客観的なドキュメンタリー?「ないよそんなもん!」 金言連発の池谷薫監督オンライン塾が熱い

黒川 裕生 黒川 裕生

中国残留日本兵を描いた代表作「蟻の兵隊」(2005年)をはじめ、人間の尊厳を問うドキュメンタリー映画で知られる池谷薫監督(神戸在住)が、地元・神戸の元町映画館を拠点とするオンラインのドキュメンタリー塾を開講した。自身が手掛けた作品を題材に、「ドキュメンタリーを撮る」ということの覚悟や対象との向き合い方、撮影・編集のテクニックなど、あらゆるノウハウを徹底的に明かしていく濃厚な2時間。5月13日の初回は180人が受講し、「ドキュメンタリーはカッコ付きの『フィクション』」「客観なんてクソ食らえですよ」と言い切る池谷監督の熱い語り口が大好評を博した。

5月13日から隔週木曜の19時スタート。7月8日までの全5回で、毎回1本の作品を取り上げる。参加者は事前に題材となる作品本編をオンライン視聴。当日はZoomの画面共有などを使い、本編の特定の場面を見せながら池谷監督がピンポイント解説する。講座は後日、アーカイブ視聴も可能。

初回に扱ったのは、文化大革命に翻弄された父娘の再会を描いた「延安の娘」(2002年)。数々の映画祭で賞を受けた感動作だ。

7年もの歳月をかけて、生まれてすぐ父に捨てられた主人公・海霞(ハイシア)を探し出したという池谷監督。涙、涙の再会になると思いきや、父親が裸のだらしない格好で生き別れの娘を出迎えたので目を丸くしたという。「でも現実ってこうなんです。シナリオでは書けない、予想もしないことが起きる。この面白さこそがドキュメンタリーだよね」と振り返った。

文革が中国の人々に残した深い傷を海霞らに仮託して浮かび上がせていく中で、池谷監督は「感情を揺さぶる演出、編集の工夫を随所に施している」と強調。「ドキュメンタリーに“客観的な視点”なんてない。カメラが現実を動かしていくんです。だから、対象に『撮らせてもらっている』間は作品なんて撮れません。『一緒に作品を作る』という関係にならないとダメ」と自身のドキュメンタリー哲学を熱く説いた。

他にも、一発勝負であるカメラの切り返しや、絶妙なタイミングでのズームイン/ズームアウト、音楽の使い方などにも注目すると、作品のドラマ性や作り手が込めた思いをより深く味わうことができる、と鑑賞のコツを伝授。純粋に作品を楽しみたい人だけでなく、映像を生業にしている人や作家を志す人たちにも響く刺激的な内容となっていた。

次回は5月27日19時、鑑賞作品は「蟻の兵隊」。専用サイトで事前に申し込み、送られてくる本編URLで当日までに視聴しておくのがお勧めだ。受講料(本編オンライン視聴込み)は一般2000円、学生1000円。

■申し込みサイト■
 https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/022fugz1w0k11.html

以降は6月10日「ちづる」/6月24日「先祖になる」/7月8日「ルンタ」を予定。受講料は1回ずつ必要となる。

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