製造から半世紀の時を経た日産・フェアレディZ。その車体にはサビが浮かび、朽ちて穴が開いている部分もある。
京都市北区の斎藤商会は、老朽化した旧型自動車(旧車)の修理・復元「レストア」を得意とする整備工場。代表の齋藤正さん(59)は、ホイールハウス内に小さな自作パーツをあてがい、溶接で丁寧に取り付けていく。
「昭和の名車は価値があり、後々まで乗り継がれていく。外観からはわかりにくい部分だけど、しっかり修理しなければ」。ぼろぼろのボディが、少しずつ往年の輝きを取り戻していく。
レストアブーム到来
レストアは近年、テレビで紹介されたり、各地で展示イベントが行われたりして人気が高まっている。同商会にも全国から依頼があり、店先では「ハコスカ」の愛称で知られる日産・スカイラインGT-Rや、ホンダ・N360、トヨタ・コロナなど、昭和の時代を彩った懐かしの名車が修理を待つ。
齋藤さんは「予約も多く、入庫するまで3~5年かかることもある」と話す。
旧車の“駆け込み寺”
齋藤さんは30年ほど前に工場を開き、1970年代の旧車を中心としたレストアの技術を独学で磨いてきた。寄せられる依頼は、ボディからエンジンまで全てを整備する「フルレストア」のほか、ガソリンタンクや足回りの補修などさまざまだ。
製造から長い年月がたっているため、メーカーに部品の在庫はなく、中古品もなかなか出回らない。
新車同然に直すのは容易ではないが、齋藤さんは「うちは旧車の“駆け込み寺”。他の工場で直せないと言われた車ほど、やる気がでる」と腕を振るう。
パーツを自作することも
どうしても見つからない部品は、工作機械を使ってゴム類やボディのパーツを自ら制作することもある。長い時は、レストア完成まで数年かかることもあるといい、じっくりと一台と向き合う。
「新車と同じように直すだけが正解じゃない」と、車種ごとに壊れやすかったり、腐食しやすかったりする箇所には、より長く乗れるよう改良を施すこともある。新車当時には設定されていなかったエアコンやパワーステアリングなど快適装備の取り付けも依頼に応じて行う。
YouTubeで魅力発信
修理の様子はYouTubeで公開しており、旧車の魅力や楽しさ、サビの取り方などのメンテナンス法を発信。当初は遊び感覚で始めたというが、多くの旧車好きに受け入れられ、人気の動画は500万回以上の再生がある。
新車では味わえない魅力
北区の介護福祉士澤木靖典さん(59)は昨年、齋藤さんが整備したTE27型トヨタ・スプリンタートレノを購入した。初めての旧車だが「アクセルを踏み込むとぐんと加速する。素直な乗り味が楽しい」と、週末に旧車でドライブすることが楽しみになった。
ボディが軽量なため燃費も良好で「新車では味わえない気持ちよさがある。一生大切に乗り続けたい相棒です」とハンドルを愛おしそうに握る。
厳しい税制
旧車に魅了される人が増える一方、国内では年式の古い車に対して厳しい税制が敷かれている。登録から13年を超えたガソリン車に約15%分の税金が上乗せされ、軽自動車税では約20%分上乗せされる。また、車検ごとに支払う自動車重量税も、13年超と18年超の経年車に対して段階的に増税される。半面、電気自動車やハイブリッド車は減税の対象となっている。
新車への買い換えを促すような政策に、齋藤さんは「電気自動車を製造するのにも、多くのCO2が排出されるのに…」と違和感を覚える。欧州では長く乗られている旧車に対し、税金を優遇する政策があることに触れ、「古い車を大切に乗り続ける文化が日本にも根付いてほしい」と話した。