「この子が私の生きる力」病気のお母さんを励まし続けた子猫 一目会ったら「もう離れられない」

ふじかわ 陽子 ふじかわ 陽子

入院中に息子からもらう連絡は嬉しいもの。それだけで心細さが薄れます。東京都Y家のお母さんも入院中に福島県で働く息子からの連絡に和ませてもらっていた一人。ある時、普段とは違う連絡が入りました。

「猫を拾った」

添付されていた写真には、お世辞にも可愛いとは言い難い、小さな黒猫が写っていました。一目で体調が悪いと分かります。獣医師の見立てでは、生後3週間ほど。あと1日遅かったら命が危なかったといいます。検査の結果、猫風邪と栄養失調でした。注射を打ったり栄養剤を飲んだり、治療が開始されます。

お母さんは自分の体調の悪さとこの子猫の体調の悪さを重ねました。私以外にもつらい思いをしている子がいる…。そう思うと、今まで感じていた孤独感が薄れたのだそう。「あの子も頑張っているのだから、私も頑張ろう」。病室のベッドの上、気持ちを新たにしたといいます。

その後も息子から毎日猫の写真が送られてきます。最初の2週間は職場にも連れて行って、看病をしながら仕事をしていたんですって。そのかいもあって、子猫はどんどん元気になっていきます。

その写真を見ているだけで、お母さんも元気になっていくような気になりました。「あの子も頑張っているのだから、私も辛い検査も治療も耐えられる」。子猫がお母さんの支えになっていったのです。

家に帰れば、猫は3匹います。その子たちも可愛いけれど、あの子猫は特別。自分に「福」をくれるような気がしていました。

子猫がすっかり元気になったころ、お母さんも退院。それからも、息子からの子猫の写真は送られてきており、なんだか会ったこともないのに自分の家の子のような気が。

そう思い始めてきていたある時、息子が3週間の長期出張に出ることになりました。調べてみるとペットホテルも現実的な値段ではありませんでした。そこで実家に預けようと、福島県からわざわざ東京都まで帰ってきました。お母さん、いよいよ初めての対面です。

「可愛い!」

ようやく会えたあの子は、本当に愛らしく特別な猫のように思えました。それでも息子の猫だからとグッと我慢し、家の猫とは交流させず、別室で預かることにします。別室ですから、猫と人間1対1の関係。思う存分、一緒に遊びました。離れても記憶に残るように。でも…

「いいや、やっぱり返したくない!」

お母さんの気持ちは爆発。出張から帰ってきた息子に譲ってくれるよう交渉しました。

息子はというと、瀕死の状態から一緒にいたのだから離れがたい。それでも、また出張が入るかもしれないし、下手なところに里親に出すぐらいなら…と子猫を譲る運びとなりました。

お母さんはガッツポーズ!新しい名前も用意しました。その名前は「福太郎」。自分や家族に「福」をもたらしてくれる子だから、この名前にしたんですって。

福太郎くんがお家に来てからはというものの、入院するほど病状が重かったお母さんはどんどん元気になります。完治はしていませんが、今までのような体の辛さはありません。それもこれも、福太郎くんがいてくれるから。

一方福太郎くんは、今まで1匹で過ごしていたのが、3匹の先住猫と過ごせるようになってとても楽しそう。

兄貴分のこたろうくんは優しいし、姉貴分のハナちゃんは賢くて勉強になる。ハナちゃんがお座りとお手をするので、福太郎くんも真似するようになったんですよ。もう1匹の兄貴分のたままくんとの関係も良好です。

お母さんが福太郎くんに望むことはただ一つ。

「元気で長生きしてほしい」

そのためには、自分の病気とも上手く付き合い、ちゃんと福太郎くんを見送れる状態になりたいといいます。自分が福太郎くんに見送られないようにだけはしたい。

きっと、お母さんの望みは叶うでしょう。だって黒猫は古来日本では邪を払い福を招くものなのですから。福太郎くんもきっとお母さんのためにそうしてくれますよ。

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