呼ぶときはいつも下の名前 松本若菜が急逝の名匠を思い返す

石井 隼人 石井 隼人

「佐々部監督は役名ではなく“若菜!”と下の名前で呼んでくれるんです」。それによって与えられた役柄に対して「自分にしかできないキャラクター」という自負が生れるのだろう。

映画『半落ち』『この道』で知られ、昨年3月に62歳で急逝した佐々部清監督の遺作『大綱引の恋』(5月7日公開)に出演する松本若菜(37)がその人柄を偲ぶ。

鹿児島県薩摩川内市で400年以上の歴史を持つ伝統行事、川内大綱引を題材にした純愛物語。松本は武志(三浦貴大)に淡い思いを抱く幼なじみの典子を演じる。

佐々部監督とは『この道』に引き続いての抜擢。「若菜にぜひ演じてもらいたい役がある」と言われて緊張で撮影に臨んだが「佐々部監督は少しでいいと思ったら、すぐに声をかけてくれる。それによって私たちの士気も上がる」と信頼感が待っていた。

通常の撮影現場では役名で呼ばれることの方が多いが、佐々部監督は違った。「役名で呼ばれるとその役の気持ちのままでいられるのでいいですが、佐々部監督はいつも下の名前で呼んでくれました。そこに私は勝手に“若菜にしかできない典子をやってほしいんだ!”と選ばれた理由のようなものを感じていました」と佐々部流演出術を懐かしむ。

主演の三浦とは初共演。「三浦さんは撮影現場でもナチュラルに座長としていてくださって、みんなで一緒に作品を楽しく作ろうというスタンスの方。かといって緩いわけではなく、芝居のしやすい空気感を自然と作ってくれました」と居心地の良さに救われた。

三浦は愛されキャラ。周囲からは親しみを込めて“タカポコ”と呼ばれている。「なので私は勝手に“ポコちゃん”と呼ばせていただきました(笑)。三浦さんは一つのものを極めようとするオタク気質があって、ふとした時に放つ一言二言がとても面白い。どんな脳味噌をしているのか見てみたいです」とすっかり打ち解けた。

佐々部監督に最後に会ったのは、亡くなる約1カ月前。佐々部監督が顧問を務める山口県下関市の海峡映画祭にゲストとして呼んでくれた。「ずっと楽しそうに『大綱引の恋』についての思い出を語ってくださいました。佐々部監督は常に次のことを考える方。次回作の構想も聞かせてもらったりして…」と志半ばでの急逝に鎮痛の思い。しかし作品は記憶にも記録にも残るわけで。なおのこと遺作『大綱引の恋』の全国公開が待たれる。

おすすめニュース

気になるキーワード

新着ニュース