自動販売機から子猫が出てきた! 夏の日に出会ったマダラちゃん「虹の橋のたもとで待っててね」

ふじかわ 陽子 ふじかわ 陽子

岐阜県のK家の庭には、1本の桜の木が植えられています。お父さんはこの桜の木で花見をするのが、毎年の楽しみです。

この桜の花を咲かせているのは、K家の一人娘だったサビ柄のマダラちゃんです。2018年3月3日に虹の橋のたもとへ旅立ちました。桜の花のように可憐で儚い女の子だったようです。

マダラちゃんがK家に迎えられた日は、2010年の暑い日でした。空には入道雲、何もさえぎる物がない田んぼのど真ん中には容赦なく太陽の光が照りつけます。そんな場所の自動販売機のそばに、マダラちゃんと兄弟たちは捨てられていたのです。

突然の夕立のあと、そこを車で通りかかったのがK家のお父さんです。普段見慣れている場所に段ボール箱が置いてあることを不審に思い、車を停めました。すると、自動販売機の下からわらわらと子猫たちが出てくるではありませんか。

この子猫たちは、「目は開いている」というぐらいの月齢。その子たちが我先にとお父さんによじ登ってくるのです。全部で4匹。もうビックリです。恐らくこの子たちが段ボール箱に入れられていたのでしょう。

とりあえず、この後の予定はキャンセル。子猫たちを車に乗せ、自宅に戻ります。運よく地元の保護猫団体に連絡がつき、里親を探してもらうことになりました。

ところが、サビ柄のマダラちゃんは里親さんが見つかりません。仕方なく、K家の子になることになりました。といっても、お父さんはすでにマダラちゃんにメロメロになっていましたから、本当に「仕方なく」なのかは不明です。

マダラちゃんは他の兄弟に比べ、一回りほど体が小さく食が細い子でした。キャットフードはもちろんのこと、魚も肉も嫌い。またたびも嫌い。でも、とうもろこしだけは違います。器用にポリポリと食べたのだそう。

けれど、とうもろこしは一年中出回っているものではありません。秋口にはなくなってしまうので、またマダラちゃんは食が細い猫に逆戻り。

こんなマダラちゃんに少しでもご飯を食べてほしいという思いから、一緒の食卓を囲むことにしました。マダラちゃんのご飯もお膳の上、お父さんと向き合ってご飯です。これにはマダラちゃんも大喜び。お父さんと一緒ならご飯を食べます。

寝る時もマダラちゃんはお父さんと一緒。寝る前には、お父さんのあごひげを毛づくろいしてくれたんですって。これだとドアップのマダラちゃんの顔が見られて、とても嬉しかったとお父さんは言います。ちょっと変な表情になるみたい。

実はK家、お子さんのいない家庭。お父さんは普段、仕事のあとははしご酒でした。マダラちゃんが来てくれたおかげで真っ直ぐ帰宅するようになったんですって。夫婦はマダラちゃんを中心に会話が増えていきます。すると、今までギクシャクしていた夫婦仲が良くなったとか。

2人と1匹の幸せな生活がいつまでも続くと思っていました。2018年2月下旬、マダラちゃんが突然パタンと倒れてしまったのです。急いで病院に行きますが、腎臓が弱っていてもう手の施しようがないと。今夜が山と告げられます。

お父さんは大きなショックを受けました。とうもろこしが悪かったのか、何が悪かったのか……。何より、マダラちゃんがいなくなる生活が考えられません。

それでも明日も仕事があります。しかも、当時は立て込んでいたため10日先まで休みがなかったのです。お父さんはマダラちゃんに言いました。

「休みまで頑張ってほしい」

マダラちゃんはつらい体ながらも、尻尾で返事をしてくれました。その約束通り、マダラちゃんは土曜日の夜、虹の橋のたもとに旅立ちました。お父さんとお母さんに見守られて。2018年3月3日のことでした。

マダラちゃんは庭に埋葬され、その片脇には桜の樹が植えられました。この桜は、次の年から花を咲かせ、お父さんとお母さんの心を慰めてくれます。夏になると、とうもろこしを御供えです。

お父さんは桜の樹を眺めながら言います。

「もうちょっと待っていておくれ」

枝が風に吹かれ、少し動きました。それは、マダラちゃんの尻尾のお返事のように。

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