どんなに慣れていても、慎重にしていても、仕事に失敗はつきもの。でも今ネット上ではその失敗を見事に生かした商品が話題です。その名も「小林がやらかした17倍辛い焼肉のタレ」。店頭のパネルに貼り付けられたしょんぼりする社員の写真もウケ、瞬く間に約600本を完売したといいます。
看板商品の窯と間違えて...
製造したのは、岩手県雫石町の「宮田醤油店」。副社長の佐々木圭介さんによると、“事件”は焼肉のタレの製造過程で起きました。
「弊社の看板商品の一つに『ダイナマイトソース』というものがありまして、それに使うはずだった唐辛子を、誤って焼肉のタレを作っている鍋に入れてしまったんです。計算してみたら、通常の焼肉のタレの17倍の量でした」
すぐに失敗に気付き、出先にいた佐々木さんにも「どうしましょう…」と連絡が。窯に入ったタレの量は70ℓ。当初は「とてもとても人様に提供できるものではない。廃棄するしかない」と一旦なったそうですが、とはいえもったいないので試しにサンプルを味見してみたところ「確かに辛いけれど、想像していたより美味しいよね、と」と佐々木さん。「どうせ失敗作だし、ダメ元で“失敗作”として出してみようか」ととんとん拍子に話が進んだそうです。
とはいえ、失敗作。正規の商品のように儲けを見込むのはお客に申し訳ない、と原材料と容器分のほぼ原価だけという1本108円で店頭に並べたところ、偶然訪れたお客がTwitterに投稿し、瞬く間に拡散。約600本が4日で売り切れてしまいました。
「落ち込んでいるのを紛らわせられたら」
話題になった理由の一つが、商品脇のパネルに写った、しょんぼりする製造担当の小林さんの写真。実はこれ、会社に戻った佐々木さんが事情を聴いている時に撮った1枚なのだというから、さらにびっくり。
「彼はもう中堅で、普段そんな失敗は全くしない、しっかりした社員。事情を説明しているときも『いえ、あの...』と本当に落ち込んで、恐縮しきっていて…。私も驚きはしましたが、彼を怒るつもりなんて全く無かったので、ちょっと本人の気持ちを紛らわせられたらな、という気持ちで撮ったんです」(佐々木さん)
同製造所は社員数15人というアットホームな職場。例年なら慰労会など社内のイベントなどで懇親を深めていますが、昨年来のコロナ禍ですべて自粛に。それでも通常業務の合間に社員の姿を撮って共有していたそうで「いつものノリで撮ったのが、あ、これ使えるな、としてみたら、あんな話題になってしまって」と苦笑します。
あまりに反響が大きく問い合わせも多く寄せられたため、1回限り同じ配合で同量(約600本)を作り、同じ価格で30日から直売店のみで販売することにしたそうです。
「間違ったのが焼肉のタレの窯で良かった、というところですが、そうはいっても失敗作なので…。もし市販の辛いタレと比べても美味しいというお声を多く頂戴できれば、ちゃんとした価格で商品化する可能性もなくはないですが」と佐々木さん。
ちなみに、このタレを買ったTwitterユーザーのおもちとざびえろ(@pYujBNKGJYdfKfF)さんによると、「17倍辛いと聞いて、辛すぎのでは?と思いましたが、実際には食べれられないほど辛いわけではなく、とてもおいしいタレでした。野菜炒めにしたら辛さもやわらぎ、さらにおいしくなりました」とのこと。
失敗が、思わぬ好結果を生むことは、ままあること。でも、何よりもそれを怒らず笑いに変えてくれる職場だったからこそ、生まれた幻の一品。ぜひ、商品化の日を待ちたいものです。