壁には「識別帽」がずらり…自衛隊員からも一目置かれる「自衛隊応援カフェバー」 オーナーの熱い思いを聞いた

平藤 清刀 平藤 清刀

若い頃からミリタリー好き。自衛隊に憧れていたが、がむしゃらに働いているうちに年齢を重ねて40歳近く。サバイバルゲームをコンセプトにしたカフェバーを始めたら、いつしか自衛隊応援団になっていた。今では部隊指揮官との付き合いもでき、訓練の見学に招待されることも。誰に頼まれたわけでもないが、お店を訪れる人たちに自衛隊の魅力を熱弁しているオーナーに、思いを聞いてみた。

店内は…まさに自衛隊一色

大阪市中央区東心斎橋にある雑居ビルの中に「即応桜 秘密基地」というカフェバーがある。店内へ足を踏み入れると、さながらミリタリーショップのような雰囲気。陸上自衛隊の戦車をはじめ戦闘車輛や海上自衛隊艦艇のプラモデルがズラリと並び、さらに奥へ入るとカウンターの奥にはF15イーグルやF4ファントムのプラモデルも展示されている。壁には「識別帽」という、自衛隊の部隊ごとに異なるデザインの帽子が端から端まで飾られている。

オーナーの佐伯宗平さんが、自衛隊を応援する拠点にしている店だ。

「即応桜としてやり始めたのは、昨年(2020年)の5月からです」

これまでSNSでの情報発信や駐屯地・基地などの表敬訪問を行い、一線部隊の自衛官や一般の自衛隊ファンのほか、陸・海・空自衛隊の将官クラスにもよく知られている。今年12月はじめには、陸上自衛隊北部方面隊で実施された戦車射撃競技会に招待され、実弾射撃を見学してきたそうだ。

佐伯さんが生まれ育った兵庫県伊丹市には、陸上自衛隊の伊丹駐屯地と千僧駐屯地がある。幼い頃には創立記念行事などのイベントをよく見に行き、自衛隊への憧れがあったという。

中学校から大学まで私立の一貫校に通い、卒業後は人材派遣の営業職として働いていたため、いったん自衛隊から遠ざかってしまった。その後、イベント企画や人材派遣業を起業したり飲食店を経営したりした後、サバイバルゲーム(サバゲ)をコンセプトにしたカフェバーを開店したら、現職の自衛官が来てくれるようになった。

「自衛官の方たちと仲良くなって一緒にサバゲに行ったりプライベートでも付き合いが始まったりして、お店が軌道に乗りかけた頃に昨年のコロナ禍です。自衛官は外出を制限されて、お店に来られなくなってしまいました」

佐伯さんは、店を閉めることも考えたという。

「そんなとき、自衛隊のロゴや日の丸あるいは旭日旗をあしらったマスクをつくって、SNSに出してみました。思いのほか反響があって、欲しいという人がたくさんいたので販売することにしました」

表敬訪問のアポはFacebookから連絡

佐伯さんは時間を見つけては、陸上自衛隊の駐屯地、航空自衛隊や海上自衛隊基地への表敬訪問も積極的に行っている。これまでの訪問先は、海田市、名寄などの駐屯地や、航空自衛隊小松基地、岐阜基地、海上自衛隊横須賀基地、呉基地など約40カ所におよぶ。

しかし佐伯さんは、一民間人に過ぎない。どうやって訪問のアポをとるのだろうか。

「Facebookから連絡を入れて、いつ、どこに行くので、お会いしませんか?と、気軽な感じです」

そんな感じでも意外と、駐屯地司令や基地司令クラスの将官が会ってくれるのだという。たしかに、Facebookにページをもっている部隊は多い。訪問先では、自衛隊の任務や活動をリスペクトする気持ちや、応援する活動をやっていることを熱く語る。また殉職隊員の慰霊碑が敷地内にあれば、かならず参拝して手を合わせるのだという。

店に展示されている識別帽やメダルの類は、訪問先の部隊で面会した司令や部隊指揮官から、信頼の証として贈られたものなのだ。

ただし、誰でも簡単に訪問できるわけではない。佐伯さんは駐屯地モニターや基地モニターのほか、「関西防衛を支える会理事」などの立場をもって信用を得ているのである。

若いお客さんに自衛隊の魅力を熱弁

2021年7月に熱海を襲った伊豆山土砂災害で、陸上自衛隊の部隊が災害出動した。このとき佐伯さんは、派遣された隊員たちのために靴下を寄贈している。また10月に和歌山で水道橋が崩落した事故のあと、給水支援に出動した部隊がろくに風呂にも入れないことを聞いて、大量のウェットタオルを送った。資金は店の収益や有志らによる支援だ。

ほかにも陸上自衛隊第13旅団の公式広報キャラクターにオリジナルデザインの「イザブロウ」、同じく名寄駐屯地に「狐名雪(こなゆき)」が採用されるなど、自衛隊を応援したい気持ちを実行動でも表している。

「とくに大阪は、災害派遣が少ないエリアです。具体的な活躍が見えにくいので、自衛隊の仕事について私が語ったり、YouTubeで自衛隊の動画を流したりしています」

誰に頼まれたわけでもないが、さながら本職の広報官なみの熱心さをもって「民間広報」を行っているのだ。

ところで、テレビ番組が取材する自衛隊は、たとえば陸上自衛隊はレンジャーや空挺など、体力的にきつそうな部隊ばかり。

「自衛隊に入りたいと思っていても、あんなのばかり見せられたら、体力に自信がないからと諦めてしまう子もいます。入隊してから体力は鍛えられるし、デスクワークをやっている職種もあるんだよということも話すようにしています」

そんな活動をSNSで見たり、佐伯さんを知る人から紹介されたりした人から、入隊の相談も受けるようになった。「入隊させたいから相談に乗ってほしい」と、息子さんを連れてくるお父さんもいるそうだ。

兵庫県出身の19歳、住吉光翔(すみよしひろと)さんも、佐伯さんに相談に乗ってもらった1人だ。

人の命を守る仕事に憧れて、中学1年生のときから入隊を夢見ていた。ところが家族に入隊の希望を伝えたら、母親は賛成してくれたが祖母から反対されたという。

「戦争を経験した世代ではないけれど、ときどき自衛隊で殉職される方のニュースを見て、危険な仕事というイメージをもっています。孫に先立たれるのはイヤだと」

両親は離婚しており、祖母にはたいへんお世話になったので、反対を押し切ることができなかった。

今はゲームクリエイターをめざしてプログラムやデザインを勉強しているという。それと並行して、自衛隊歴がなくても一般公募で予備自衛官になれる「予備自衛官補」をめざして準備しているそうだ。

佐伯さん曰く「今は募集につながるにはどうしたらいいかを考えています」

自衛隊に関心のある若い人がいれば、募集業務を行っている自衛隊地方協力本部に紹介している。

「来年の入隊が決まった人を含めると、これまで3~4人が入隊しました。1年半という期間では、少なくはないと思います。これからも、徐々に増やしていきたい」

佐伯さんの自衛隊熱烈応援は、これからも続く。

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【即応桜 秘密基地(非公式自衛隊ミュージアム)】
06-6125-5072

▽Twitter
@sokuouzakura

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