薬物依存症の男性の家で発見されたチワワ 人を見ると吠えて噛み付いて…「全てが敵だったのだと思います」

渡辺 陽 渡辺 陽

メルちゃん(メス・6歳)は、アルコール依存症から薬物依存症になった男性が飼っていた。山口県で依存症や大人の発達障害の支援をするNPO法人iComの代表、神代さんが男性の生活に介入した時にメルちゃんを発見したという。 

風呂の脱衣所に小さなケージが置いてあったのだが、ドッグフードが散らばり、便も放置されていて何が何だか分からないような状況だった。メルちゃんが何をしたわけでもないのにずっとケージに閉じ込められ、酒とタバコの臭いと、暴言妄言の中で耐える毎日。暖房器具もなく、風の通りも悪い場所で冬は凍えるほど寒く、夏は脱水を起こしてもおかしくはないほどの劣悪な所だった。

かといって、すぐさまメルちゃんを取り上げるわけにもいかなかった。神代さんが根気よく、何度も介入を試みて、2019年、やっと男性は入院、治療に専念することになり、それを機に神代さんが保護することになったという。

「メルは、人を見ると吠えて、声が枯れてもまた吠えて噛み付いてきました。おそらく全てが敵だったのだと思います」

散歩に行ったことがなく歩けない

男性は猫も飼っていたので、メルちゃんにはネコノミがついていた。歩けなかったので獣医師に診せると、長い間散歩もせず、狭いケージの中だけで暮らしてきたため、膝関節が歪んで歩けなくなっていると言われた。体重は成犬なので通常なら3キロほどだが、わずか2キロしかなかった。今でもドッグフードは嫌がって食べない。

神代さんは、噛みつかれながらもメルちゃんをお風呂に入れた。何日かお風呂に入れると汚れが取れて、「こんなに白いワンちゃんじゃったかね」というほど真っ白できれいな犬になったという。ネコノミの駆除も完了し、噛むことも無くなった。

依存症の人が立ち直るきっかけに

保護してから2年が経ち、足を引きずっているがメルちゃんは歩けるようになり、体重は3.8キロになった。施設の看板犬として活躍しているメルちゃん。

「回復された依存症の方々や発達障害の方々の癒しになり、皆の中で穏やかに生活を送れるようになりました。メルにとっても障害やリスクを持たれた方々にとっても、とてもよい環境になっていると思います」と神代さんは言う。

名前は、 法人の「iCom~愛込~」から「愛込める」の「める」を取ってメルちゃんにしたそうだ。人見知りだが、すぐ慣れてお腹を見せてくれる。寂しがりやなのに呼んでもすぐ来ることはなく、匍匐前進で地味に距離を詰めてくる。

神代さんは透析治療を受けていて、ガンなどたくさんの病気を抱えている。しかし、メルちゃんに出会って「自分のことだけで精一杯!」と気を落とす暇が無くなり、前向きになれたという。

「『メルのために』と思うだけでも生活に張りが出ます。私だけでなく、法人に関わる全ての人の癒しになり、優しさを育んでいます。酒やギャンブル、薬物など依存によって潰された心が蘇生されている実感もあります。またメルが保護された経緯を知って自身の人生を振り返り、傷つけてきた人たちへの埋め合わせを考えて生き直す人たちも出てきました。随分と大きく私たちをより良い方へ導いてくれています。メルは私たちの女神です」

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