新型コロナウイルスのワクチンを常温のまま放置し960回分の廃棄を招いた神戸市が、記者発表資料に「指示が配送業者内において配達員に徹底されていなかった」と記載したことに対し、配送業務を請け負ったバイク便カーゴ便の「セルート」(東京都)が「事実は異なる」「市の運用指示に反した事実はございません」とする見解文を20日までに、自社サイトで公開しました。市の発表内容を真っ向から否定する反論が、物議をかもしています。まいどなニュース編集部の取材に同社は「追って説明の場を設けます」と同日午後、会見を開くことを明らかにしました。
神戸市のサイトによると、5月11日午前中、委託する配送業者が市内の3カ所の集団接種会場に運び込みました。配達員はワクチンが入った発泡スチロール箱を保冷ボックスから取り出し、会場の委託スタッフに渡しましたが、この際、ワクチン入りの箱が最長で3時間、常温のまま置かれていました。ワクチンは常温で解凍した場合は、2時間以内に薄めなければ接種に使えないことになっており、放置された960回分について廃棄することになりました。
このミスについて市は翌12日の記者資料提供の中で、事故の発生状況について〈集団接種会場では、現地スタッフ(委託)が配送業者より保冷ボックスに入れたままワクチンを受領し、保冷庫の鍵を管理する集団接種時における責任者(市職員)が出務してから、保冷庫にワクチンを格納する、という運用方法により実施していました。本市から配送業者および委託事業者に対して、当該運用方法について指示をしていましたが、その指示が配送業者内において配達員にまで徹底されておらず、配送員が配送時に保冷ボックスを回収してしまったため、常温状態となってしまいました。〉と記載。明言こそしませんが、配送業者が運用指示に反して保冷ボックスを回収したことがミスの原因であると示唆する文章で、事実、配送業者の手違いを報じたメディアもありました。
セルートが公開した「神戸市からの記者発表資料「集団接種会場における新型コロナワクチン管理上の事故が発生しました~管理温度の逸脱~」に関する弊社の見解について」によると、保冷ボックスの扱いについては〈本件事故が発生した令和3年5月11日時点において、神戸市の配送業者に対する指示は、ワクチンの配送にあたっては保冷ボックスを回収するよう求めるものであり、保冷ボックスに入れたままワクチンを現地スタッフに渡すよう求めるものではありませんでした〉と記者資料とは180度異なる内容です。
同社は8日朝から集団接種会場へワクチンを配送しており、〈この時点においては同市より従前指示されたとおり保冷ボックスを回収する手順でワクチン配送を行い、集団接種会場において委託業者にワクチンを問題なく受領頂いております。〉と記述。さらにミスが発生した11日夜に、市が運用指示を変更したことも明かしており、こうした経緯を踏まえ、〈弊社は同市の運用指示を忠実に遵守したものであり、記者発表資料のような、同市の運用指示に反した事実はございません。〉と述べています。
〈記者発表資料が誤解を招く内容であること、弊社を含む関係者に事実を十分確認しないまま一方的に作成されたものであり、弊社および関係者の名誉・信用を著しく毀損する〉として、セルートは市に抗議を申し入れ、それに対し、市は当初〈記者発表資料の修正案を作成し、それを弊社に交付し、改めて修正の記者会見を行う予定であると説明していた〉。しかしその後、〈同市においては前言を撤回し、一旦出した記者発表資料の修正はできないとの対応に帰着することとなった旨の報告を受けました〉。このため、同社は見解の公表に踏み切ったという経緯も明らかにしています。