美味しい?泥臭い?田んぼを荒らす“お尋ね者”ジャンボタニシを食べてみた 食用として定着しなかった理由も納得です

京都新聞社 京都新聞社

 西日本や関東地方の水田で、田植え直後の稲を食べる貝が増えているのはご存じだろうか。名前は「ジャンボタニシ」。かつて食用として導入され、野生化した外来種の貝だ。京都市内のジャンボタニシによる食害や農家の対策を取材していて、ふと思った。一体どんな味がするんだろう―。ちゃんと食べられるなら、外来種の駆除と新たな食材発掘の一石二鳥になる。実際に調理してみることにした。

 ジャンボタニシの正式名称は「スクミリンゴガイ」。南米原産で、1981年に食用として輸入された。雑食性で植物の柔らかい部分を好み、年間で3000個以上のピンク色の卵を産む。しかも、その卵には毒がある。寿命は3年程度。国の生態系被害防止外来種リストで、対策の必要性が高い「重点対策外来種」に指定されている“お尋ね者”だ。

 環境省のホームページでは、ジャンボタニシによる農作物や生態系への影響が詳しく紹介されている。その中には、食べ方についての記述もあった。「食用とする場合は、寄生虫に感染するおそれがあるため絶対に生食はせず、十分に加熱調理してください」

 生半可な知識で調理しては危険なようだ。加熱時間はどれぐらいなのか、捕獲する際に注意すべきことはあるのか。ひとまず、同省外来生物対策室に尋ねた。担当者は「対策を専門とする部署なので、食べ方についてはホームページ以上のことはちょっと…」。取材は1分足らずで終わった。別の専門家を探す必要に迫られた。

 インターネットで「ジャンボタニシ 食べ方」で検索しても、ヒットするのはユーチューバーや一般人の食レポのブログや動画ばかり。自分で食べるからには、素人ではなく専門家の意見を参考にしたかった。しかし、駆除に詳しい専門家は見つかっても、調理に詳しい専門家はなかなか見つからない。

 ネットで手掛かりを探し始めて小一時間。ひとりの研究者を見つけた。高知県にある黒潮生物研究所の客員研究員、平坂寛さんだ。外来種の食べ方に関する本を執筆しており、過去にはバラエティー番組でジャンボタニシを食べる企画にも登場していた。

 この人なら調理法をご存じかも―。平坂さんのツイッターから取材を申し込むと、「よろこんでお力添えさせていただきます」と快諾してくれた。

 平坂さんが注意点に挙げたのは▽有害成分が含まれる恐れがあるため、生活排水が流れ込む場所は避ける▽寄生虫対策として生貝に素手で触れるのは避ける▽10分以上加熱する▽卵に毒があり、内臓を取り除く▽一昼夜以上の泥抜き―など。「タニシを捕る際に農家の許可を取る。勝手に採取しない」という助言もいただいた。中でも、平坂さんが「最も大切」と強調したのは「生息域を拡大させないためにも、食べきれなかったからといって、再放流はいけない」ということだった。

 調理法が分かり、ついに捕獲へ。訪れたのは、農地が広がる京都市西京区大原野地域。以前に取材した地元農家、武川粂次さん(76)の水田でジャンボタニシを捕らせてもらえるようお願いした。武川さんもタニシの食害に悩まされてきたひとりだ。

 武川さんの水田には、500円玉ほどの大きさのジャンボタニシが大量にいた。1メートル歩くと次のタニシが見つかるほどで、網でどんどんすくった。近くの用水路にはピンク色の卵もあった。「(タニシが)おっても邪魔なだけやし、どんどん捕まえてや」という武川さんの後押しも背に受けながら、10分ほどで85匹を捕まえた。

 次は泥抜きだ。タニシを京都新聞社の関係施設(京都市中京区)に持ち帰り、たらいに水を入れて、一昼夜放置することに。逃げないように、バーベキュー用の網もかぶせた。

 翌日の昼。たらいを見ると、ふちにピンク色の三つの物体が付いていた。タニシが産卵していた。つい、「すごいな」と歓声を上げてしまった。食べられる前に子孫を残そうという本能の現れなのだろうか。

 繁殖力の強さを実感しつつ、先輩記者ら2人に手伝ってもらいながら調理に挑んだ。貝をたわしで洗った後、15分間ゆでることに。5分ほどたつと、鍋は泡立ち、水が茶色く濁り始めた。すさまじい量のあくも出た。水田で採取したはずなのに、磯臭さも漂い始めた。このままで大丈夫だろうか。不安を感じながら、泡の沸き立つ鍋を見つめた。

 水で冷ました後、殻を割る係と身と内臓を分ける係に分かれて作業に当たった。殻は薄く、焼酎の瓶の底でたたくと簡単に割れた。内臓と身を手でちぎると、ねっとりとした糸が引いた。先輩が「地味な作業やな」とつぶやく中、約30分かけて身を取り分けた。

 続いてフライパンで炒め、醤油とニンニク、バターで味付けした。出来上がりの見た目は高級料理のようで、ニンニクの香りが食欲をそそった。口に入れると、泥臭さもなかった。ただ、タニシ自体の味は皆無だった。食感はツブ貝のようにコリコリしており、先輩からは「ザ・貝の食感」「意外といけるやん」と好評だった。

 虫かごいっぱいだった貝も、処理すると食べられる量は握り拳ほどにしかならなかった。内臓を取り除かないといけないし、味がそんなにおいしいわけでもない。食用として定着しなかったのも、うなずけた。

 2020年度に京都市内でのジャンボタニシの被害は4.4ヘクタールに及んだ。外来種は一度定着すると根絶することは難しい。かつてジャンボタニシを日本に持ちこんだ人は、自らが招いた事態をどう受け止めたのか。今となっては知るすべはもうないが、今後は外来種を安直に導入してほしくない。味のしないジャンボタニシをかみしめながら、そんな思いを強くした。

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