「ピーピー」家の中から鳴き声がする→壁を取り壊すと中からサビ柄の小さな子猫を発見

木村 遼 木村 遼

 2020年6月、兵庫県川西市在住の方から猫の相談が入った。「自宅の壁から子猫を保護したのですが、世話が難しいため、保護してほしい」と言う。

 自宅の壁?詳しく話を聞いて驚いた。依頼者によると、数日前に自宅のどこからか「ピーピー」と子猫の鳴き声が聞こえたそうだ。相談者は「まさか」とは思ったが、鳴き声は間違いなく家の中から聞こえてくる。

 鳴き声を頼りに家の中を探しまわった。すると鳴き声は押し入れの中から聞こえてくることが分かった。しかし、押し入れを開けたが、そこにいるであろう子猫の姿が見当たらない。物をどけて探しても、やはりどこにもいなかった。

 子猫がまた鳴きだすと、なんと声は押し入れの壁の向こう側から聞こえたのだ。そういえば、数日前に屋根裏から動物の足音が聞こえており、何かが入り込んだとは思っていた。おそらく、それは猫であり、屋根裏で出産した子猫が上から落ちて来たのではないかと思うにいたった。

 押し入れの壁の中へ手を入れられそうな場所を探したが、そんな隙間などどこにも見当たらない。時間だけがいたずらに過ぎていった。

 「このまま子猫を放っておくことはできない」

 依頼者はある大胆な行動に出た。知り合いに協力してもらって、壁を破って子猫をレスキューすることにしたのだ。知り合いが到着すると、壁の取り壊し作業を始めた。子猫の位置を確認しながら慎重に壁に穴を開けた。手探りで声がする方に手を伸ばすと、小さく柔らかい物体に当たった。そっと握り穴から手を戻すと、それは手のひらに収まるほど小さな子猫だった。

 「わぁ!ちっちゃい!」

 家族からは思わず声が漏れた。おそらく生まれて10日も経っておらず、まだ乳飲み子だった。急な展開に相談者は戸惑ったが、とりあえず子猫にミルクを与えてみることにした。子猫も自力で哺乳瓶からミルクを飲んでくれた。

 自分が仕事に出ている時は、家族がミルクを与えてくれた。子猫はミルクを数時間おきに与えなければならないし、排泄は刺激をして促さなければいけない。寝不足は必須で育てることも難しい。

 そこで、これから里親を探すことも考えて、こちらに相談の連絡をしてきたようだ。この時はミルクボランティアの余裕があったため、当団体で保護することにした。

 急いで子猫を迎えに行くと、依頼者は小さなダンボールを持って待っていた。そのダンボールの中をのぞき込むと、毛布にくるまれたサビ柄の小さな子猫と目が合った。表情を見る限り、元気そうに見える。

 依頼者から子猫を預かり、ミルクボランティアの所へ子猫を届けに向かった。子猫は離乳するまでのしばらくの期間をそこで過ごした。

 サビ柄の子猫は「ねね」と名付けられた。ねねが離乳したタイミングで、ミルクボランティアの所から帰ってきた。ねねはすぐに他の子猫たちとも仲良くなった。びっくりするぐらい綺麗なサビ柄でふわふわとした毛並み。まるで妖精のように見えた。

 まだ小さくて譲渡会には出られないが、写真で参加すると、すぐに声がかかった。声をかけてくれた家族は、1年前にも譲渡会に来てくれた家族だった。その時は引っ越し予定であったため、落ち着いてからまた里親を考えたいと言われていた。家族に迎える準備が整い、今回ねねに声をかけてくれたのだ。

 その後、実際にねねと会ってもらうためにシェルターで面会をすると、ねねの妖精の様な愛くるしさに何度も「かわいい」と言って虜になっていた。

 ねねがある程度の大きさまで育ってから、お試し期間のトライアルを始めることに。先住猫が1匹いたが、妹の様に毛繕いしてあげたり、一緒に遊んだりと、すぐにねねのことを受け入れてくれた。

 新しい名前は「来望(らむ)」に決まった。里親さんによると先住猫が「未希(みき)」という名前で、未来と希望から1字ずつ取ったそうだ。

 壁に穴を開けてまで助けてくれる人の元で発見され、ある意味この子は運が良かったと言えるだろう。命のバトンがつながり、来望は今も家族と幸せに過ごしている。

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