白内障手術っていつから始まった? 日本では室町時代、麻酔なしで眼球に針

ドクター備忘録

窪谷 日奈子 窪谷 日奈子

 白内障手術は今でこそ「痛みがなくて短時間ですむ」というイメージがありますが、そもそも白内障手術はいつ頃から行われていたのでしょうか?記録によると紀元前800年ごろには、すでにインドで白内障手術がされていたようです。日本では1360年代、室町時代には白内障手術をしていたという記録が残っています。

 白内障は目の中のレンズが年齢とともに白く濁る病気ですが、顕微鏡などの精密な器機がない時代は微細な手術は行えませんでした。当時行っていたのは「墜下法」といわれる手術です。これは麻酔無しで針を眼球に刺し、白内障を眼球の中に落とすという、なんとも原始的な手術です。その後なんと1700年頃まではずっとこの方法で手術を行っていました。日本でも1360年ごろ、室町時代にこの方法で手術を行っていた記録があります。

 目の構造が解明され白内障を目の外に取り出す手術を行うようになったのは、1745年頃です。この時代はまだ人工のレンズは開発されていないので、濁ったレンズをとったあとは分厚い眼鏡が必要でした。切開創も大きかったため、術後はものが動く程度しか見えなかったとされています。

 19世紀になるとようやく麻酔や消毒の概念が生まれ、術式も大幅に改善されました。同時期に眼内レンズも発明されています。現在の超音波を用いた手術を行い、折りたたみ眼内レンズを用いるようになったのは1980年代。長い歴史を振り返ると、今のようなお手軽な手術になったのは本当にごく最近のことなのです。

 ちなみに著者が眼科医になった頃にはほぼ全例で傷口を縫っていましたが、今は2~3mmの小切開ですむため無縫合になっています。ここからさらに小切開になっていくかと思いきや、あまり小さくなりすぎると逆に効率が悪くなるため、どうやら白内障の術式はこのあたりが完成形のようです。椅子に縛り付けられ痛みに耐え、得られた視力は物が動く程度の見え方…そんな時代に比べれば、現代医療の発展には感謝するしかありませんね。

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