接種率1位独走の和歌山、仁坂知事が取ったビシビシ作戦とは 大臣には「ワクチンください」と直談判 

単独インタビュー<後編>

渡辺 陽 渡辺 陽

新型コロナワクチン接種率1位を独走している和歌山県。他府県が打ち手の数が足りない、予約がうまくいかないと慌てふためいている中、スムースにワクチン接種が進んで、在庫が足りなくなったと言います。秘策はあったのか。まいどなニュースは、和歌山県の仁坂吉伸知事に単独インタビューしました。

開業医が多いから接種率1位なのではない

――ワクチン接種全国1位ということで注目されています。

仁坂吉伸知事(以下、仁坂知事) コロナの抑え込みに成功したのは人口が少ないからだとか、ワクチン接種率が高いのは開業医が多いからだとか言う人がいますが、まったく失礼な話です。

和歌山県全体と神戸市の中心部、どちらが開業医の数が多いと思いますか。和歌山県のほうが多いかもしれませんが、それほど変わらない。東京23区と和歌山市だと、東京23区のほうが10万人あたりの開業医の数が少し少ないのです。

和歌山市は昔栄えていたので開業医が結構いました。そのため、いまも開業医が多いのです。しかし、その人たちがぼーっと遊んでいたら、東京みたいに全然進まないでしょう。東京23区で開業医の人に、『協力してくれる人がいたら手を上げてください』と言っても、すごく少ないと思います。

私なら、東京23区は掛け声をかけてガンガン個別接種しよう、八王子など人口が少ない地域は医師も少ないから集団接種をしようと言いますが、全然やっていない。何もしていないのです。区に任せて適当にやってもらっているだけだ。区も、何割の開業医をリクルートして協力してもらっているのですかというと、全然やってもらっていない。集団接種が多い。ですから、和歌山県は開業医が多いからうまくいっているわけではないのです。

県庁が統括「遅れることは許さん」

――どのような接種体制で臨まれたのでしょうか。

仁坂知事 和歌山県はもともと最後の決め手はワクチンしかないと思っていたのです。政府が今年の初めに、3億人分くらいワクチンを確保していると言ったので、よしよし、後は接種体制を整えてやればいいと思いました。

実際、今年の初めくらいから、次はワクチン接種だと言ってビシビシやっていたわけです。ビシビシとはどこのビシビシかというと、医療関係者は県の直轄で、高齢者は市町村にやらせるという国の方針にのっとって実施しました。

しかし、市町村がやると言っても丸投げしてはいけない。和歌山県には30の市町村があるのですが、みんな実態が違うのです。和歌山市は開業医が多いし、人もいっぱい住んでいて一番大きい。一方、山間部は医師も住民も少ない。従って、和歌山市は個別接種、山間部は集団接種にしたのです。山間部は高齢者が多いので、『みんなに来てもらえるか』と尋ねたら、『いやいや、ちゃんと迎えに行きます』と言って、町の職員が迎えに行ったのです。そういう努力をして打ち始めました。また、面積が小さく、人口も非常に少ない地域では、隣町の人も集めて一緒に集団接種しました。

みんなバラバラのやり方でやるのですが、それを県庁がしっかりグリップしていて、『遅れることは許さん』と言っています。だから、ワクチンさえくれたらワーっと進むのです。

政府に「早くワクチンをください」と要求

――国は定期的に全国の都道府県にワクチンを送っていますが。

仁坂知事 和歌山県の接種率は日本一ですが、ワクチンは接種率に関係なく、1クールごとに全都道府県に決められた量が発送されました。すると和歌山県ではワクチンの在庫がなくなってしまいました。接種率が高いということは、在庫が一番少ないということです。いまの接種率はワクチンの供給を待たされたのでちょっと止まっています。ワクチンが来る保証がないと予約も取れない。1回目を打ったら2回目も打たないといけませんし。

じつは一昨日(5月31日)の夜、河野太郎ワクチン担当大臣に『なぜ和歌山県を待たせるのですが。ワクチンをください』と言ったら、たくさんもらえました。接種率の高い5県だけ言い分に従って送ってもらえることになったのです。それでいま、「全軍突撃!待つ必要はない、行け~!」ということで30市町村ワーッとやっています。弾はくれるみたいだ、次々行けと。

――打ち手の数は足りているのでしょうか。

仁坂知事 他府県では打ち手の医師が足りないと言っていますが、全然そんなことはありません。みんな心を込めて説得したら言うことを聞いてくれます。県民のため、世の中のためです。協力してくれないところがたくさんあって、医師の数が足りないから歯科医師を使うとか馬鹿なことになっている。一体どういうことなのか、恥ずかしくないのかと思っています。そう思っていたら、和歌山県は開業医が多いからやれるのだと言われるので腹が立ちます。心をこめて説得して、みんなが協力してくれるからできるのです。開業医の数が多いとか保健所を減らさなかったからだとか言われますが、それは前提条件ではあるが関係はない。

和歌山県はかなりベースができていますが、和歌山市のように人口が多いところは、もっと早く終わらせようと思うと、モデルナのワクチンを調達して集団接種したらいい。私の仕事はモデルナのワクチンをもらってくることです。変異株のスピードは想像力を超えていました。ワクチンを早く打ってしまわないと。

◆仁坂吉伸(にさか・よしのぶ)1950年10月2日生まれ。和歌山県和歌山市出身。東京大学経済学部を卒業後、1974年に通商産業省に入省、1999年経済企画庁長官官房企画課長、2002年同省製造産業局次長、2003年ブルネイ国大使。2006年和歌山県知事、現在4期目。家族は妻、一女。

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