神奈川県小田原市にあるJR御殿場線の下曽我駅前ロータリーに不思議なオブジェがあるとSNSで話題になっている。画像だけでは分からない部分もあり、現地で確認することにした。都内から電車を乗り継いで片道約2時間。田園地帯が広がる郊外の住宅地を訪ね、現場検証した。
下曽我は「日本三大仇(かたき)討ち」のひとつ「曽我兄弟の仇討ち」ゆかりの地で、毎年5月には奇祭「曽我の傘焼きまつり」が行われている。駅の近くには3つの梅林があり、背後には山が連なり、田畑が広がる。話題の作品が置かれた場所は改札とは反対側の西口。東口を出て、線路下の連絡通路を約40歩で抜けると、住宅と小さなスーパーに囲まれたロータリーがあり、その中央の植え込みに作品は鎮座していた。平日の昼下がり、歩く人もまばらだった。
オブジェは台座上に横たわっていた。その体は一見、拘束着か包帯でグルグル巻きにされたような状態でくねらせている。腕はない。あるいは、その中に隠されているのか。ドレスのように両肩を出した状態だ。両足のすね部分には2つの円錐が重ねて置かれている。画像だけなら背後にある建物かとも錯覚するが、現場で見ると足の上に置かれていることがよく分かる。これは何だろうか。手前に置かれた石の板には作者による文章が記されていた。
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空間に浮かんだこの人体は
地上からはるかに遠く
我々見る側からも手の届かぬほど
孤独である
しかし彼女は悲しいのではない
二つの独楽(こま)で均衡を保ちながら
永遠に存在しているだけなのである
(91年)上別府志郎
◇ ◇ ◇
この文章の隣に置かれたもう一つの石板には作者名と共に「90小田原城野外彫刻展入選」として「COMANOGOTOKU」と作品名が書かれていた。「独楽(こま)のごとく」…そう、ひざの上の物体は「こま」だったのだ。そして、性別不明かと思われた作品は「彼女」だったのか。
小田原市文化部文化政策課に問い合わせた。担当者は当サイトの取材に対して「本市では、平成2年秋に開催した『小田原城野外彫刻展』の入選作品を、市内の公共施設などに設置し展示公開しています。『COMANOGOTOKU』は、人間と外界との関係、あるいは人間自身を、均衡を保って回転する『独楽のごときもの』として捉えたユーモラスな作品です」と解説。そのサイズについては「高さ260センチ、幅240センチ、奥行120センチとなります」と説明した。作者の上別府氏は長野五輪のモニュメントなどで知られる著名な彫刻家である。
作品は誕生から30年、この地に置かれて31年の歴史がある。ツイッターでは「猟奇的な臭いがする」という投稿者の書き込みへの反響が多く、リプの中には文章の内容に対して「なに言ってんだこれ」といったツッコミも。詩的にして哲学的、形而上学的な世界観はSNSの世界では「ネタ」として消費されている感もあった。ただ、現地では当たり前の風景として、空気のように、そこに「存在」していた。