呼ばれないと、たどり着けない?…試される秘境の聖地 紀伊半島のど真ん中、熊野三山の奥の院「玉置神社」

小嶋 あきら 小嶋 あきら

お伊勢七度熊野にゃ三度。…伊勢音頭の一節ですが、関西の人にとって熊野詣では古くから馴染みの深い「旅」でした。昔、まだ普通の人たちが気軽に「旅行」なんてできなかった頃には、伊勢参りや熊野詣では、神信心を理由にした旅行、気散じといった側面があったのでしょう。

熊野詣でというと、ひとつの場所ではなく、熊野本宮大社、熊野速玉大社、熊野那智大社のいわゆる熊野三山と呼ばれるところにお参りするのですが、これらの共通の「奥の院」とされる神社があります。それが玉置神社です。

神社の由緒や来歴などはWikipedia等に大変詳しく書かれているのでここで説明するのは省かせていただきますが、本当に山奥です。熊野は紀伊半島の南側ですが、玉置神社はその北側、吉野と呼ばれるエリアとの間にあります。

桜で有名な吉野山には、金峯山寺という修験道に縁の深いお寺がありますが、そこから南へ、大峰山を経て行者が巡る道があります。大峯奥駈道と呼ばれる道です。そしてその南の端が玉置神社と言われています。

いま風の言葉で言うとまさにパワースポット、神秘とロマンに溢れた場所ですが、ひとつよく言われていることがあります。それは「呼ばれなければ行けない」という噂です。お参りに行こうとしても、その人がこの神社に「呼ばれてない人」だったらたどり着けない、というのです。

計画していたのに急用ができて行けなくなる、一緒に行こうとしていた人が体調を崩して取り止めになる、クルマが故障して引き返す、子供が熱を出す、飼っている猫が寝込む…、そういった諸々の事情ができてきてなかなか行けないのだそうです。

ただ、例えば山にいる鹿や犬猫などの動物は特にここに寄り付けないわけではありません。なので神様に「こいつはヒトじゃないよな」と思われた場合には特に支障なく行き着ける、なんて話もあります。

まあ、どちらにしても「試される場所」ということで、正直ちょっと怖いです。しかし、熊野三山を巡ったら、やはり次はここに参らないわけにはいきません。

原生林の中、確かに空気が違う(気がする)

玉置神社があるのは紀伊半島の真ん中、玉置山の山中、非常に山深い場所です。奈良県側からも和歌山県側からも、そして三重県側からもアクセスしにくいエリア。さらに言うと、どこからアプローチしても最後は細い山道です。

実際にクルマで向かうと延々と山道を走ることになります。こんな秘境に入り込んで大丈夫なのか、本当にこの先に神社があるのか、だんだん不安になってきます。しかし、たどり着くとそこには整備された広い駐車場があって、平日というのにそこそこクルマが止まっています。あれれ、と少し力が抜けます。頑張って山に登ったら実はロープウェイがあって…みたいなシチュエーションです。しかしまあここまで来られたということはたぶん「おめー呼んでねーよ」って言われなかったってことですよね。もしかして「動物と見なされた」の方かもしれないですが。

駐車場から先は山道を歩きます。日頃ほとんど歩かない身にはちょっと辛いかな、という感じの道のりです。しばらく行くと道が二手に分かれてまして「お体の不自由な方は左の道より参拝ください」と書かれています。ものすごく心惹かれるありがたいお言葉です。しかし身体は重いものの不自由と言うほどでもなく、ここで弱い心を見せてしまうと「やっぱりおまえ来なくていいよ」と言われそうなので、正直に右の道をたどります。

山中の細道をアップダウンしながら進むと、やがて突然目の前に急角度の石段と、荘厳な拝殿が現れました。よかったぁ、ちゃんと呼ばれてたんですね(いやいや重ね重ね動物枠かも知れませんが)。

標高1000メートル近い、深い深い山の中。原生林の中にたたずむ神社。ここは確かに空気が違う気がします。

アクセスが大変で、かつクルマがないとなかなかお参りしにくいところですが、機会があれば(そして自分が呼ばれていると感じれば)ぜひ一度お出かけください。

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