太陽系形成の謎と秘密がそこに?アステロイドベルトとは【地球の兄弟星たち・外惑星編】

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太陽系を構成する惑星たちをご紹介していくシリーズ、二つの巨大ガス惑星(木星、土星)に続いては、宇宙船探査やSFなどでもたびたび登場し、月の次に話題の多い火星にいきたいところですが、2021年は火星の動きがおとなしく、観測にもあまり適さない時期に当たります。そこで今回は純正な「惑星」カテゴリーではないものの、火星と木星の間の軌道に無数にひしめき、不可思議な準惑星が回る小惑星帯(アステロイドベルト)について紐解いていきましょう。

謎に満ちた小惑星帯の成り立ちとは(※イメージ)


それは、遠い昔の星々の戦いの遺骸?アステロイドベルトの謎

アステロイドベルト(asteroid belt メインベルトとも)または小惑星帯は、火星の軌道と木星の軌道の間に存在する、公転する総数数百万個とも言われる小天体の集中域のこと。まるでそれは、太陽と、それに付き従う水星、金星、地球、火星という岩石惑星と、木星、土星、天王星といった巨大ガス惑星の世界を隔てる国境の城壁のようにも感じられます。
この特異で不思議なゾーンについては発見当初から、これは大きな惑星が何らかの理由で粉々に爆発した残骸なのではないか、という想像がなされてきました。SFでもたびたびそのモチーフは利用され、J・P・ホーガン(1941~2010年)による名作SF「星を継ぐもの」(Inherit the Stars 1977年)では、続編を含めてアステロイドベルトに太古に存在した惑星が宇宙人の争いで破壊される物語が描かれます。
しかし、もし高温の核を有する惑星にまで成長したのなら、現在の小惑星群にも、熱で変成した岩石が多く見られるはずなのに、それがほとんど見当たらないことから、惑星が爆発した可能性は低いと考えられています。
40億年以上前、太陽系形成のごく初期の惑星の形成段階で、微惑星が衝突を繰り返しながら大きな質量をもつ惑星が出来上がっていく中、先に形成された木星の強大な重力の干渉で、惑星の形成を阻まれた素材たちが、バラバラのまま惑星軌道を回るようになった、というのが現在の有力な仮説です。
太陽系の中で唯一「太陽の周りを回っていない」とされる木星。太陽と木星の重心バランスは、太陽の中にはなく、太陽からやや離れた宇宙空間に位置しているからです。もしアステロイドベルトが第5の太陽系岩石惑星の形成を木星が邪魔だてしたのなら、それはやはり太陽系の支配権をかけての太古の星々の戦いの痕跡だ、とも言えなくはありません。
ちなみに日本のJAXAが開発、打ち上げた探査衛星「はやぶさ」「はやぶさ2」が探査した小惑星「イトカワ」と「リュウグウ」は、アステロイドベルトの小惑星ではなく、地球近隣小惑星と呼ばれる地球の軌道内外付近を周回している小惑星です。また惑星の軌道にはそれぞれ、ラグランジュ点(Lagrangian point 天体と天体の引力と斥力のつり合いが取れるポイント)に当たる、惑星軌道上の主星の後ろ60°と前方60°に「トロヤ群」と呼ばれる小惑星群が存在します。巨星である木星のトロヤ群が有名ですが、地球もトロヤ群を従えて公転しています。これらの小惑星は、太陽系成り立ち当時の古い時代の痕跡が、熱変成を受けることなく残っているとされ、探査が進められています。

太陽系の草創期、星々の覇権争いがアステロイドベルトを作った?


