「何か鳴き声がするよ」駐車場で見かけたダンボール 入っていたのは…出産して間もない栄養失調の猫

川上 隆宏 川上 隆宏

「ごめん、急ぐね。理由はあとで話すから」「え、どうしたの?」…このままでは死んでしまう。動物病院に必死で車を走らせた日のことを、静岡県に住む榊原さんは鮮明に覚えています。

「はなちゃん」との出会いは、突然でした。今年の5月、近くに住んでいる友人の家族と、スーパーに買い物に出かけたときのことでした。車を止めようとした駐車場に、不自然なダンボール箱があるのを見つけました。

テープはしっかりと十字でとめられていて、最初は、買い物客の忘れ物だろうと思っていました。しかし、様子を見に行った友人の子どもたちの言葉に驚きます。「何か鳴き声がするよ」。

まさか…榊原さんがあらためて確認にいくと、確かにか細い声が聴こえます。開けてみると、そこには弱りきった猫が入っていました。

箱の中には水も餌も入れられていませんでした。飲まず食わずで閉じ込められ、どれだけの時間を過ごしていたのか…。榊原さんは急きょ買い物をやめ、発見した猫を急きょ動物病院に連れていくことにしました。

友人家族たちに突然予定を変えてしまうことを謝りながら、心の中で「この猫を助けたい」…そして「うちの子として迎えよう」と考えていました。

到着した動物病院で診てもらうと、推定年齢4、5歳の女の子でした。栄養失調で貧血気味、そして耳にはカビが生えていました。手入れされていない身体は毛玉だらけになっていただけでなく、出血が見られたほか、首には擦れたような傷が無数にあることも分かりました。

「この子は出産経験があるね。何回かお産させられてるし、最近も産んだのかもしれないね」。繁殖用の猫で、痩せすぎて産めないと判断されて捨てられたのではないか。…そんな獣医師の言葉を聞いて、榊原さんはこの猫への思いを強くしたといいます。

猫を連れて一緒に家までに戻ってきた榊原さん。友人の子どもたちも榊原さんの家に上がり、新しい猫に興味津々です。榊原さんが猫に名前をつけたいと子どもたちに話すと、子どもたちは「はなちゃんがいい!お花みたいな女の子になって欲しいから」といい、名前が決まりました。

夕方になると、近くに住んでいる榊原さんのお母さんもやってきました。実家で空いたゲージがあるので、使うようにと持ってきてくれたのです。ご飯とお水を用意すると、はなちゃんは無心で食べて、飲みました。一段落すると満足したのか…榊原さんに向かって喉を鳴らし、ゲージの中から撫でてとスリスリしてくれました。

無理なお産をさせられたあげく捨てられて…ダンボール箱の中でどれだけ不安な時間を過ごしてきたのだろう。「これまでこんなにも酷い扱いを受けてきたにも関わらず、人間を信じてくれるなんて…はながけなげで、私は泣きました」…榊原さんはそのときの気持ちを語ります。

榊原さんの家には、ほかに犬が2匹、猫が3匹います。猫の3匹はいずれも榊原さんが保護しました。1匹目はペットショップで1年間キャリーケースに閉じ込められていた猫。2匹目はパチンコ屋の駐輪場で発見された猫。3匹目はペットショップに返品されてきた猫といい、境遇はさまざまです。それぞれ「ソルテ」「ティノ」「アース」と名付けていて、日本語で「世界に小さな幸せを」という意味を込めています。そこにやってきたはなちゃん。…名前の通り、世界に華やかさを届けてくれたかのようです。

はなちゃんは最初、ほかの猫とは別の部屋にいましたが、同じ家の中に動物が落ち着いて過ごしている気配に少しずつ安心していったのか、保護して1週間ほどたつと、リラックスしてよく寝るようになりました。今ではみんなとも対面させて、耳のカビの具合を見ながら遊ばせたりしているそうです。

榊原さんは、ここがあなたの居場所だよ、ここにはいてもいいんだよ、とはなちゃんに繰り返し話しかけているといいます。たくさん愛情をかけて、野に咲く花のような可愛い女の子になるように…はなちゃんとの時間を積み重ねています。

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