アニメ界の二大巨頭・高畑勲と宮崎駿がコンビを組んだ名作アニメ『アルプスの少女ハイジ』が、まさかの18禁血まみれウルトラバイオレンス映画に!? しかも世界各国から2億9千万円ものお金が集まったという。…一体どういうことなのか? ヒロインは『もののけ姫』をこよなく愛するテコンドー黒帯2段の腕前らしい。恐る恐るインタビューした。
現れたのは綺麗なお姉さん
イギリスとのオンラインというパソコンの画面越しの対面ゆえ、直接殴られる心配はない。でも怖い人だったらどうしよう。そんな不安をよそに「グッモーニン!」との明るい声色を響かせて画面に現れたのは、茶色がかったロングヘアを肩に流したきれいなお姉さん。7月14日から日本公開されるスイス映画『マッド・ハイジ』で主人公ハイジをパワフルに演じたアリス・ルーシー、その人である。
アリス曰く「脚本を読んだ瞬間、これは超ワイドルでぶっ飛んだ作品になると思った」という『マッド・ハイジ』は、高畑&宮崎コンビによるテレビアニメ版同様、スイス人作家ヨハンナ・シュピリの児童書『アルプスの少女ハイジ』を原作にはしているものの、闇鍋のごとく換骨奪胎。天真爛漫な少女だったハイジは24歳のオトナの女性に成長している。もちろんペーターともメイクラブ済だ。
御禁制の闇チーズビジネスに手を染めたペーターは、スイスを牛耳る独裁者マイリの怒りを買い、ハイジの目の前で処刑される。さらにハイジを育てたおじいさんも山小屋もろとも爆死。強制的に矯正施設に入れられたハイジは看守やマッチョな女囚たちから壮絶なイジメを受けるが、同房の少女クララと心を通わせたりしながら、復讐と革命のために立ち上がる…。なんじゃこりゃあ!
クラファンで2億9千万円調達
本編冒頭には、クラウドファンディングで資金を集め、完全なるインディペンデント映画として情熱と映画愛だけを持って製作された旨がテロップで示される。クラウドファンディングでは、世界中から2億9千万円もの資金調達に成功したそうだ。アリスも「私のところに脚本が届く前から『マッド・ハイジ』には世界中のB級映画ファンの情熱が詰まっていたので、これは絶対に参加するべきだと思いました」と、オタクたちからの熱い気持ちを意気に感じたという。
お下劣ホラー映画『悪魔の毒々モンスター/新世紀絶叫バトル』(2000年)にも参加したトレント・ハーガが共同脚本に名を連ねているからなのか、残酷でありながらもどこか能天気でスカッとした作風。高畑&宮崎コンビによるテレビアニメ版へのオマージュもごく自然な形で盛り込まれており、製作陣の本気度がわかる。『アルプスの少女ハイジ』がベースにあるという先入観を抜きにしても、バイオレンス作として完成度の高い娯楽映画といえる。
アリスも「原作である『アルプスの少女ハイジ』は愛溢れる作品であると同時に、正義のために立ち上がる人々の勇気というテーマが根底にあります。『マッド・ハイジ』ではそれが見事に融合されています」と絶妙なハイブリッド感に胸を張る。
カンフー映画好きのお父さんも大喜び
日本刀やスイス伝統の武器ハルバードを手に、憎き男たちを血祭りにあげていくハイジ。スイスの可愛らしい民族衣装と三つ編みおさげ頭、というヴィジュアルから繰り出されるパワフルなアクションのギャップが面白い。テコンドー黒帯2段のアリスがアクションに目覚めたのは、父親の英才教育が理由だという。
「私の父はカンフー映画に関しては超マッド野郎。幼少の頃から父の好きなアクション映画を半強制的に鑑賞させられました。ブルース・リー、ジェット・リー、ジャッキー・チェン…。私がテコンドーを習うようになったのも父の影響です。両親は私が映画でアクションを披露していることに大喜び。『マッド・ハイジ』のDVDもサントラも買ってくれて、ポスターも家中に貼ってくれています」。
あだ名はハイジ…もはや運命
カンフーマニアのお父さんも太鼓判を押すハイジ役だが、アリスはもっと深いところで本作との運命を感じている。「幼少期を過ごしたスペインでは日本のアニメが流行っていて、土曜の朝は『クレヨンしんちゃん』と『アルプスの少女ハイジ』が連続放送。毎週欠かさずチェックしていました。そして夜は母の読むヨハンナ・シュピリの児童書『アルプスの少女ハイジ』を聞きながら寝るのが習慣でした」と作品との繋がりを述懐する。
次のエピソードがミラクルだ。「スペインに引っ越す前はスコットランドにいて、大いなる自然の中で飼い犬と一緒に長時間森の中で遊んでいました。なかなか帰ってこない私のことを両親は“ハイジ”というニックネームで呼んでいました」と奇跡のような逸話を披露。そんな経緯もあって「ハイジ役でオファーされたときは来るべくして来た作品だと運命すら感じました」とアリス自身もビックリしている。
奇跡のドラマはさらに続く。『マッド・ハイジ』は、『風立ちぬ』以来10年ぶりとなる宮崎監督の新作アニメーション映画『君たちはどう生きるか』と同じ日に公開されるからだ。「私は『もののけ姫』が大好きでスタジオジブリをリスペクトしています。そんな私の主演作『マッド・ハイジ』と宮崎監督10年ぶりの新作が同日に公開されるなんて…。日本人はこの日、少なくとも2回は映画館に足を運ぶことになりますね」とアリスは笑う。
宮崎駿監督へのメッセージ
その憧れの巨匠・宮崎監督には「ハロー、ミヤザキさん。『マッド・ハイジ』を観て是非とも感想を聞かせてください。私も『君たちはどう生きるか』を観るのを楽しみにしています」と呼び掛ける。
最後は『マッド・ハイジ』公開を楽しみにしている日本の観客に向けて、劇中で恐怖のアイテムとして使用されるチーズに絡めてご挨拶。「この映画を観る際はチーズを食べながら楽しんでほしいです。もしくはポップコーンにチーズソースをかけるのもあり。ちなみに私の好きなチーズはスペインのケソ・マンチェゴ。ケソ・マンチェゴを拷問道具に使用する映画があったら私を呼んでください。主演を務めますよ!」。
終始明るく朗らかで“マッド”とは程遠かったアリス。今後もアクション作品に挑戦していきたいとのことだが、『マッド・ハイジ』でのキレのある立ち回りと表情豊かな演技からはキラリと光る逸材の兆しあり。超大作映画で再会する日も遠くないかもしれない。