幻の太陽系第5惑星「ケレス」発見とそのはく奪。その経緯とは

ヨハネス・ケプラー(1571~1630年)は、火星と木星の間の空間がそれ以外の惑星同士の距離感から比べて隔たりすぎていることから直感的に、その空間にはまだ見つかっていない太陽系第5惑星があるはずだ、と予測していました。
1756年、訳著書の中でヨハン・ティティウス(Johann Daniel Titius 1729~1796年)は、太陽系内の惑星の太陽からの距離、すなわち惑星たちが公転周期で描く円弧の大きさは、一定の法則(数列式)をもって広がっている、とし、その法則を天王星(Uranus)の名づけ親になったことで有名なヨハン・エレルト・ボーデ(Johann Elert Bode 1747~1826年)が、1772年に紹介したことから、ティティウス・ボーデの法則(Titius–Bode law) として知られるようになりました。
その数式とは、
a / AU = 0.4 + 0.3 × 2n
というもので、 a / AUは、 a は惑星の 平均軌道半径(太陽からの距離)、これをAU(1天文距離=地球と太陽の平均起動距離)で割った解。右辺は、nは太陽を中心に内側から数えたそれぞれの惑星のナンバーです。と言っても、水星は1ではなく-∞、金星は2ではなく0、地球が1で、以降火星2、木星4、土星5となっています。そうするとたとえば地球は0.4 + 0.3 × 2の1乗なので1天文距離ということになります。あれ?木星は4ではなく3、土星は5ではなく4ではないの?と思いますよね。しかし実際木星、土星の太陽からの距離は、それぞれn=4、n=5の数字の距離になります。
つまり、係数n=3に当てはまる空間にあるものこそがアステロイドベルトなのです。この計算に当てはめ、あるいは近世の天文学者・自然科学者たちは考え、観測を続けていたのです。
1781年には、係数n=6の該当軌道付近に天王星が発見され、ますますこの法則は信用を得ることとなり、n=3軌道に「あるはず」の新惑星発見の機運が高まりました。そして1801年、ジュゼッペ・ピアッツィ(Giuseppe Piazzi 1746~1826年)が、それらしき動きを見せる天体を発見します。ピアッツィはこれを「惑星ではなく彗星かもしれない」と疑念を抱いていましたが、後に軌道の確認がなされ、新惑星であるという判断がなされました。この星はケレス・フェルディナンデア (Ceres Ferdinandea)と名付けられ、後にシチリア国王の名であるフェルディナンドの部分が外されて、「ケレス(セレス)」となります。ケレスは直径約945km、これを東京を中心にして円を描いてみると、北は秋田、盛岡、西は神戸にまで至る大きさです。ケレスは半世紀の間、惑星として扱われてきましたが、その後次々と同じ軌道に天体が発見され、それらがすべて惑星として扱われ、その数が20を超えてしまう事態に陥ると、天文学者たちは一転して「これらは小さすぎるので惑星に加えるべきではない」と判断し、ケレスを含めた新発見の「惑星」たちは「小惑星(Asteroid)」という新概念でくくられることとなります。
さらに今世紀に入り、国際天文学連合が冥王星を惑星とするか否かの議論が交わされた折に、ケレスを「惑星」とするかどうかがあわせて議論されています。なぜなら従来の「惑星」の定義
・天体を構成する素材の膨張力を等方的重力による収縮(静水圧平衡)をもって球体となること
・恒星を一定の軌道と周期で公転している恒星・衛星以外の天体
の二つを冥王星もケレスも満たすからです。しかしこの議論の中で上記二条件に加えて
・軌道から他の天体をほぼ排除し、質量の大部分を単独で占有していること
という新たな条件が付け加わりました。つまり、公転軌道を支配する「一国一城の主」でなくてはならない、ということですね。この定義ですと、ケレスは軌道上に数百万とも言われる小惑星・隕石群と軌道を共有しており、質量は全体のうちの1/3、冥王星も軌道上に同レベルの天体が存在する冥王星族ですから、惑星ではない扱いになり、「準惑星」(dwarf planet )という新たな天体のカテゴリーに入ることになりました。

火星と木星の間の空隙にあるはずの第5惑星を探索すると、準惑星ケレスが見つかります


「星の王子さま」の故郷?ケレス謎の光点

ちなみにこのケレス、水蒸気を噴き出す「火山」があることで知られており、またつい5年ほど前には、「謎の発光点がある」と大いに話題になりました。小惑星ベスタと準惑星ケレスを探査する目的のNASAの宇宙探査機DAWNが2015年、ケレスのクレーターに明るい光点を撮影。ケレアリア・ファキュラ(Colealia Facula)と名付けられます。ミッション終了までに得られた詳細なデータにより、この光点の正体は炭酸ナトリウム、すなわち塩の一種の結晶であり、ケレスの地下から吹き上がったものであると結論付けました。つまり、ケレスの内部には塩水=海が存在しているというのです。惑星の衛星の中には惑星からの引力で水や氷を噴き出している天体もあり、隕石の衝突により地殻に亀裂が生じたとも推測されましたが、氷が噴出して出来た丘「ピンゴ」の存在も明らかとなり、ケレスが自前で活発な地下活動を繰り返す稀有な天体であることがつきとめられました。地球以外では見られないハイドロハライト(含水岩塩)も見つかっています。
サン・テグジュペリ(1900~1944年)の童話「星の王子さま」( Le Petit Prince 1943年)の主人公「王子さま」がやって来たのは、アステロイドベルトの中の小さな星であると設定されていました。
「星の王子さま」の星にも火山がありましたし、ケレスの噴き出したピンゴの画像は、さながらバラの花びらのようにも見えます。
もちろんケレスは王子さまの星よりもはるかに大きな星ですが、どことなく重ねて見えてしまいますし、王子さまが地球に来る前に廻った小惑星の中に、ケレスもあったかもなんていう想像もしてしまいます。そして実際、作中で話者である「ぼく」は王子様の星とはトルコの天文学者が発見した「B 612(Bésixdouze)」という星にちがいないと述べていますが、この名を冠した小惑星「B612」(小惑星番号46610)は、1993年、日本人によって発見命名されています。
肉眼ではもちろん小惑星群を見ることは出来ませんが、夜空のどこかにその星が実際にあるなんて、何ともロマンチックではないでしょうか。

探査機DAWNは、ケレスの謎の光点の解明に挑みました

(参考・参照)
星を継ぐもの ジェイムズ・P・ホーガン 創元SF文庫
星の王子さま サン=テグジュペリ 岩波文庫
準惑星ケレスの地下に巨大な海が存在か? - 探査機「ドーン」の観測で判明
清里大友天文台発見小惑星一覧

アステロイドベルトの「主」準惑星ケレス。地下には海があると考えられています

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