本当にあった怖い話を100円で売り買いする「怪談売買所」とは? 怪談作家の店主を直撃!

鶴野 浩己 鶴野 浩己

兵庫県尼崎市・杭瀬中市場にある共同古本店「二号店」。その軒先に、100円で怪談を売買する「怪談売買所」が出店し、話題になりました。

投稿したのは、この古本店の企画者である若狭健作(@wakasakensaku)さん。

「はあ?怪談売買所?」と訝しみつつ100円で怪談を買ってみたところ、とても奥の深い体験になったというツイートに3.8万件の「いいね」が集まりました。

若狭さんによると、買った怪談を奥様に披露してみたところ、「不思議な話だね!」と面白がってくれたうえに、「記憶をたどれば、そんな不思議な体験を思い出すかもしれない…」と、昔の記憶を必死に思い起こすようにもなったのだとか。オカルトに興味のなさそうな人までも楽しませる「怪談売買所」とはいったい…?出店者の宇津呂鹿太郎(@shikataroutsuro)さんに伺いました。

 

――宇津呂さん、あなたはいったい何者ですか?

怪談作家の宇津呂鹿太郎と申します。怪談による町おこしや文化の継承を目的とした「NPO法人宇津呂怪談事務所」の所長も務めておりまして、怪談ライブで怪談師としてお話もさせていただいています。

――なるほど。しかし、なぜ「怪談売買所」なるものを出店されたのですか?

僕が扱うのは怪談の中でも実話のみなので、ネタを仕入れるにはいろんな方の話を伺う必要があります。そこで、新たな怪談との出会いを求めて、2013年6月に尼崎市・三和市場のイベントスペース「とらのあな」で怪談売買所を初出店しました。

出店前は正直、「こんな怪しい店、誰も来てくれないだろうな」と思っていたのですが、予想外にお客さんが来てくれて。売った人も買った人も喜んでくれたし、ライブと違って1対1だからダイレクトに反応が返ってくることも僕としては嬉しかったんです。そこで現在まで、三和市場での出店を続けさせていただいています。今回の「二号店」は初出店でしたが、つないでくれたのも三和市場のお客様です。

――改めて、怪談売買所のシステムについて教えてください。

お客様と僕が、膝と膝を突き合わせて怪談実話を語り合う場です。怪談は、売るのも買うのも1話100円。基本的に時間制限は設けていませんが、混み合っているときは1組15分までにさせてもらっています。実話であればどんなに短いお話でも買いますし、売るときは、「山の怪談」「学校の怪談」「妖怪系」など、希望のジャンルを伺ってからお話しさせてもらいます。

――怪談話のストックはどれくらいあるのですか?

ざっと700話くらいです。怪談売買所だけでも500くらいは集まりました。ただ、すべてが外に出せる話というわけではないのです。僕は買い取るときに必ず「このお話を本やライブ等で人に話してもいいですか?」と確認するのですが、中にはOKされない方もいらっしゃいます。もちろん、外に出すときは個人が特定されないように配慮しますが、そのお話の重みや大切さは人それぞれ違う。ですから公開NGの場合は、買い取った僕の中で留めます。

――売る方、買う方、どちらの方が多いですか?

売りに来られる方が多くて、7割くらいはそうですかね。人は不思議な体験をすると、誰かに聞いてもらいたいものなのかもしれません。真剣に話してくださる方も多くて、「やっと話せてスッキリした」と言ってくれることもあります。一方で、買われる方は「怖かった~」「おもしろかった!」と喜んでくれる方が多いです。対面で怖い話を聞く機会なんてあまりないと思うので、新鮮なのかなと思います。お化け屋敷やジェットコースターを体験した後に、怖かったけれど笑顔になる…、そんな感覚なのでは?と感じます。

――宇津呂さんが怪談に魅せられたきっかけは?

物心つく前から好きだったようで、よく両親や祖母に「怖い話して」とおねだりしていました。それは社会人になってからも続いていて、知人などからずっと怖い話を集めていたんです。それであるとき、怪談コンテストというのをネットで発見したのですが、当時僕が勤めていたのが結構なブラック企業でして(笑)。執筆する時間が取れず、初年度は応募を諦めました。だけど2回目が開催されると知って、思い切って離職。書けるだけの作品を書いて応募しました。

――そこから怪談作家としてデビューされたのですか?

いえ、毎年入選して傑作選には載せてもらっていましたが、それだけで食べていけるわけでもなく、アルバイトでしのいでいました。そんな中、大阪で開催された怪談師オーディションに合格し、まずは怪談師としてライブデビュー。その後、角川書店ブランドの怪談専門誌「幽」が開催した怪談実話コンテストに入選して、プロ作家デビューの道が開けました。あのブラック企業にそのまま務めていたら身体がもたなかったと思うので、まさに怪談に救われましたね(笑)。

――宇津呂さんを救った怪談という文化は、どんなところが魅力ですか?

怪談って、戒めや教訓を込めて生まれているところがあって、そういう意味では人々の生活を豊かにする要素が含まれているんです。平安時代の書物にはすでに怪談話が残されていますが、怪談という文化が現代まで残っているのは、学びがあって、必要とされているからこそだと僕は思う。下世話なものとか、非科学的なものとして雑に扱われることも多いですが、プラスの側面もあることをたくさんの人に知ってもらいたいですね。

――怪談売買所は、怪談の魅力を広めることにも一役買っているのですね。

僕はそう思っています。体験談である怪談実話は、その土地ごとの文化や歴史が反映されるのも面白いので、いずれは日本各地で出店したいですね。たとえばカリブ海のハイチでは、今でも狼男が出ると言われているそうなんですよ。「ほんまかいな」って思うけれど、話してくれた留学生の方はすごく真剣だった。だから国内でも、いろんな場所で怖い体験談を集めていきたいです!

 ◇ ◇

取材の最後に、筆者もひとつだけ思い出せた不思議な体験を買い取ってもらいました。やわらかな物腰ながら、くるくると表情を変えながら興味深く話を聞いてくれる宇津呂さん。取材終了後には、若狭さん同様に「ほかにも不思議な体験はなかったかな…?」と記憶をたどりはじめた自分がいました。

これが怪談の魅力なのか、それとも宇津呂さんの人間力なのか…?答えはわかりませんが、少なくとも、怪談売買所に魅せられた人間がここにひとり増えたことは確かなようです。

※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、怪談売買所ではアクリル板を設置中。また、マスク着用と検温のご協力をお願いしています。

 

▽怪談売買所 出店情報

■三和市場 イベントスペース「とらのあな」
7月10日(土)、11日(日) 14:00~21:00
※毎月第2土曜日と、その翌日の日曜日に定期出店

■杭瀬中市場 古書店「二号店」 11:00~19:00
7月17日(土)、18日(日)

▽怪談ライブ『怪談作家が語り尽くす実話怪異体験談〜 仏滅2021〜』
7月14日(水)19:00~ 場所:ロフトプラスワンWEST
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/west/182447

▽ポッドキャスト「100円で買い取った怪談話」
https://open.spotify.com/show/3fbG6eXxGBefADnBzWz4XI

 ▽NPO法人宇津呂怪談事務所
http://kwaiutsuro.org/archives/160

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