新型コロナウイルスの感染拡大に伴う3回目の緊急事態宣言により、映画館が休業要請の対象となっていることに抗議する「サイレントスタンディング」が5月14日夕、大阪府庁前で行われた。大阪の映画関係者や映画ファンら約40人が「補償はない 説明もない ありえない!」「#映画館への休業要請に抗議します」などのメッセージを無言で掲げ、映画業界が立たされている窮状を訴えるとともに、要請の見直しを求めた。
大阪府は床面積が1000平方メートルを超える映画館に休業を要請。1000平方メートル以下の映画館にも営業時間の短縮や酒類販売の自粛などの協力を依頼している。このため大阪では、一部のミニシアターが時短営業を続ける一方で、大規模商業施設に入居するミニシアターやシネコンは営業できないというちぐはぐな事態に。そもそも映画館ではこれまでクラスターの発生は確認されていないといい、関係者の間でも「要請の科学的根拠が不明確だ」などの声が上がる。
抗議に参加した大阪市内の映画館スタッフ小坂誠さんは「この1年、どの映画館も感染症対策に気を配り、血のにじむような努力をして『感染者を出さない』という実績を築いてきた。それが今回の休業要請では一切考慮されていない」と不信感を募らせる。
「もちろん感染を抑え込むためにも、要請自体が悪いと言いたいわけではありません。大阪府の職員の皆さんがコロナ対応で大変なのもわかっているつもりです。しかし補償の制度設計もきちんとできていない中で、『人流抑制』というキーワードで計画性もなくひとくくりにされ、映画館の個別の事情がほとんど無視されているこの状況はおかしいと思います。休業を要請される側にとっては、本当に死活問題なんです」
関西の名物映画宣伝プロデューサーとして知られる松井寛子さんは、休業要請の影響が映画館だけにとどまらず、製作や配給、宣伝など、映画に携わる広範囲の人たちに及んでいる現状を憂う。
「映画館が閉まっている期間、作品は当然上映できず、公開時期が後ろにずれていきます。すると待機作が“渋滞”するので上映回数が減らされたり、そもそも上映されなくなったりするかもしれないんです。新作の公開スケジュールが無茶苦茶になっている今、映画館の番組編成や配給の人たちは本当に大変やと思いますよ」と話す。さらに「営業できるところとできないところがあるのも、映画館にとっては理不尽な線引き」と指摘し、「映画館での感染リスクは低いのだから、開けさせてほしい」と語気を強めた。
一方、映画監督の今井いおりさんは「飲食店をはじめ、あらゆる業界が軒並み深刻なダメージを受けている中で、決して『映画文化だけ助けてくれ』と言いたいわけではありません」と念押ししつつ、「それでも私のような自主制作の人間にとっては、特にミニシアターは貴重な発表の場。休業を求めるならせめて補償はきちんとしてほしい。ここに立つことで少しでも力になれるなら、と思って参加しました」と話していた。
「サイレントスタンディング」は、コロナ禍を機にミニシアターへの公的支援について考えるプロジェクト「SAVE the CINEMA」の活動の一環。数日前に東京都庁前で実施されたのを受け、「映画館や文化芸術施設が置かれている状況を可視化しよう」と大阪でも有志が連帯して立ち上がった。