ーーTNRや飼い猫の避妊去勢への理解と協力についてはどんな工夫を?
「猫の譲渡をする時は、野良猫のこと、TNRのこと、保健所のことなど色々とお話しています。避妊去勢については、”手術しないと繁殖するだけでなく、大声で鳴いたり、オスはスプレーが始まり大変です”という話もします。1匹飼いだからしなくていいわけじゃないですよ、と。
譲渡する際は、実際の検査やワクチン代プラスアルファの譲渡費用をいただいていて、その費用を、TNRや治療費がかかる他の保護猫に使うことを承諾していただいています。ボランティアとはいえ、すべて自腹を切るのが当たり前という認識では、若い世代の方たちにボランティアを引き継ぐことが出来なくなります。プラスじゃなくても、お金がきちんとまわる仕組みにしないといけない、と思っています」
ーー保護猫活動は「今ここ」だけでなく未来に繋げないといけない、と。
「今は野良猫の数がとにかく多く、その子たちが保健所に持ち込まれたり、そのまま放置され、どんどん繁殖してご近所問題になっています。数が多過ぎて、簡単なケアをすれば生きられるのに、ケアさえ出来ない状況です。
これからの時代は、猫を飼おうと思う人口も減ると考えています。少子高齢化、マンション暮らし、生き物と暮らした経験がない方も多くなります。そうなると子猫ですら譲渡先がなくなります。そうなる前にとにかく母数を減らさないと、今でも手に負えないのにこれからどうなるんだろう……と心配する人たちがTNRの活動をしています」
ーーところで、「滑ってころびゆく」の後のコロちゃんは…?
「この棚はカラーボックスの最下段なので、床まで1〜2センチほどのため、ころびゆいた後も平然と遊んでました。見ていただくとわかりますが、写真は『元はこう』→『これは滑ってころびゆく黒猫』→『これはこけたところを誰かに見られてないか恐る恐る確認する猫』の三段構えです。実際には、転んだ後も、恐る恐る確認せずに、元気に次にころびゆくところを探してたんじゃないかと思います」
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現在、クリニックに寄せられる相談の中でもっとも多いのが、「捕獲したいけどやり方がわからない」というものなのだそうです。
「放っておけないと思ったなら、ご自身で動物病院に連れて行ってあげて欲しいと思っています。そういったことの相談ならボランティアは喜んで受けますし、喜んで最後までお世話してくれると思います。
ボランティアと言っても、保護猫活動でお給料をもらっているわけではない、ただの一般人です。出来ることは連絡して来た方と完全に同じです。もちろん、連絡して来た方よりはきっと猫好きだとは思います。だけど、心理的なキャパは、連絡して来た方より狭いかもしれません。すでにギリギリまで保護猫を家に受け入れ、ギリギリまでお金をかけてたくさんの子を救っている状態なので…」(スペイクリニック北九州さん)
保護猫活動をする上で困ってしまうのが、「怪我している子がいる」「子猫がずっとそこにいる」といった、いわゆる「丸投げ」状態の相談だと言います。
「今後力を入れていきたいのは、一般の方のTNR支援です。ご自宅近くで数匹のうちにTNRをする、という意識を持った方がいてくだされば…いてくださらなければ、きっとこの野良猫問題は永久に解決しないと思っています」(スペイクリニック北九州さん)
ボランティアの保護猫団体や、ニュースなどで見かけた野良猫に対し、「保護して」「TNRを」と言葉で言うのは簡単です。しかし、運営や保護、TNRのための手術には必ず「お金」や「時間」が必要となります。
例えば、自身が確固たる責任を持って、猫たちの一生を預かる”里親”になることも選択肢のひとつです。里親になることが難しい場合、保護施設や保護団体に活動資金を寄付することも出来ます。
スペイクリニック北九州さんでは、子猫たちの里親さんを常時募集されています。保護猫たちに必要なフードやペットシーツなどの寄付、また、開院日を増やすため、協力獣医と看護士も募集中だそうです。
「保護」や「TNR」を求めるなら、自分は何をするべきか? 「殺処分」に反対するなら、その命のために自分は何が出来るのか? 漫画みたいな可愛い「ころびゆく」姿で、大切なことを考える機会をくれた黒猫のコロちゃんに感謝したいですね。