって心が休まらない状況が続いていた頃でした。こういったことから技術面だけではなく、職人の技術やものづくりを通したワクワク感やときめきをお伝えできればと『運ぶを楽しむ』シリーズとして様々なバッグを発表しています。
今回のカブト鞄は『こんな鞄があったらいいな』シリーズのもので、お子さまの自由で柔軟な発想を、職人が日々磨き続けているランドセルや鞄づくりの技術や知識を生かして形にできたらとスタートした企画です。第2弾となる今回、小学生以下のお子さまが考える『理想の鞄』のアイディアを公募したもので、128点の中から選ばせていただきました。
128点の応募案はアイディアがカブっているものも多かったのですが、飛び抜けてユニークであり、完成形の予想もつきにくかったのがカブト鞄です。普段は肩からかけられるショルダーバッグでありながら、いつどんなときに鬼が現れてもカブトに変形させかぶれる「帽子」でもある2WAY仕様のものです。単なる“面白商品”ではなく、製品は随所に技量が光る逸品に仕上がっています。
私たちはランドセルづくりから始まり、革鞄や財布などの革製品をつくってきました。
ランドセルも鞄も共通していえるのは鞄を通して『時を超えて愛される価値をつくる』ことです。使い手の方の物語をつなぐような、長く愛される製品やサービスををつくり続けていくこと、日本の丁寧なものづくりを世界にも発信していきたいと考えています」(土屋鞄・担当者)
話だけを聞けば「どうして!?」とも思える土屋鞄の様々なバッグ類ですが、その裏には土屋鞄の深い思い、技術、そして老舗ということだけにおごらない柔軟な姿勢が隠されていました。今後も多くの人の度肝を抜き、さらに品質の高い革製品を発表してくれることに期待大です!