「絶対に切っちゃダメ」 ネクタイの裏から出ている“糸”の重要性を説く投稿が話題に

中将 タカノリ 中将 タカノリ

「絶対に切っちゃダメ。ネクタイからこんな糸が出ててもが無茶に引っぱったり切ったりしないで。」

ネクタイにほどこされたスリップステッチの重要性を説く投稿がSNS上で大きな注目を集めている。

「これはスリップステッチ。結んだり解いたりする時の伸縮を補助するための余裕糸です。一本の糸で縫っているので、これを切るとバラけてしまいます。まじで大切なこだわりです。だから絶対に糸は切らないで。」

と熱弁するのは今年1月に株式会社笏本縫製の三代目として代表取締役に就任した笏本達宏さん(@shakunone)。

たしかに役割を知らなければ単に糸がほつれているのかと思ってしまいそうなスリップステッチ。笏本さんの投稿に対し、SNSユーザー達からは

「告白します!何回か切ったことあります。
ほつれてると思って…」

「結構切ってしまわれる方 いらっしゃるんですよね〜汗
何度かお直し承ったことあります
元 百貨店紳士洋品雑貨係ネクタイ売り場販売員です」

「昔はメンズ向けのファッション雑誌で、様々な情報提供がありましたが、今の若い方たちは知らない事が多いのかな
これも時代の流れですね。」

など数々のコメントが寄せられている。

笏本さんにお話をうかがってみた。

中将タカノリ(以下「中将」):スリップステッチはネクタイには基本的にそなわっているものなのでしょうか?

笏本:価格の高い安いに関係なく、使ってくださる方のことをキチンと考えて作られたものには備わっているものだと考えています。結んだり解いたりすることが前提で作られているネクタイにとって、伸縮性は重要なポイントになってきます。スリップステッチが無いということは、可動に余裕を持たせない作りをしているということになります。自分たちのブランド商品だけではなく、少なくとも私たちの手を通って世の中に旅立った商品にはすべてスリップステッチをつけています。ネクタイは永遠には使えません。だけど、ぼくたち職人は「一日でも長く、一回でも多くお客様に美しく使っていただきたい」と思っています。

中将:スリップステッチはよく外に出て来てしまうものなのでしょうか?

笏本:正確には少し出ているくらいが正常です。輪っか上になっている余裕部分が結んだり解いたりするときに、スルスルと動いて伸縮を補助しています。実はメンテナンスにも使えます。ずっと使っていると、ネクタイの中心部分に緩みが生じる場合があります。ネクタイの生命線であるセンターステッチは一本の糸で縫われているので、緩みが生じたときにはスリップステッチを少し引っ張ると解消されます。気づかないところでネクタイの機能を下支えしている糸なんです。

中将:ご投稿に対し数多くのコメントが寄せられました。これまでのSNSの反響へのご感想をお聞かせください。

笏本:「知らなかった」「教えてくれてありがとう」「ネクタイがダメになるのは糸を切ってたからか」など、大きな反響がありました。以前は「町工場の社長が発信をしても誰が見てくれるのか」と思っていた時期もありました。それでも発信を続けてきた中で、私たちの中での「あたり前」が、消費者の方にとっての「あたり前ではなかった」ということを知れました。正直、この情報が知られていなかったというよりも、私たち職人の声がこんなにも多くの方に届いたことに驚いています。ファッション業界は華やかな世界だと感じる方もいらっしゃる方もいるかもしれませんが、私たち職人は普段表舞台に立つことはありません。それでもSNSの力で僕たちの声が届くんだという事を体験することができて、職人として幸せです。

こうしてSNSの発信をキッカケに注目をしていただいた私たちですが、日本には優れた技術と繋いできた想いを持った町工場がたくさんあります。しかし、多くが知られることなく消えてしまっています。正直、私たちもその中の一つでした。

今まで知ってもらう努力をしていなかったのも事実です。私たちは2015年に自社のブランド「SHAKUNONE」をつくり、地道にSNSでの発信を続けてきて、少しづつ光が見え始めました。全国の職人さんたちに、僕たちが直接できることはないのかもしれませんが、こうして地道な発信をつづけていくことで、「あの人みたいに挑戦したら可能性があるかも」という希望になれるんじゃないかと思っています。自分たちのプロダクトを磨き、発信を続け、経営者としても会社としても成長をすることが僕たちが今できることだと考えています。

◇ ◇

今回の取材に対し「一本の糸で繋がる“縁”のように、想いが伝われば嬉しいなと思っています」と笏本さん。笏本さんは祖母が作った縫製工場を未来に繋げたいと、美容師から家業の縫製業に飛び込んだという。

スリップステッチも人の縁も伝統も、あらゆるものを切れないよう繋いでゆく笏本さんの活動に今後も注目したい。


株式会社笏本縫製
所在地:岡山県津山市桑下1333-6
ネクタイブランドSHAKUNONE:https://shakumoto.co.jp
笏本達宏さんTwitterアカウント:https://twitter.com/shakunone/

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