家に居ついた3匹の猫、ワケあって外に取り残された1匹の運命は…ある夫婦の決断

木村 遼 木村 遼

 2020年2月、兵庫県尼崎市在住のご夫婦から猫に関する相談が入った。自宅に居ついた猫1匹を保護して欲しいという。もともとこの猫は、きょうだい3匹で近所の方から餌をもらっていたが、最近になってその方が引っ越してしまった。その後、3匹は相談者の自宅に遊びに来るようになった。

 3きょうだいのうち、2匹は順番に自宅に迎え入れたものの、残りの1匹は外で見守ることにした。これには理由があった。2匹目の猫は酷い皮膚病を患っていることが分かり、保護することにしたのだが、すると、最初に保護した猫が、2匹目を迎え入れたことで体調を崩してしまった。1匹目の猫の体調不良と2匹目の治療が重なり、残りの1匹を迎え入れるのは断念せざえるをえなかったのだ。

 気が付けば、このご夫婦が最初に3きょうだいの猫を見かけてから数カ月が経ち、外にいる猫はみるみる人懐っこくなった。それを見ていると、どなたか家族に迎えられた方が幸せではないかと思うようになったそうだ。そこで保護してもらえる施設を探し、当団体に辿り着いたということだった。

 2月に相談があった際は捕獲のアドバイスをした。その後、しばらく連絡はなかったが、6月になると、里親募集はできないものかと再度連絡があった。すでにワクチン接種、エイズ、白血病検査などの初期医療は済ませていた。

 その当時、保護施設のケージに空きがあったが、隔離スペースは使っていた。ただし、病気の蔓延を阻止するために、まずは2週間別室で完全隔離する必要があるのだ。そこで私はこんな提案をした。

 「2週間、ご自宅で隔離してもらえれば、その後は保護して里親募集します」

 ご夫婦は、その提案を喜んで聞き入れてくれた。2週間が経ち、猫は保護主のご夫婦と一緒に施設にやってきた。名前はエミリーという三毛猫だ。エミリーをキャリーバッグから用意したケージにそっと移した。エミリーは少し怖がっている様子だ。保護主には懐いているが、エミリーの体は岩の様に固くなっていた。保護主が帰ると、エミリーのケージにそっとタオルを覆った。

 しばしばらくしてケージの中を覗くと、まだ怖がっている様子だ。他の猫たちも新入りが気になり、大きな声で鳴いて落ち着かない様子だ。時間が経てばエミリーは慣れてくれると思った。しかし、数日経っても緊張がほぐれない。ずっと外で生活をし、短期間で保護主の家と当施設と渡り歩き、ストレスや疲れがたまっているのだろう。

 後日、保護主から連絡があり、エミリーの状況を伝えた。するとそれから数日後、保護主からエミリーを家族に迎えたいと連絡が入った。エミリーが新しい環境に慣れずに怖がっていると感じ、家族として迎えようと決心したのだ。

 この頃には、1匹目の猫も2匹目の猫の存在に慣れて体調が回復し、2匹目の皮膚病も良くなっていた。その後、エミリーは保護主に迎えられた。施設ではあれほど怖がっていたのに、保護主の家ではすぐに慣れ、甘えて来たそうだ。エミリーも保護主に家族として迎えられることを望んでいたのかもしれない。

 今は先に保護されたピーター、アンシェのきょうだいたちと仲良く暮らしている。

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