おもちゃで遊ぶ女の子の前に現れた、昆虫のように6本の脚が生えた歩くおもちゃ箱。前後に移動したり、1カ所に留まって上下の屈伸運動を披露したりする妙に可愛げのある箱ロボットに、女の子は床に散らばった縫いぐるみなどを次々と投げ入れていきます。
このSF感あふれる不思議なおもちゃ箱を作ったのは、IT企業でエンジニアとして働いているというlaniusさん(@lanius)。11月下旬に「歩くおもちゃ箱つくった。これで少しはお片付けが楽しくなるかも?」とTwitterに投稿したところ、「動きがかわいい」「欲しい」「生き物みたい」「(攻殻機動隊の)タチコマだ」「暗闇で遭遇したらマジで腰抜かしてしまう」と大きな反響を呼びました。一体どういう仕組みで動いているのでしょうか。
エンジニアのlaniusさんは、普段からITの価値をアップグレードするような新しいテクノロジーを模索しているそうです。過去の投稿では、おもちゃ箱以外にも踏み台やごみ箱にも脚を取り付けて動かしている様子が紹介されています(ちなみに、動画に写っている2人の女の子はlaniusさんの娘さんとのこと)。ご本人に話を伺いました。
ソフトウェアがロボットという「肉体」を得る
「ロボット技術はまさにデジタルの価値を高める重要な存在だと考えています」とlaniusさん。「本来パソコンやスマホの中でしか動かないソフトウェアですが、ロボットという“肉体”を得ることによって、人間の住まう物理空間で動いたり、モノを動かしたりして役に立つことができます」と話します。
「私が作っているロボットをそのひとつの典型として、価値を証明したり実現性を示したりできないかと考えています。この工作は趣味ではありますが、実益につながるとよいなとも思っています」
―身近な箱や踏み台に脚を生やして動かすという発想は、そもそもどういうところから生まれたものなのでしょうか。
「もともとは『心がある』と感じられるような人工物を作りたいと思ったことがスタートでした。最初は簡単なデジタル生物やペットロボットを作ったり遊んだりしていたのですが、毎回飽きて使わなくなってしまいました」
「あるとき、これは人工物に“愛着”や“心がある”と感じないから使わなくなるのではなく、逆に『使わないから心を感じるようにならない』のではないかと思うようになりました。そこで、飽きに関係なく、日常で使い続けられるような、生活の役に立つ人工物を作ろうと思ったのがきっかけです」
「今では『動いたら役に立ちそうなもの』を発見して実証することも目的のひとつになっていて、最終的には動いて人の役に立つ家具や家電があふれる、便利で楽しい家で暮らしたいなと思っています」
動きは実際の生物の動きも参考に
―具体的には、どういう仕組みで動いているのですか。
「まだ開発中なので、大半はリモコンで動かしています(動画はまさに試験中の様子です)。ゆくゆくは自律的に判断して動けるようにする予定です」
「実用を見据えて、状況に合わせていろいろなモーションを取れるように工夫してあります。例えば、細かくてわかりにくいのですが、同じ“移動”でも、上の娘に接近するときと下の娘に接近するときで脚の使い方を変えています(前者ではより大胆に素早く、後者では細かく繊細に)。このあたりは実際の生物にも学びながら試行錯誤しています」
実際のお片付け、効果のほどは…?
―おもちゃ箱があちこち動き回ることで、実際にお子さんたちの「片付け」にどのような効果がありましたか?
「先ほども言った通りまだ開発段階なので、子ども部屋で常に稼働しているわけではないのですが、出してくると『(おもちゃ箱と)遊びたーい』と言って中におもちゃを入れたがります。とはいえ、今のところは通常のおもちゃ箱を使って片付ける頻度と特に変わりません」
―Twitterでかなりの反響を呼んでいますが、それについてはどのように受け止めていますか?
「賛否含めていろいろな反応をいただけるのが楽しいです。私自身が『こういうものが家にあったらいいのに』と考えて作ったものなので、『かわいい』『ほしい』などのポジティブな感想に対しては『やっぱりそうだよね!』と嬉しく思います。また『自分だったら〇〇を動かしたい』といったアイデアを寄せていただけるのは非常に刺激的です」
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laniusさんのYouTubeチャンネルでは、ドライヤーや枕、ティッシュの箱などが同様の仕組みで動く「Walking」シリーズが紹介されています。身近なモノに生命が宿っているように感じられて、面白いですよ。
【YouTubeチャンネル】
https://www.youtube.com/channel/UCqB43X9O4PBI5fLGcK83q1A