公園で保護しTNRするはずだった、そっくり姉妹猫 足のハンディキャップがわかり、ねこやしきの家族に

渡辺 陽 渡辺 陽

1匹だと思っていたら5匹も

猫のいっちゃんとさんちゃん(11カ月・メス)は、2020年7月21日、埼玉県で猫を保護している村上さんの家の前の公園に突然現れた。14匹の猫を飼う村上さんの家はまるで「ねこやしき」。最初に見つけたのはいっちゃんだった。毎日そこにいて、村上さんがごはんを持って行くと、お腹を空かせているようであっという間にたいらげた。まだ生後半年くらいで、去勢手術を受けたかの目安となる耳カットはされていなかった。村上さんは数日間様子を見ていたが、面倒をみる人もいないため、TNRをすることにした。

数日後捕獲器を用意すると、ものの数十分で捕獲器の閉まる音がした。しかし、のぞきに行くと、入っていたのは全く知らないキジトラの大きな猫だった。「あれ?君は誰?」。もう一台捕獲器をセットするとしばらくしてターゲットの黒白ちゃんが入っていた。ほっとしたのもつかの間、茂みの中からもう一匹同じような柄の子が出てきた。「え??あなたは誰?」。結局、茂みの中には黒白猫が3匹、茶トラ1匹、サバ白1匹の合計5匹がいた。

村上さんは、それぞれ見つけた順に1号、2号、3号、4号、5号と呼び、順次手術をするつもりだった。翌日手術を終えたキジトラくんと1号ちゃんを公園に離し、以降毎日ご飯をあげていたが、2号(黒白)4号(茶トラ)5号(サバ白)はだんだん来る回数が減り、最終的に姿を見せなくなった。

「2号はその後数回、野生動物のように鳥を追いかけている姿を目にしました。新しいテリトリーを開拓し、野良猫としてたくましく生きているようです。捕獲器には絶対に入りませんでした。4号と5号は、可愛らしく懐っこい子だったので、どこかのお家に入れてもらったのでしょうか。そうだといいのですが」

姉妹で一緒に家族になる

無事、さくらねこ(耳カット済み)になった1号は、3号(黒白)と一緒に毎日茂みでごはんを待っていた。1号は行動的で、公園内で遊んでいる姿をよく見かけた。散歩中の犬から「遊ぼう」とアピールされて木に登ることもあった。人間への警戒心は解かず一定の距離を保っていたが、ごはんをくれる人と認識していて、近づくと低い茂みに入って待っていた。3号は大人しくて、いつも茂みの中にいた。1号の陰に隠れるようにしてごはんを食べていた。躊躇している間に食欲旺盛な1号に食べられてしまうこともあり、村上さんはいつもおかわりを持ち歩く必要があった。村上さんは捕獲器の存在を忘れさせるために、しばらく期間を開けて2匹を捕獲するため再度チャレンジした。

9月11日、3号が捕獲機に入った。数日前から前脚をあげて気にする様子があり、いつも以上に警戒していた。手術の時に一緒に診てもらうと、伸びた爪が肉球に刺さって化膿していた。

「外で化膿するほどの怪我をするということは命の危険を伴います。ましてやケンカではなく自分の爪で怪我をするなんて。この先何度も同じことになる危険性を考え、3号は保護することにしたんです」

1号と3号は、2匹で寄り添って生きてきた。村上さんは悩んだ挙句、2匹一緒に迎える決断をした。しかし、一度捕獲器で捕まった経験のある1号はなかなか捕獲器に近づかず、結局保護できたのは3号に遅れること10日の9月20日だった。

「その後、3号の里親になりたいという人が現れ、その方向で話を進めていたのですが、直後に股関節の異常が見つかったため見送られたのです。こうして2匹とも正式に「ねこやしき」の家族になりました」

人間と猫の我慢比べ

先に家に来た3号は初めの日こそ鳴いていたが、基本おとなしく攻撃性もなかった。1号が来るまでの10日間でだいぶ環境には慣れたようだった。1号は、保護から3週間ほど大きな声でずっと鳴き続けた。

「保護猫を家に入れることの第一関門としてこの鳴き声があると思います。外に出たい、と鳴いている猫と人間との我慢比べでしょう。無理に家に閉じ込めていることへの罪悪感も感じ耐えられなくなる人もいるのだと思います。ですが、この期間を我慢できたら、確実にお家の子として慣れてくれます」

外にいた時の識別記号的につけた1号と3号という呼称。いっちゃん、さんちゃんで認識できたようなので、正式な名前はそのまま「いち」「さん」にした。

2匹を抱っこできる日を夢見て

いっちゃんはまだ若い猫らしく、好奇心旺盛ですぐにおもちゃに反応した。隔離期間が明けてからは家中あちこちを探検してまわり、他の猫たちへの挨拶まわりもして、早々に「ここが自分の居場所」だと決めたようだった。さんちゃんは足にハンデ(股異形成、骨代謝異常)を抱えているため、動きが制限される分、何をするにも慎重だ。 ちょこまかと小股で歩く姿は少しぎこちなく、高さ30cmの段差のジャンプも躊躇するし、降りるときも20cm程度でないと飛び降りない。

猫同士というのはハンデのある子への優しさが溢れており、みんながさんちゃんのことを見守り、受け入れている。特に、いっちゃんは自分が遊んでいる最中でも、さんちゃんが探検を始めると必ず近くに行って見守る。

「助け合って生きてきた姉妹猫。守ってあげる存在だと思っているようでとても微笑ましいです」

 いっちゃん、さんちゃんを迎えた時、14匹の先住猫がいた村上家。「さすがに猫が多すぎて先住猫たちにもストレスがかかるため、この子たちは公園猫として面倒を見るつもりでした。ところが、さんちゃんが怪我をしたので保護を決断。最初は里親を探しましたが、結果としてうちの子になりました」

村上さんの心配は的中し、ストレスを受けた先住猫がいてちょっとした問題が発生したが、村上さんはみんなが楽しく過ごせるよう、キャットステップやキャットウォークを増設したり、トイレやベッドなどの環境を整えたり遊ぶ時間を増やしたりした。

いっちゃん、さんちゃんが家の生活に慣れるにつれて問題も減っていき、保護から半年以上経った今ではみんなが仲良く過ごすことができるようになったという。

「スペースには限りがありますが、その中でどうすれば楽しく過ごせるか、これからも模索を続け、みんなにとって“外より楽しい我が家”にしていきたいと思っています」

保護から7カ月経ったが、まださんちゃんはほとんど触れない。いっちゃんは撫でられるようになったが、抱っこはできない。

「それでも少しずつ進歩するのがとても嬉しくて、何年かかるか分かりませんが、2匹の抱っこを夢見て日々楽しく過ごしています」

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