貨物船の料理に「どこのレストラン?」 大揺れの船での調理もなんのその「船員さんがうらやましい」「食べてみたい」

金井 かおる 金井 かおる

 貨物船などで働く乗組員のために食事を作る「司厨員」という職業があります。積卸しなどハードな荷役作業を行う船員の健康を考えながら、食材の仕入れから調理まで一手に引き受けます。

 Twitterユーザーの「船乗りのKannaさん」(@kanna28296080)もその1人。日本のとある海運会社に所属する20代で、3カ月乗船、1カ月休暇というスケジュールでアジア圏などを航海しています。約2年前から司厨長を務めていますが、前職は病院の管理栄養士でした。乗船中のKannaさんに電話で話を聞きました。

料理写真に「船員さんがうらやましい」の声続々

 Kannaさんは航海に出ると、自身のTwitterアカウントに船の中の食事写真をアップしています。この投稿が人気で、写真を見たユーザーからは「船の上でこんなおいしそうな食事ができるとは」「船員さんがうらやましい」「どこのレストランですか」「おいしそう」「食べてみたい」などの感想が寄せられています。

 3日間煮込んだ牛すじカレーや自由に選べる大皿料理、「荷役終わりで疲れてると思うので」と夜食用に握った寿司など、どの写真からも乗組員への思いやりや料理への愛情がにじみ出ています。朝食を食べない人のためには間食用に野菜入りのサンドイッチ弁当を準備するなど、きめ細やかな栄養管理はさすがです。また、乗船中に趣味で始めたというラーメン作りは冷蔵庫にスープ用のガラを常備しているほどの凝りようです。

 

食費のやりくりも調理も全部1人で

──もともとは病院勤務だったそうですね。

「私は管理栄養士でしたが、疲労や将来のことを考えて、給与面や労働条件などを理由に退職しました」

──なぜ船の仕事を?

「私がよく通っていたお店のお客さんに船乗りの方がいて、その人に紹介してもらいました。今でもそのつながりを作ってくれた店長にはとても感謝しています」

──国内だけでなく外航船にも乗るそうですが、1日の仕事の流れは?

「3カ月乗船、1カ月休暇というサイクルで回っています。乗船中は休みはありません。タイムスケジュールは毎日変わります。同じスケジュールで動く日は1週間で一度もないです」

──食費のやりくりや食材の仕入れ、調理も1人で?

「1人です。食数は船によって違いますが、10人前後の食事を1食約350円の原価で作っています。食材は食品の納入業者さんから仕入れたり、(国内を行き来する)内航船では2、3日に一度、港に着くとその土地の小売店などで仕入れます。さっきも仕入れに行きましたが、船員さんから『おいしい物食べたいな〜』とリクエストされたので、お土産にケンタッキーフライドチキンを買いました(笑)」

──船員さんとのコミュニケーションも大事ですね。

「うちの会社は特に船員同士の仲がいいようです。食べたい料理のリクエストなども気軽に言ってもらえます」

食べ残し「ほとんどないです」

──船員さんたちから味の感想は?

「まずいという意見は聞いたことがないですね。残食もほとんどないです」

──メニューで心がけていることは?

「病院や給食のように決まったメニューはありません。全て司厨長の采配で決まります。『食事摂取基準』などを参考にしながら、和洋中や肉魚、野菜のバランスは考えています」

──カフェのようなおしゃれなハンバーガーの日もありました。

「あれも全部手作りです。バンズも…」

──バンズも? パンを焼いているんですか?

「バンズも手作りです。付け合わせのナゲットやポテトも作りました」

しけの動画でバズるも「あの波は序の口です」

──船の中の環境には慣れましたか?

「海の状況に苦労することはあります。台風の時など海が荒れて船が揺れます。鍋が飛んできたり、物が倒れてきたり。冷蔵庫の扉が開いてしまうこともあります。船酔いはしないですが、ベッドから落ちるほど揺れることもあり、そんな日は眠れないですね」

──先日、しけの動画をTwitterにアップし、バズっていましたね。

「あの波は序の口です(笑)」

──しけの前には「ネギ塩豚丼」や「三食丼」など、丼メニューが多いと。

「揺れでラーメンなどの汁物はふっ飛んでしまうので、持ちやすくて食べやすい丼ご飯にします。揺れていても手早くできるので作る側も楽です」

──しけ以外で苦労は?

「前職で苦労が多かったので、今は苦労していることは思いつきません。これまでが社畜だったので、自分の与えられた仕事をやっていれば何も言われないことに驚きました。当たり前のことですが、転職直後は驚いた記憶があります」

 「船に乗ったらその土地のおいしい物を食べられるのが幸せです」。働く場所を陸上から海上に移し、現在はストレスもなく働いているというKannaさん。電話した日も南の島の寄港地に停泊中でした。どこか吹っ切れたような、穏やかな口調からは、新天地での充実ぶりが伝わってきました。

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